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第13話 自由落下

 いやいや、何の納得?

 っていうか、知らない理由はみんながごり押ししてきたからですけど!

 俺はあれこれと言いたいのだが、あまりにもしみじみと言われて、強く否定できずにいた。すると、太上老君が俺の肩をぽんぽんと叩き

「こういう奴です」

 と、説明になっていないことを言ってくれた。

 なんだよ、こういう奴ですって。

「ふむ。まあ、愚直であることから得ることもあるやもな」

 で、女媧は女媧で変な納得をしている。

 いやいや、本当に何の納得?

 俺は開いた口が塞がらないのだが、どちらも仕方がないと頷き合っていた。

 一体どうしてこうなった?

「仕方がないじゃないですか。上司だって大して説明してくれませんでしたよ。文句があるなら礼部に行って死ねって勢いでしたし」

 あまりに理不尽な気がして、俺はもごもごと言い訳してしまう。それに、女媧はなるほどねえと頷くと、ずいっとこちらに顔を近づけてきた。

「っつ」

 目の前にすけすけの服を着た美女がいる。なんと緊張する状況か。

「お前は何も知らないということだな」

 だが、強い視線でこちらを見てくるので、その目から視線を外せない。せっかくすぐ傍にあるたわわな胸も、堪能できないほど緊張させられる。

「し、知りません」

 それでも、問われたことには答えないと。そんな義務感で答えていた。すると、女媧は顔を接近させたまま頷く。

「嘘はなさそうだ」

「う、嘘なんて」

「では」

「では?」

 俺が鸚鵡(おうむ)返しに問い返すと、急にむんずと胸倉を掴まれた。そしてそのまま女媧は立ち上がる。

「えっ、うおっ」

 女性とは思えない腕力だ。俺は難なく片手で釣り上げられてしまう。しかも胸倉を掴まれたままの状態だ。何が起こっているのか、確認することが出来ない。見えるのは自分が着ている紺色の修行者用の服だけだ。

「試練を決定した」

「ええっと、それは」

「それは」

 そこでなぜか女媧がにやっと笑ったのが解った。

 拙い。これは変人様が本気になったに違いない。

 そう気づいて俺はじたばたとするが、全く女媧の腕は緩まない。それどころか、ますます高く持ち上げられてしまう。

「このまま何も知らぬ存ぜぬでは得るものはない。よって」

「えっ、よってって」

 説明してくれるんだったら、釣り上げているのはおかしいよね。

 俺はますますじたばたしてしまう。

が、女媧はそんな抵抗をもろともせず、すたすたと歩き始めた。そして御殿を出ると、さっき必死に登ってきた巌へと向かう。

「あの、女媧様」

 嫌な予感しかしない。俺は釣り上げられたまま、変人美女に呼びかける。しかし、美女は返事をすることなく、ますます巌の端へと歩いていく。そして、俺をぶら下げたまま巌のへりへと歩いて来てしまった。

「一回、死んで来い」

「はあっ?」

 俺は何を言ってるんだと思ったが、女媧が手を放すのが早かった。

「なああああぁぁぁぁぁ」

 自由落下。

 俺はそのまま岩山の下めがけて落下していくしかないのだった。




 死ぬ。

 そう思ったが、地面はなかなか現れなかった。衝撃が襲って来ない。それどころか、奇妙な浮遊感がやってくる。

「な、なんだ?」

 俺は恐る恐る目を開けた。すると、驚いたことに俺は空を飛んでいた。しかも、その下に見えているのは、先ほどまでいた桃源郷ではなく、宣国の王宮だ。

「い、一体何が」

 俺が戸惑っていると、風が吹いて俺の身体を別の方向に飛ばしていく。

 ぎゃあああ。一体どこに行くんだ?

 俺は心の中で絶叫する。

 っていうか、風で吹き飛ばされるってどういうこと?

 俺はひらひらと凧のように飛ばされ、今度は宣国の農村部にやって来た。

「えっ」

 この時期、すでに農村部は種まきも終わり、稲や作物の葉が青々と茂っているはずだ。しかし、今、眼下にある畑はどれもひび割れ、僅かに生き残ったと思われる作物はしなしなと元気がない状態だった。

「こ、これは」

 どういうことだと、俺は首を傾げる。

 まさか、天候不順でもあったのだろうか。しかし、中央で生活している俺は、天気が荒れていることも、また、日照りが続いているわけでもなかったよなと、これがこの農村部でしか起こっていないのだと気づく。


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