屍装騎士⑧
スタヴローギン邸の門は、ひとりでに開いた。まるでリリャを招き入れようと意志したかのようだった。螽をしっかりと抱いたまま、リリャは前庭に進入した。
門どころか、屋敷の玄関さえも施錠されていなかった。リリャが分厚い扉を押し開けると、気圧差で背後から打ち寄せた夜風が彼女の背中を押した。
ペチカでは石炭が燃えていた。吊るされたハーブの清潔な香りが鼻を打った。
「ニコライ? ニコライ・ドミートリエヴィチ?」
スタヴローギンの名を呼ぶ。反応はない。広い闇に、リリャの声が吸い込まれる。
「キッ!」
螽が唐突に鳴き声をあげ、腕の中でもがきはじめた。
「くーちゃん? どうしたんですか?」
さっそく付けた名前を呼んで背を撫でるも、螽は落ち着かない。仕方がないので床に下ろすと、魔物は歩脚をしきりに動かした。なにか探っているような仕草の後に進みだし、壁に何度も頭を打ち付けはじめた。
「わ、だめ!」
慌てて抱え上げるも、螽はひどく暴れた。リリャの腕から飛び出して、しきりに壁への突進を繰り返す。
「キィ……」
螽が関節をきしらせ、哀しげな音を立ててリリャの足元に戻った。拾い上げて抱き、思案する。
「なにか、あるんですか?」
見れば、壁には石造りの燭台が据えてある。リリャの身長と同じほど高い。屋敷の中に据えるものとしては、いささか大げさすぎた。
「あ!」
ペチカに走って、石炭を壺に移し、燭台に投げ込む。
リリャが思い出したのは、まだ故郷にいたころ、両親に連れられて神殿に行った日のことだった。司祭が篝火を焚くと、手も触れぬ神殿の扉が開くのだ。地下の水槽に送り込まれた火の熱が空気を膨らませ、滑車を動かして扉を開ける仕組みだと父は言っていた。
果たして、壁が揺れ、裂け目が現れた。下り階段が、続いていた。壁と見えたものはたしかに扉であったのだ。
「行きましょう、くーちゃん」
リリャはろうそくを立てた燭台を手に、階段を降りていった。小脇に抱えた螽はひどく興奮しており、腕に力を込めねばただちに飛び出していきそうだった。
壁が途切れ、縞模様の岩盤がむき出しになった。空気は骨まで透るほど冷たい。ろうそくの明かりは、頼りない。
百段ほど下ったとき、分厚く錆びた鉄扉が現れた。それは内側に開いていた。リリャはためらわず、踏み込んだ。
奇妙な空間だった。見通せぬ高さの石柱が建ち並び、縞模様の岩石が壁から足元まで続いている。闇の奥で、なにかがきらきらと緑色に光っている。
「キィ!」
螽がリリャの腕から飛び出し、歩脚の許す限りの速度で駆けだした。リリャは慌てて後を追った。緑色の輝きが近づけば、ろうそくが要らぬほどの光量だった。
「わっ……わあああ……」
リリャは息を呑んだ。壁に、柱に、地面に、緑色の輝石が帯を為している。螽は、輝石の帯に顎を突き立て、かじり取ろうとしている。
壁に沿って、人工物が並べられていた。テーブルの上には万力や締め金、やっとこなどの冶具が整然と並んでいる。細かく仕切られたガラス槽では、虫型や小動物型など、いずれも取るに足らない魔物が飼育されているようだ。
「大釜へようこそ、リリャ」
「んひっ!?」
不意に声がして、リリャは飛び上がった。声のした方を見ると、スタヴローギンがいた。
冶具のテーブルの脇にある椅子に腰かけ、上半身をはだけている。腕の生傷を、自分で縫っている最中だった。
「あ、その、だ、大丈夫、ですか?」
「君はぼくの心配をしに来たの?」
リリャは言葉に詰まった。スタヴローギンは破顔した。
「緑色の瓶を取ってくれる?」
スタヴローギンが顎をしゃくってみせた先、テーブル上の瓶を手に取る。強い酒の臭いがした。スタヴローギンに渡す。中の液体を傷口に注ぎながら、スタヴローギンは顔をしかめた。
「正直なところ、ずいぶんやられたよ。こんなにぶちのめされたのは何年ぶりかな」
「あの……」
「いろいろ気になる? 一つずつ答えていこうか。ここは大釜、初代スタヴローギンが見つけた坑道だよ。初代は、ここで魔力結晶を採掘したんだ」
螽がかじろうとしている緑色の輝石を、スタヴローギンが指さした。
「見つけた?」
「そう、掘ったわけじゃない。この坑道は元から存在したんだ。コザースクの全域に渡って張り巡らされている。アリの巣みたいにね」
スタヴローギンは、腕の傷口に針を入れた。余った糸を唇でくわえてテンションをかけ、片腕で器用に縫っていく。
「魔力結晶は、持ち主の魔法をおおいに高めてくれる。この力で初代は河を堰き止め、綿の灌漑用水に利用したんだ。その結果がユーク海の後退と、内海漁業の壊滅さ」
傷口を縫い終わったスタヴローギンが、先祖の業績を皮肉った。
「今はその、なんていうか……ニコライ・ドミートリエヴィチの隠れ家?」
リリャは締め金を手に取った。使い込まれ、らせん溝がすり減っている。
「まあ、そういうことになるね」
椅子の背に手をかけ、スタヴローギンは立ち上がった。
「屍装鎧にも、魔力結晶を使っているんだ。関節とかにね。追従機構の要だよ。ただまあ、圧力をかけすぎると爆発しちゃうから、塩梅が難しいところだけど」
スタヴローギンは苦痛に表情をゆがめながら歩き、リリャのすぐ傍、テーブルに至る。
近くで見上げると、スタヴローギンの体には無数の傷があった。まだ血を流しているもの、ふさがって引きつれたもの、青黒い内出血、赤く腫れあがった炎症。
痛みにうめきながら、スタヴローギンは服を羽織っていった。リリャを観もしないで、口を開いた。
「それで、君は何をしにきたの?」
リリャはゆっくりと息を吐いた。もう震えてはいなかった。奪われたのだ。何度も何度も、奪われたのだ。リリャはスタヴローギンを貫くように見据えた。
「ニコルーシャ。わたしを、相棒にしてください」
スタヴローギンは数十秒、言葉を発さなかった。かすかな表情の変化に、リリャは集中した。困惑、諦念、恐怖、希望、瞋恚、憎悪……この世のすべてを見下すようなうすら笑いの下に、ありとあらゆる感情が渦巻いていた。
「よろしい。やろうか、リリャ」
肯定の言葉が、スタヴローギンからこぼれ落ちた。それから彼は目を見開いた。自分でも、自分の言葉を信じていないように。
だが、言葉を取り消すつもりはないようだった。彼はインバネスのポケットから、めのうのバレッタを取り出した。
今度こそ、リリャは受け取った。重たい前髪を一つかみ捉えて、バレッタで挟んだ。天色の瞳は、暗やみの中で淡く水色の光を放っていた。
「はい」
リリャが確信を込めて返事をし、手を伸ばし、ポンとはじける音がして、リリャとスタヴローギンの間を何かが横切った。
「……え?」
目で追うと、壁に螽の幼体が張り付いていた。
「キイィ」
哀しげに鳴いて、螽の体は滑り落ちた。
「え、えええ……なになになに! わああ! 大丈夫ですか! 大丈夫ですかくーちゃん!」
リリャは慌てて螽に駆け寄った。螽は伸ばされたリリャの腕の中に、よたよたと這い上がっていった。
ぽかんとしていたスタヴローギンは、事の次第を飲み込んで笑った。ここに来てからずっと、螽は魔力結晶をかじり取ろうとしていたのだ。
「圧力をかけすぎると爆発するんだって、説明したよね?」
◇
折れた腕が発熱している。ガヴリラは氷のような温度の石壁にもたれかかり、込みあげる吐き気を抑えていた。身体が強く震えている。足元の小石がかたかたと揺れるほどだ。
強がってみせたが、その実、あれはただの逃走だった。ガヴリラは、咎人狩りを怖れたのだ。
「やべーわ、屍装騎士」
コザースクには蟲貌の夜魔がいるのだと、話は聞き及んでいた。だからガヴリラは油断しなかった。後ろ暗い指示と引き換えに北の監獄から抜け出した彼は、ぱっとしない犯罪組織の黒髪団に潜り込み、構成員を鍛えた。アントン、ヴェルホーヴェンスキー、シガリョフ……彼らは十分に自らの魔法を操っていた。だが、あっさりと殺された。おそらく魔法戦にすら突入できず、不意を打たれて。
ガヴリラは認識を改めた。屍装騎士は考えなしになんにでもかじりつく蟲ではない。冷酷で邪悪な狩人だ。それも殺しを遊びと捉え、哀れな小動物を馬で追い回す類の。
狩人は、卑劣であることになんの躊躇いもない。追い立て追い詰め燻り出し、逃げまどわせるその技法をこそ彼らは誇りに思うのだ。
「やべーが……負けはしねーな」
深く息を吐いて、ガヴリラは昂った気を鎮めた。戦闘の余韻が、未だに心音を高鳴らせている。
ガヴリラは自らの戦闘技術に絶対の自信を置いている。彼の魔法の秘密を暴いた者はいない。犠牲者の血と内臓で研いだ魔法拳法は屍装騎士にも通用した。
今は傷を癒し、深く潜る。黒髪団を立て直し、更に強く鍛える。屍装騎士の正体を突き止め、不意を打って殺す。全てはそこからだ。
ここは環状運河の暗渠、昼日中であろうと光差さぬ領域、コザースクの地の底。這い上がるなら、ここからが良い。いつもそうだった。自らの宿命を悟った時、ガヴリラは絶望した。貴族の子弟であった彼は、中年太りの家庭教師に欲情し、自分が永久に尋常の愛を得られないのだと知った。
家庭教師を腑分けしたときの、脳が焼けるような興奮。地下の汚物溜めに捨てた死体が発見された時の絶望。収監。光差さぬ地下の牢獄での、看守と囚人から受けた凌辱。魔法に目覚めた日の歓喜。その日、ガヴリラはガヴリラとなった。
「フはっ」
ガヴリラは哂う。いつも通りだ。いつだって彼は世界そのものに追われてきた。そして世界そのものをねじ伏せてきたのだ。
立ち上がろうとして無事な右手を突き、ようやくガヴリラは異変に気付いた。
地面が、震えている。
足元の小石は今や揺れるどころか跳ねまわっている。元よりガヴリラの震えを浴びていたのではなかった。
なにかが、来る。
地の底の更に底から。
「なんだ……なんッ!?」
石畳に亀裂が入り、崩落! 塵埃と瓦礫ごと、ガヴリラの体がまっさかさまに落下する! ガヴリラは撥無を起動、瓦礫の直撃をやり過ごしながら不快な落下の数秒を耐えた!
背中から地面に落ちるなり、飛び起きて構える。塵と芥の類が立ち込め、周囲の環境が分からない。塵幕の向こう、緑色の帯を為した光。足元の感触は岩。空気は冷たく、黴臭い。
静かに息を吸い、吐く――粉塵のヴェールを円形に突き破り衝撃的な質量が直線状に飛来した! 撥無で受け流しながら観たそれは、突起付の輪を幾つも嵌められた致命的円柱!
「なン……鎖? 骨?」
背後に回った錘が、地面を砕きながら引き戻される。これも撥無による受け流しで対処。
「うーん、やっぱり殺すのは無理だったね」
煙が晴れて、夜魔がいた。
分厚い増加装甲と、悪夢的造形のフレイル。怖気を呼ばずに要られぬ螽の貌。
「大釜へようこそ、ガーニャ。気に入ってくれるとうれしいんだけど」
屍装騎士螽兜ダイヤルスタイルが、歓迎するように両手を広げた。その傍らには、黒ずくめの童女がいる。薄暗がりに浮かぶ青空のような瞳は、殺意をひたと湛えている。
「……すげーな。そこまでやるか」
ガヴリラは、感心するべきか絶望するべきか測りかねた。狩人の陰険なやり口には、笑う他なかった。
◇
では、いかにして屍装騎士はこの卑劣な作戦を成功せしめたのか? 時間を遡れば、リリャとスタヴローギンが凍てつく闇の坑道を歩いている。
コザースク地下に縦横無尽の広がりを見せる坑道を、松明が照らす。足音は響き、影は長い。
「服、ありがとうございます」
リリャはぼろ布から、毛皮の帽子と毛皮のコートに着替えていた。いずれも深く黒い。天色の瞳だけが闇に点っている。
「ぼくのお古でごめんね。これが終わったら、新しく仕立てよう」
「え! いえいえ、そんな! そんなですよ!」
「そういうわけにはいかないよ。相棒には、ぜひともふさわしい恰好をしてもらわなくちゃ」
「もしかして、ニコルーシャ……かたちから入るんですか?」
「まだ気づいていなかったの?」
スタヴローギンは皮肉をさらりと受け流した。
「君の目の前にいるのは、犯罪者を狩り殺すのに、わざわざ螽の格好をするような狂人だよ」
韜晦は呑み込んで笑うには濃すぎた。だがリリャは強いて笑った。
さて、と、スタヴローギンは手を打ち鳴らし、立ち止まった。松明を高く掲げ、坑道の天井に向けた。
「魔力の痕跡は辿れそう?」
「やってみます。でも……本当に今から?」
「まあたしかに、ぼくはちょっとあちこち骨が折れているけどね」
スタヴローギンは皮肉っぽく笑った。
「神経質なんだ。気になることがあると眠れない。何ごとも先送りにしないのがぼくの信条さ」
◇
このようにして二人は、地下からガヴリラの直下に至った。絶対残虐肉挽武装であるダイヤルメイスによって頭上を掘削し、ガヴリラを大釜まで案内したという次第だ。
ダイヤルフレイルによる初撃で殺しきれれば完璧だったが、ガヴリラもまた場数を踏んだ殺人鬼。奇襲にも対応してみせた。
「フはっ。すげー鎧じゃん」
ガヴリラは壁に手を突いた。坑道は、両手を広げた大人二人ほどの幅だろうか。ここでやみくもに急駛を起動すれば、壁にぶち当たって深刻なダメージを受けかねない。
「おまけにわざわざクソ狭い場所まで連れてきてよ。そんな俺の魔法怖い?」
「もちろん怖いよ。それにぼくは、なんていうかな……〝ああ、あれさえできれば負けなかったのに!”って顔をしながら死んでいく人を見ると、笑みがこぼれちゃうんだ」
「やばこいつ」
螽兜が拳を持ち上げた。応じて、ガヴリラが構えた。
螽とは、背を丸め前傾し、前足に九分の体重を預けた格好でガヴリラに歩み寄った。戦場魔法拳法ゴラーヤルカにおける、前進の構えである。
増加装甲と前重心の圧力に、しかしガヴリラは屈せず、踏み込んだ。距離が詰まり、拳脚必当の間合いに入る。螽兜は踏み込みながらの左ジャブ。ガヴリラはスウェイしながらの右ローで応戦。
「かッ……たッ!」
岩を蹴ったような感触に、ガヴリラの蹴り足が痺れた。螽兜は踏み込みながら右のロングフックを投げ込む。顎端狙いの一撃。ガヴリラの顎は氷上のように螽兜の拳を受け流した。
「無駄だッての!」
懐に入り込んだ螽兜の顎を、ガヴリラの左ひじがカチ上げる。螽兜の首が跳ね上がる。ガヴリラは追撃の左フックで螽兜の顎を打ち抜いた。
山のようなダイヤルスタイルの巨体がよろめき、螽兜は肩から壁にぶつかって呻いた。増加装甲に守られぬ顔面であれば、衝撃が透るのだ。
「拙ねェーぜ、屍装騎士ッ!」
増加装甲と、隘路。急駛を怖れるあまり、螽兜は判断を誤ったのだ。この狭所で逃げ場が無いのは、ガヴリラではなく螽兜。あちらの攻撃は通らず、こちらの攻撃は刺さる。死ぬまで殴り続ければいい道理だ。
ガヴリラは強く踏み込んだ。螽兜が壁に手を突いて態勢を立て直したところに深く飛び込み、慣性と魔力を乗せた左ハイキックで首を打つ! 壁に叩き付けられ、跳ね返った螽兜に追撃の左フック! 鈍く重たい鎧が浮き、反対側の壁に叩き付けられる! さらに跳ね返った螽兜に再度の左フック! もはや恐るべき屍装騎士は動いて喋るだけの無抵抗な岩くれに過ぎぬ! ガヴリラは、跳んだ! 上体を後ろに傾けた完璧な跳び膝蹴りが螽兜の顎に突き刺さる! ガキン! 軋んだ仮面の内側で、歯の噛み合わされる怪音!
螽兜は両腕を伸ばし、ガヴリラへの組み付きを試みる。だがその両腕は、飛びのくガヴリラの首筋をむなしく滑った。撥無による絶対防御! 螽兜は伸ばした腕の重さに負けたように膝をつく。
「いやあ、これはちょっと参ったね」
軽口を叩こうとした螽兜に、ガヴリラはその隙を与えない。
「喋ってんじゃねーよ!」
四つん這いになった螽兜の頭を、ガヴリラは爪先で蹴り上げた。鎧の重さ故に上体が持ち上がることさえ許されず、衝撃の全てが顔面に浸透する。上体を保持していた腕からふっと力が抜け、螽兜はその場にうつぶせに倒れた。
ガヴリラは追撃を止めない。ここで殺しきる。高々と足を振り上げ、延髄めがけて踵を打ち下ろす。
「決まっ――」
踵がむなしく地面を打った。螽兜の姿が、眼前から消えていた。
うなじの毛が痛いほどに逆立った。ガヴリラは振り向きながら、体を庇うように手を突きだした。
てのひらの上を、なにか鋭利なものが滑った。紙のように薄い、両刃の剣であった。
「……フはっ」
螽兜が、いた。その様を大きく変えて。
増加装甲も、屍装鎧も振り捨てた、藍鉄の衣装――否、筋肉のラインをむき出しにしたその薄さは、第二の表皮とでも呼ぶべき頼りない厚みであった。
その手には、腕ほどの長さの両刃剣。向こう側が透けて見えるほどの刀身には、ディンプル錠のような窪みが幾つも付けられている。
まばたきを、一つ。眼を開いた時、螽兜は五メートルの距離を詰めてガヴリラの眼前!
「チッ……」
舌打ちをしながら腕を持ち上げるまでの0.2秒! 無数の斬撃がガヴリラを襲う! 撥無の起動によって全てを無効化し、殴り飛ばそうと腕を引いたとき、既に螽兜の姿は無い――背後からの斬撃! バックハンドブローによって応戦するが、裏拳は空を切る! 足首を刈る水平斬! 臓腑を撫で切り半身の連結を断つ切り上げ! 肩から入って鎖骨を、肺を割る袈裟斬り!
「あああ! 無駄だろ!」
苛立ち任せに繰り出したガヴリラの攻撃は、いずれも当たらぬ! それどころか、目視さえ叶わぬ螽兜の高速移動であった!
斬撃の嵐が止み、螽兜がガヴリラの五歩前に着地した。薄い刃の両手剣を、手の中でくるりと回してみせる。
最速不可避の斬劇舞踏! これが! これこそが! 屍操騎士螽兜ディンプルスタイル! その絶対高速斬殺武装、ディンプルソードである!