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第15話 おかしいだろ!?

「ええっと、俺がさっきまで見ていたのって」

 ということで、ここから確認する。すると、泰山府君は一度大きく頷くと

「幽体離脱をして、この国の現状を見たのだ」

 と宣った。

「えっ」

 現状。ってことはあれ、本当に現在進行形で起こっていることなのか。俺は目を丸くしてしまう。

「ふむ。本当に何も知らずに送り込まれたようだな。現皇帝もなかなか酷なことをする」

「えっ」

 さらに不穏なことを言う泰山府君だ。しかし、横にいる太上老君も難しい顔をしていて、冗談で言っているわけではないらしい。

「あの」

「はっきり言おう」

「はい」

 俺は寝転んだままだというのにぴしっと姿勢を正していた。この混乱から脱出できるのだったら、誰からの指摘でもいい。俺は泰山府君を見つめる。

 横にいる太上老君が焦っているのは――何だか気になるものの――今は無視だ。

「一体何が起こっているんですか?」

「起こっていることは蚩尤の復活だ。そして、お前が蚩尤と戦うんだ。我らが貸せるのは力のみぞ」

 しかし、泰山府君の言葉は俺を救うことはなく、再び意識を失うことにしか貢献しないのだった。




 俺が戦うだって。

 そりゃあ武官ですよ。武官だからいずれは戦うこともあるでしょうよ。

 でも、蚩尤なんて意味不明なものと戦うなんて想定していないんですけど。

「無理だから!」

 俺は絶叫して身体を起こしていた。今度は痛みはなかったが、泰山府君と太上老君の冷ややかな視線が痛かった。

「ええっと」

「礼部が何も伝えなかったのは、我らが力を貸すと本気で信じていたか、それとも、お前にそのまま言えば逃げられると思ったからだろう」

「……」

 寝起き早々、太上老君が止めを刺してくる。俺は再び寝台に倒れ込んでいた。

「おいっ」

「いや、だってさ。ってか、蚩尤って何?」

 崑崙山の道士たちが困るもので、農村部に被害をもたらすものというのは解っているが、よくよく考えてみると、俺は蚩尤なるものが何なのかを知らなかった。

「知らないのに嫌だって叫んだのか?」

「いや、だって、気持ち悪い気配は感じたから」

 太上老君の指摘に、俺は幽体離脱で見た感じで嫌だったからと、人差し指と人差し指をつんつん合わせながら言い訳する。

「気配が気持ち悪いのは当然だ。蚩尤はいわば祟り神だ。国がしっかりしていないと見るや牙を剥く、非常に厄介な存在なんだよ」

「なっ」

 何だって?

 祟り神?

「はるか昔、神代と呼ばれる頃のことだ。かつて黄帝(こうてい)が宣国と同じ地を治めていた時、その蚩尤が牙を剥いたことがある。蚩尤はこの地そのものに根付く呪いのようなもので、邪魔な人間を排除しようと動くことがある。黄帝は非常に強大な力を持ち、また安定した治世を築いていたから、ちょっと乱してやろうと思ったんだろうな」

「ななっ」

 話がさらに凄い方向に進んでいくぞ。

 俺は思わず身を起こし、一体何がどうなっているんだと語る太上老君を凝視してしまう。

「本来は大乱を招く存在だが、その黄帝の時は違った。気に食わないと動き、暴れ回ったんだ。しかし、その蚩尤は黄帝と彼が率いる仙人たちに退治されてしまう」

「ほ、ほう」

「その後は祟り神として崑崙山の中に封印されていたんだが、やはり、治世が乱れるとぞぞっと動き出す。その身から放つ瘴気で土地を痩せさせたり、天候を乱したり、人心の気持ちを乱し、自らが活躍できる場を作り出す」

「う、動き出す」

 俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 予想以上に厄介な相手だ。

 いや、厄介すぎて、そんな奴を倒せるわけないじゃんと思ってしまう。

「で、今回は宣国の安定が黄帝の時と同じように見えたのだろうな。蚩尤は気に入らないと動き出したわけだ。しかし、今回は皇帝自らが動くのは戦を招くとの判断になったのだろう。そこでお前に白羽の矢が立った」

「いやいや」

 途端に話を軽くしないで。

 俺は頭痛がして額を押さえた。

 だって、大昔、黄帝って人は自分が仙人を率いて戦ったんでしょ。

 それが何で下っ端武官がやらなきゃいけないわけ。

 どうして皇帝じゃないのさ。

 おかしいでしょうよ、礼部。

 ひょっとして媚びを売ったのか。

 それとも、昔は昔、今は今、みたいな変な割り切り方をしたのか。


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