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第91話 - 2つの疑念

単独で潜入する花にピンチが!?


「瑞希? どうした?」


 和人と田川が『避難・滞在エリア』へ向かう途中、瑞希からの連絡が入った。しかし、その直後、突然〝空想世界(イマジン)〟が解除されてしまう。


「〝空想世界(イマジン)〟が解除された!?」


 和人と田川はその場で立ち止まり、耳に取り付けられていたイヤホンが消えていることに気付いてお互いに顔を見合わせる。2人はそれと同時に警察用の通信機器に連絡が入っていることにも気付き、マイク付きイヤホンを装着する。


「金本さん、町田さん、瑞希に何かあったんですか!?」


 和人は応答するとすぐに尋ねる。町田も困惑した様子で応答する。


「正直分からん。頭痛で苦しみ始めたんだ。超能力を解除してからは少し落ち着いているみたいだが……」


 町田は瑞希の様子を横目に見ながら状況を伝える。和人は敵からの襲撃といった非常事態ではなさそうであることに安堵した表情を浮かべた。


「それよりも、月島さんからの情報だと豊島萌さんと長野結衣さんは地下シェルターにはいないとのことだ! 彼女たちはコンテナ船に監禁されていると」


 和人と田川は思わず驚きの表情を浮かべる。田川は確認のために町田に尋ねる。


「それは、確実な情報か?」

「月島さんの様子を見る限り信憑性は高そうだ」


 田川の問いかけに対して町田は即答する。和人は町田からの説明を聞きながら左手を口元に当てて少し考え始める。花は瑞希を巻き込まないように単独で地下に潜入している。現在、管理棟で手に入れた機密事項を瑞希以外の7人は警察手帳端末で共有し、和人と田川は瑞希に気付かれないように別の入り口から地下シェルターに侵入しているところである。


(上手いこと言わないとバレるな……)


 田川が和人の様子を見て彼の懸念を察知すると話を始める。


「よし、俺は管理棟に戻って待機している岸と井尻と合流して地下シェルターをもう1回洗い出すよ。もしかしたら別の入り口があるかもしれない。徳田さんの援護に尽力しようと思う。霧島君は先にコンテナ船へ向かってくれ」


 和人がこちらを向いていることに気付いた田川はニッと笑う。


「……そうしましょう。俺は敵勢力を排除しながらコンテナ船の方へ向かいます」


 その後、和人は元来た道を引き返して地上へと向かい、田川はそのまま直進して避難・滞在エリアへと向かう。


(徳田さんからの応答が無いな……。彼女の超能力で既に潜入に成功しているならば良いが……)


 田川は急いで目的地へと向かう。


#####


––––〝空想世界(イマジン)〟の接続が切れる数分前


 花は既に『避難・滞在エリア』へと到着していた。巨大な扉から中へ入るとまず大広間が広がる。そこは避難民が最初に集められる場所で、スタッフからID認証されてその情報が管理される。また、地下に設置されている滞在部屋が満員となった場合の滞在場所にもなる。


(さてと、中本の居場所はどこかしら? いつもの場所にいるとは部下が言っていたけれど……。ここは大き過ぎる。あとは近藤の居場所も割り出さないと。右腕を失うなど大怪我を負っているって話だったから回復に努めているはず。下の者に居場所は伝えていなくても中本は知っているに違いない……)


 『避難・滞在エリア』は地下10階(一番上の階をB1とするため、表記上はB11となる)まで建設されており100室ずつ計1,000室が用意されている。さらに偶数階にはスタッフが常駐する部屋が2部屋ずつ設置されている。

 花はB2へと降り、2人の非超能力者を発見する。2人が別れた後に1人を無力化して隠すと、もう片方の男に 〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟を仕掛ける。


「皆藤さん! 戻って来とったんすね!」

「おう、少し時間かかったんやけどな」


 花は当たり障りのない会話を続けた後にその男に尋ねる。


「中本はどこおるんや?」


 男は笑いながら答える。


「いつものB5の大きい部屋で映画観てますよ。てか連絡してないんすか?」

「あぁ、急いでたからな」

「そうだったんすね」


 花はその男を背後から迅速に気絶させた後にB 5へと向かう。


(……何かがおかしい)


 花はB5に辿り着いて身を潜めながら瑞希と同じ違和感を抱き始める。


(あまりにも見張りが少ない。というか超能力者が少な過ぎる)


 花はつい今しがた無力化した3人の非超能力者を眺めながら考える。近藤組の主力は近藤勇樹、皆藤勝、中本秋人の3人である。その中で中本は戦闘に長けたタイプではなく、近藤も負傷中。さらに人質が2人いる。それならばもう少し警備を増やすなり、超能力者の割合を増やすなりするはずである。

 花は離席中になっていた〝空想世界(イマジン)〟に接続しようとした時、発動しないことに気付く。


(解除されてる!? 地上で何かあった!? 部下の口ぶりから中本がここにいるのは確実。でも最も危険な近藤は違う所にいる?)


 引き返すか否か一瞬思考した瞬間、奥の扉が開く。


(あれは中本!!)


 花は素早く接近し、〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟の発動条件を満たすと皆藤の姿に成り代わる。


「おぉ、勝。戻って来てたんだな。連絡ねーからやられちまったと思ってたぜ」

「ふん、俺が負けるはずねーだろ。戦闘中に携帯壊しちまったんだよ」

「……そうか」


 中本は手に持っていたスポーツドリンクを一口飲み、花に話しかける。


「食いもん漁りに行こうぜ」


 花はそれに応じて2人でエレベーターに乗り込み、『避難・滞在エリア』最上階B1の大広間へと向かう。


「勇樹は……どこにいるんだ?」


 エレベーターから出てしばらく歩いた後、中本が外へ出る扉に手をかけた瞬間、花が中本に話しかける。中本は扉に手をかけたまま微動だにせず小さく呟いた。


「勇樹ね……」


 中本はポケットから携帯を取り出してスワイプした後に表示された画面をタップする。すると天井の数カ所が開き、そこから機銃が現れて花に向けられる。


「お前、皆藤じゃないな? いつから勇樹って呼ぶようになったんだよ。昔っから頑なに俺たちのことを名字で呼んでたのによ」


 花は初めに中本から〝勝〟と呼ばれたことで3人は互いを名前で呼び合っていると判断したのだ。


(おかしい、〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟は対象者の深い意識に影響を与えるため、少々の違和感は気に留めないはず?)


 中本は花が困惑していることを余所に話を続ける。


「どんな超能力(ちから)か詳しくは知らねーが、他人に化けれる能力か? 化ける奴の癖までちゃんと身に付けるこったな、タヌキ野郎」


 拳銃を向けながら扉を開く。


「冥土の土産に教えてやるよ。勝は俺たちを名前で呼ばねぇ。それにあいつは携帯を持たずに連絡は部下に任せる。喧嘩に邪魔だって言ってな」


 中本は〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟が発動して間もなく皆藤の普段と違う行動から2つの大きな疑念を心に抱いた。さらに3人は幼い頃からの気心知れた仲であることもこの違和感を大きくした。

 立て続けに生まれた違和感。それらは〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟を看破するのに充分なものだった。


 中本が部屋から出ると天井に設置された複数の機銃は花の方を向き、射撃を開始した。





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