少年時代②
郊外を離れた森の中に
簡素な小屋があった。
当時の建築物の基本を準えた石造りの
とても小さな家で
ちっぽけな四角いパンのように見えた。
この家のドアはドワーフの錬金術法の
金属で出来た、唱文が無いと入れない作りに
なっており
この時代では何処からその様な物を
手に入れたのか
簡素な作りの家と宝石の価値の
あるもの
が同じ造りにある
その様な風変わりな事をする教師と
その家の中、
穏やかな木漏れ陽がこの小屋の窓に射し、
なにやら習い事を聴いているらしいフィリアの
顔を照らした。
あの人質事件から幾日かが経った、
彼はこの年齢の貴族院の子なら
寄宿舎制度のアカデミーに入るハズだが
彼の母がそれに反対し代わりに
伝統的の事柄から外れた学び舎に通わせていた。
彼を教育するのは貴族院から少々人柄の評判悪いが
色んな見聞を持つ、ブロンズ先生という
人物だった。今、彼等は魔法学の授業中ならしい。
「先生、父は口ではなにも発しない、口元から
音一つ立てないのです。最近よく注意して
ましたが、やはり唱文の一つも発さない、
それなのにちゃんと魔法が出現する。
それが可能な何らかの技法を使ってるのですかね?」
ブロンズ先生はふむふむっと、考えを巡せながら
嬉しそうに答えた。
「わ、ワタシは君の父さんには会った事は
ないのだかね、前々から人々が彼の技法の噂に
彼の指輪に関する事が多かったね、
わ、ワタシが推測するに指笛唱と呼ばれる
類だと思うよ、唱文の簡略化した音を指輪を
擦り合わせて鳴らし、
魔法を使ってると、ふーむ、、」
先生は首を少し捻ってから会話を続けた。
「私が持っている文献の中では
黒塗りのエルフ王の親衛隊が
使っていた技法が一番それに近いかな、
エゴは何処からそんな技を知ったのだろうね、
君の話を聞くほどお父さんの変わり者ぶりが
解るね、ハハッ、ハッ‥。」
「多分、先生だったら父と話が合うと
思いますよ。」
「フィ、フィリア君、
その技法が気になるんだったら直接エゴに
訪ねてみてはどうかね?」
その質問がフィリアは今まで楽しかった
気分を曇らせてしまった。
「あの人は父ですけど、、
私を息子として見ていないので、、」
少々気まずい雰囲気が流れたが
ブロンズ先生は余り気にせず
彼自身が気になる事を喋り続けた。
それから彼等は二、三十分話し込んだ。
この先生はよく授業内容から脱線してフィリアと
色々な事を話した。
フィリアにとってこの先生が唯一気兼ねせずに
楽しく過ごせる相手だった。
この頃の彼は強い劣等感に苛まされていた。
彼の取り巻く人々、大人達は決して
彼を子供扱いすることは無く、
小さな大人として扱われたが、
上手く相手の期待を満たす事が出来ず
独り鬱ぎ込む日々が続いていた。
「今日はありがとうございました。
では先生また今度の授業をお願いします。」
別れの挨拶をし、
フィリアはドアに障壁解除の唱文を唱え
先生の家を後にした。
空は陽が傾いていた。
フィリアは歩きながらこの前に起きた
奴隷事件の事を考えていた。
「貴方の喋り方を聴いて
大変教養がある方とお見受けしたが
ワタシは昔、ソル国の神官長補佐を
していた者です。
貴殿の振る舞いに
アカデミーに通われてる方とお見受けしますが、
この国の奴隷制度についてどうお考えかな?」
この様な事を聴いてきていた。
今までその様な口調で
彼に語りかけて人物が初めての事だった
彼はすっかり動揺しながら
心の中で
彼は高い身分から身を落とした人物では?
と思いながらある種の考えが脳裏に広がった
自分の隙を作る手段かも?
そうと2つの想いが入り乱れながら
目の前の男の言葉がその時も今も
彼の頭の中にこだましていた。
今の今までアルカディの社会について
考えた事もなかった!
彼は深い感慨の中歩いていたが、
突然強い衝撃を受けて彼は倒れ込んだ。
「痛えな、お前、誰だよ!!」
向こうから走ってきてフィリアとぶつかったらしい
少年はアルカディのアカデミー生の格好をして
いた。
おい、なんだ、どうしたっとガヤガヤ騒がせながら
後から2人アカデミー生らしき男子が
こっちに近寄ってきた。
「イロ!どうした?」
フィリアは面を喰らいながら様子を
観ていた、三人とも自分と近しい年齢の
少年達だと思わせた。
「ロカ!こいつが打つかってきやがったんだ!」
イロと呼ばれた少年が言った。
細面だがしっかりした体格をしていた。
「オイ、お前、コイツに打つかっておいて
なにも言わねぇなぁ、謝ったらどうだ?」
まだ幼年の面影がある顔をしている少年が
言った、ロカと呼ばれた少年だ。
「…僕は道を歩いていた、前は見ていなかったが
でも打つかってきたのはそっちだろ?」
フィリアはハッキリとした口調で言った。
「コイツ!セミリャ、お前後ろ見ててどうだった?
悪いのはイロなんかね?」
ロカはセミリャと読んだ少年に尋ねた、
セミリャは背が高く彼の着ている
アカデミーの制服が縮んで見えた。
「…あのさ、二人共荒ぶってるけどさ
そのちっこい子は何も悪くない
こっちに非があると思うよ。」
セミリャは冷静に答えた。
それを聴いてイロもロカも興奮からさめて
各々下を向きながらお互いに察しあっていた。
「なんだか悪かったな坊主、オレはロカって
言うんだ、こっちの打つかって来たやつが
イロ、こっちのひょろ長いやつがセミリャ、
で、お前の名前は?」
ロカがバツが悪そうにしていたが
その半面開ききった表情で聞いてきた。
「僕はフィリアです、背丈は低いですが、
今年で13なります。」
三人とも一斉にヘェ~と口を漏らした。
「ちっこいからさぁ、もっと下かと思ったよ。
何だ、俺たちの一緒じゃん。」
イロが笑いながら言った。
「でも、唱文用の杖を持ってるけど
アカデミー生じゃないな、
個人の所で習ってんのか?」
ロカが聴いてきた。
「両親の都合でアカデミーには
入らなかったんですよ、代わりに
ブロンズ先生のところへ通ってます。」
そう聞いた途端に三人は
口々に驚きを声を発していた。
「ハハハッ、あの変人研究家の先生にか!
一体、何を教わってるんだよ!
虫を軍隊にする魔法とかか?」
ロカが愉快さを爆発させるように
聴いてきた。そこから暫く彼等は
とても楽しげに談笑し合った。
お前ホントかよ、何なんだそれ?
と10回はロカとイロが
フィリアに言ってきただろうか、
そのくらい時分が過ぎてから
セミリャが一同の輪の中から前に出で
をなだめるように手を大きく振るって
しっかりした物言いをした。
「そろそろお喋りは止めにして
ロカ、イロ、アカデミーに戻らないと
まずい時間になってきてるぜ。」
このセミリャの号令で
何やら興奮覚めやらぬロカが
ハッとした顔をして、慌てたようすになった。
「ちっこい、、えーっとフィリア!
お前フィリアってんだよな!
お前面白いぜ、
明日でも何でもまたお前に会いたいぜ
アカデミーの場所わかるか
お前さえ良かったら
明日の16時に待っててくれよ、
何か面白いものとか持っていくからさ、
待っててよ。
悪いけどコレでじゃあな、」
そう言い終えたことが合図の様に
三人共に走っていった、
そして彼等らフィリアを各々一瞥をくれた。
そんな邂逅があってからフィリアは
静かにまたそれらを思い出し、
考えながら歩いた。
走り出した三人が振り向いた顔は
彼に今までに無い不思議な印象を
与えていた。
心がムズムズと嬉しくて恥ずかしい気分を
同時に感じ、後になって彼は
その時のことをこの言っていた。
喜び、愉しさ、その期待感をとても、
とても、、大きな意味で彼は感じた。