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第18話 延々と廊下

 意外にも扉の向こう側も普通の廊下が続いていた。そのまま進むが、罠が仕掛けてある様子もなく、また、横から何かが飛び込んでくることもない。

「普通に進むだけで済むはず……ないよなあ」

 太上老君の反応から考えても、この廊下がただの廊下のはずがない。しかし、何もないのならば進むしかないだろう。邪魔されないのだから、真っすぐ行けということだ。

 しばらく俺は黙々と歩き続ける。

 廊下は片側が岩肌が剥き出して、もう一方は木で舗装された状態だ。そんな廊下が、折れ曲がることも上がったり下がったりすることもなく、延々と先まで続いている。

「しかし、代わり映えがないなあ」

 だが、一時間ほど歩いてもずっと廊下というのは、どういうことだろうか。しかも折れ曲がらない、上ることも下ることもないというのはさすがにおかしいのではないか。

 ようやく疑問に思って立ち止まった俺だ。

「えっ」

 そして、不思議な光景を目撃することになる。なんと、一時間前に潜ったはずの扉が、すぐ真後ろにあったのだ。

「ええっ」

 まさか一時間、全く動いていなかったというのか。

 いやいや、しっかり歩いていたぞ。

 足が怠いぞ。十分に疲れているぞ。

「どういうことだ」

 ようやく、試練という言葉が重みをもって自分の中に響く。女媧は神農みたいに甘い試練で通してくれる気はないのだ。

「進んでいたのは錯覚。いや、しかし、身体には確かに疲れが蓄積しているし」

 俺はふと、廊下に細工があるのかと思った。しゃがんで廊下を撫でてみるが、駄目だ。全く以て普通の廊下だ。木の触り心地がいいことしか解らない。

「廊下が動くわけじゃないのか」

 てっきりこの廊下が自分の歩く速度に動いて、その場にいるにも関わらず移動した気になっているのかと思ったが、それはないらしい。

「まさかこの扉が目的の場所、じゃないよな」

 気になることは試してみるに限る。俺は扉に近付いて取っ手を引っ張ったり押したりしてみたが、びくとも動かなかった。向こう側から鍵が掛けてあるようだ。

「ううん。どういうことだ」

 俺は解らずに首を傾げるしかない。しかし、ここに鍵が掛けてあるということは、やはり出発した扉だと考えるべきだろう。

「進んでいると思ったら全く進んでいない。幻術だろうか」

 仙人は不思議な技が使えるはずだ。泰山府君が俺を復活させたのもそういう不思議な術の一つである。そう考えると、全く進んでいないのは女媧の術のせいではないだろうか。

「いや、でも、そうだった場合、どうやったら先に進めるんだ?」

 術を破る方法なんて、下っ端武官が知るはずがない。俺はますます困惑してしまう。

ううん、ここはダメもとでもう一度進んでみるべきか。いや、一時間歩いただけでもかなり体力を使っている。何度も試していたら、この扉の近くでばててしまう。

「進んだことが解ればいいんだよな」

 俺はどうにか方法はないかと考え、あちこち眺めてしまう。が、どこもかしこも同じだ。変化がない。

「変化、か」

 何か目印があればいいのではないか。俺はそう思いつくと、誰もいないのをいいことに、上着を脱いだ。

 身体にあった小さな傷や打ち身は、さっきの温泉で治ってしまっている。と、凄いなあと感心している場合ではない。

「とりゃ」

 俺は上着を廊下の端まで全力で投げた。十尺(約三十三メートル)ほどは飛んだだろうか。一先ず、あれを目印に進んでみよう。

「よし」

 俺はゆっくりと、一歩ずつ確認するように歩く。そして十分ほど掛けてようやく上着の落ちている場所に辿り着いた。

「どうだ?」

 後ろを振り向くと、扉は少し遠ざかっていた。どうやら先に進むことに成功したらしい。

「ちょっとずつしか進まないが、これが正解ってことだな」

 俺は上着を拾うと、もう一度全力でぶん投げた。

「おやっ」

 しかし、その上着は何かにぶつかったかのように途中で不自然に落下した。俺は首を捻ったが、ともかく、その上着のところまでゆっくりと進んだ。振り向いて確認すると、ちゃんと扉が遠のいている。

 よしよし。

「何だこれ」

 しかしこの先だ。上着が弾かれたように、俺の身体も先に進むことが出来ない。透明な壁があるかのようだ。

「これをどうやって通ればいいのか、か。どっかに隙間があるのかな」

 俺は仕方なく透明な壁を隈なく撫でていく。すると、壁は全く穴がなかったのだが、左側、岩肌が剥き出しの壁ににゅるっと腕が入った。

「ええっ」

 まさかのこっち?

 俺はずぶずぶと中に入る腕にびっくりしてしまう。


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