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第88話 - 地下シェルター

地下シェルター侵入に成功した花。単独で制圧にかかる!

 〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟によって皆藤の姿に変身している花はセキュリティーコードを使用して地下シェルターへ続く扉を開錠する。成人した男性が2人ほど入れる大きさで、近藤組の部下1名と共に中へと歩を進める。


「皆藤さん、連絡遅かったんでちょっと心配しとったんですよ」


 ワックスで固められて光沢を持ったトップの髪の毛を気にしながら男が声をかける。


「フン、俺が負けるはずねーだろうがよ」

「そっすよね」


 ハハハとツーブロックの耳周りを軽く掻きながら男が答える。花は皆藤との戦闘中に彼の声紋を採取して分析を終えている。そして分析したデータを元に変声機を通して声を変化させ、花は会話を成立させている。花は皆藤の戦闘スタイルや発言内容から自身に対する過剰なまでの自信が受けて取れ、それに沿った発言をしている。


(けど彼、博多弁使ってたのよね)


 皆藤は戦闘が進むにつれて口数は減ったが、初め対峙した時は明らかに訛りがあった。数多くの潜入を経験してきた花ではあるものの、基本的に東京での捜査が多かったために地方の方言についてはあまり見識がない。


(特殊訓練での知識はあるけど実戦経験が乏しいのよね。気を遣いつつなるべく会話は避けないと)


 暗く少し埃が舞う中で階段を進むとその先には場違いな光が漏れ出ている。


「中本さんは避難・滞在エリアのいつもの所にいると思いますよ。疲れたって言ってダラダラしてましたけど」

「おう、分かった」


 階段が終わり、花は部下と別れてそのまま真っ直ぐに進む。


––––福岡県第2地区第2地下シェルター (通称:百道地下シェルター)


 2523年、第四次世界大戦を経て日本政府は各都道府県に複数の地下シェルターを建設した。さらに2706年に大規模な市町村再編成が行われた後、各地区に最低2つの地下シェルターを増設した。その際に建設された地下シェルターがここ百道コンテナターミナルである。3000年代に入ってからは科学技術とサイクス技術の発展・融合によってその防壁は増強され、より強固なものとなった。

 花は警察手帳をスマートグラスと同期、所持している地下シェルターのマップデータを専有モードで空間に表示させてシェルターの全貌を確認する。


(避難・滞在エリアは……しばらく真っ直ぐに進んだ後に右へ。さらに進んで食糧・備蓄エリアに繋がる通路を通り越して左に曲がった場所ね)


 百道地下シェルターは左右対称な造りをしている。入口から階段を下った後、直進すると左右に分かれる通路が現れる。右には花が目的地とする『避難・滞在エリア』が最奥に用意され、その道中には『食糧・備蓄エリア』が備わる。一方で左側の通路に進むと最奥には『武器・弾薬エリア』、その手前にはモニター室を含む『警備エリア』が建設されている。

 『避難・滞在エリア』、『食糧・備蓄エリア』、『武器・弾薬エリア』にはそれぞれ地下階が用意されており、ある程度の期間の篭城(ろうじょう)を可能としている。また、そのまま直進して行き止まりまで辿り着くとマンホールが出現し、直接避難用潜水艦に乗り込み海中へと逃れることができる造りとなっている。


(……さっきの男の口ぶりから中本はすぐに会いたがってるっていう感じではなさそうね。それなら先に警備エリアを制圧するか)


 花は曲がり角で一度立ち止まり、〝レンズ〟を発動しながら慎重に進む。


(中本の超能力を使った監視を地上だけで全て使うはずがない。地下の警備役数人にも監視が付けられているはず。油断は大敵)


 『警備エリア』へと続く通路に繋がる曲がり角で花は監視カメラが反対側に稼働し終わるのを待つ。向こう側に動き始めた瞬間、花は身体を出して小さなチップを指で弾いて取り付ける。その後、もう一度陰に隠れてスマートグラスを起動する。

 花は監視カメラに取り付けた警察組織用ハッキングチップによって監視カメラをハッキングした。その映像をXR(クロスリアリティ)を起動してMR(複合現実)で確認しつつ録画する。ボディーバッグから取り出した自身の持つタブレット端末、Tech-Pad(テック・パッド)と警察手帳を同期させて表示されているキーボードを入力し始める。

 カメラが動く周期に撮影された映像を数パターン録画・抽出、それをランダムに流すダミー映像としてアップロードした。実質的に監視カメラを無力化する。


 花は拳銃とナイフを持って『警備エリア』に侵入する。1人ずつ確実に排除し、管理室を制圧した。百道地下シェルターのセキュリティーシステムを掌握してTech-Pad(テック・パッド)にデータを全て送信、遠隔操作を可能とした。


(そもそも地下シェルターに入れる者が少ないのと自分たちの実力に自信があるようで警備が少ない。邪魔が入り辛いのは好都合ね)


 管理室の天井に粘着型発信機を装着し、部屋を出て『武器・弾薬エリア』へと向かう。花は迅速に敵を複数排除しつつ、ショットガンを入手してそれを背負って道を引き返し、『避難・滞在エリア』へと続く通路を直進した。


#####


 地上に取り残された瑞希は〝空想世界(イマジン)〟を通して和人たちに話しかける。


「先生、1人で良いの!? 相手は沢山いるんだよ!?」


 離席状態である花はそれに答えることはなく、代わりに和人が答える。


「花さんは今まで単独で多くの潜入捜査を成功させてきたんだ。心配ないよ。寧ろ俺たちがいると邪魔になるかもしれない。〝あなたと私の秘密シークレット・フェイス〟は単独の方が使い易いだろうし」


 和人はなおも不満気な表情を浮かべる瑞希に説得を試みる。


「俺たちは花さんに邪魔が入らないように地上の連中を排除しよう。な?」


 瑞希は納得していない顔を浮かべながらも黙って頷く。瑞希は金本と町田と共にコンテナヤードの陰に隠れながら近藤組の排除に取りかかる。一方、和人は井尻と岸を管理棟に残して田川と2人でコンテナヤードの端にある冷凍コンテナ用電源設備へと向かう。


––––金本と町田は瑞希と共にコンテナヤード内で敵勢力を排除すると同時に瑞希を保護すること。和人と田川は冷凍コンテナ用電源設備に向かって隠し扉を開錠して地下シェルター管理室へ侵入。


 和人は走りながら花から送られてきたメッセージを思い出す。和人たちは管理棟制圧後に手に入れたデータの中で地下シェルターへのもう1つの侵入経路を発見し、警察手帳端末で共有していた。

 花は〝空想世界(イマジン)〟を使用せずに警察手帳端末で和人たちに指示を送っていた。瑞希を極力巻き込まないように行動している。


(あくまでも瑞希を一番危険な場所へは連れて行かないか……。正直、戦力的に必要な人材だと思うけど……)


 和人は首を左右に振ってすぐに考え直す。


(いや、瑞希は強いと言っても俺と違って警視庁に特別参加して現場を経験してるわけじゃないし、一般人であることに変わりない。巻き込むのは駄目だ。お姉さんもよく心配してるって聞くし)


 それでもなお、和人には政府側と月島側の温度差に何か心に引っかかるものを感じていた。





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