第78話 - 協力
1人近藤を追う結衣。
5人は志乃の〝空想世界〟で協力して近藤の超能力に迫る!
「結衣ちゃん!」
瑞希の呼び止めは既に遅く、結衣は単独で近藤を追う。
(海中なら私だって役に立つはず! 萌ちゃんを連れて行かせない!)
近藤は海に潜った時点で海水を飲み込み燃料を補給、遊泳速度を上げつつ機雷を仕掛けている。
(速い! 爆弾を作る超能力者じゃないの!? 私と同じ水中で力を発揮する超能力者?)
水中で呼吸する手段の無い瑞希はその場で立ち尽くす。その時、背後で「瑞希!」と呼ぶ声を聞きつけ、そちらを振り返ると志乃と芽衣が立っているのが目に入る。志乃が耳を指差す。瑞希の耳にイヤホンがいつの間にか装着されていた。
––––〝空想世界〟
志乃の超能力、〝空想世界〟は、本来ならば志乃から渡されたイヤホンを装着することによって発動される。しかし、ホストである志乃のみグループ内5人の耳にイヤホンを強制的に出現させることが可能である。代償として消費するサイクス量は増加し、心身共に疲労をもたらす。
「結衣ちゃん! 萌ちゃん!」
仮想空間ができ上がったと同時に瑞希が2人に声をかける。
「何か種類の違う水に捕まって動けない! 呼吸はできるんだけど、このおじさんの泳ぐスピードが速過ぎて目をあんまり開けてられない!」
捕まっている萌が彼女を捕らえている水について説明する。さらに萌は近藤の行動について付け加える。
「どの方向へ行ってるのか分かんないけど、この人多分、何かを仕掛けてると思う」
萌は近藤がところどころに機雷を仕掛けている動作を感じ取っていた。そして結衣が少し苦しんでいる様子で話し始める。
「さっきから衝撃波みたいのに邪魔されてなかなか進めない! 萌ちゃんが教えてくれたように何か罠が仕掛けられてると思う。さっき砂浜で突然爆発とかが起こってたのと同じ感じ!」
瑞希は2人の話を聞き、地上での対峙を合わせて状況を整理しながら話す。
「多分その人の超能力は2つある! 特定の場所に仕掛けて起動させるタイプと直接標的に撃ち込むタイプ。私は地雷とミサイルをイメージしていたけどその人がわざわざ海に逃げたことと、その泳ぐスピードから考えると寧ろ水中でより力を発揮する超能力だと思う。だからどちらかと言うと機雷と魚雷!」
瑞希は冷静に近藤の超能力を暴き始める。
「でもいくつか種類があったわよね?」
志乃も地上での様子を思い返しながら口を挟む。
「うん! えっと……種類は」
「爆発するのと、衝撃が起こるのと、捕まえるやつかな?」
綾子が目撃した種類を列挙する。
「それ! 多分海中でも同じことができると思う。結衣ちゃん、目にサイクスを集中させられる?」
結衣は瑞希に言われた通り目にサイクスを集中させ、不完全ながらも〝レンズ〟を行う。
「何か周りに赤いサイクスが沢山……」
「それが仕掛けられた機雷だよ。サイクスを見えにくくすることを〝ロスト〟、そしてその隠れたものを見破るために目にサイクスを集中させて見破ることを〝レンズ〟って言うの」
瑞希は手短に〝レンズ〟と〝ロスト〟について全員に説明する。
「志乃ちゃん、結衣ちゃんの視界共有をお願い!」
瑞希の言葉に対し「任せて」と志乃が言うと仮想空間内で右腕を伸ばし左から右へとスライドさせる。すると中央にモニターが現れ、そこには辺り一面が水に囲まれていて時折、気泡が浮遊する映像が映し出される。正に現在の結衣の視界である。
〝空想世界〟のホストである志乃はグループの中の1人の視界を全員と画面共有することが可能である。
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––––夏期休業開始4日目
「皆んなと私の視界を共有した時に残留サイクスが見ることができたり、他の皆んなの視界共有で私は残留サイクスを見ることができたりするんだね」
瑞希が不思議そうに話すと綾子が隣で自分の考えを話す。
「これさ、〝空想世界〟が発動されてても私たちって現実にいるままじゃん? ということは脳に刺激を与えているんだと思うんだよね。それで視神経と脳って繋がってるって聞いたことあるからそれでできるんじゃない?」
「え、綾子ちゃん頭良くない?」
萌が隣で感心していると、志乃も考え込みながら呟く。
「……ってことは瑞希の残留サイクスが見える目ってサイクス量との関係だと思ってたけど脳のつくりと関係があるってこと?」
志乃の言葉を聞いた4人は「さぁ」とほぼ同時に呟いた。答えが出るはずもなく、数秒後には会話はホテルオーキでの宿泊の事や他愛も無い日常へと話題はシフトした。
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「残留サイクスが見える。けど、さすがに相手も遠くまで行ってるだろうから追いつけないかな……」
結衣はクスッと笑うと瑞希に告げる。
「お風呂で皆んなに見せるって言ってたのこれから見せるね。瑞希ちゃん残留サイクスの方向は?」
瑞希は「左の方に真っ直ぐ伸びてるよ」と伝え、結衣は「ありがと」と短く礼を言った後に脚にサイクスを集中させ始める。
––––〝人魚姫〟
結衣の両脚は魚類の尾の様に変化し、正しくお伽話に登場する人魚の姿へと変身する。結衣は瑞希の指示に従い、レンズで仕掛けられた機雷を華麗に躱しながら近藤を追う。
〝人魚姫〟を発動した結衣の泳ぎは流麗で、かつ、美しく水中で舞うように泳ぐ。しかし、その美しさとは裏腹に遊泳速度は近藤の〝人間潜水艇〟を遥かに超える。
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「瑞希!」
和人は百道浜に到着後、繰り返される爆発音を聞きつけて警備スタッフと共に観光客の誘導に協力をした後に騒ぎの中心へと向かい、瑞希たちを発見した。瑞希は、和人にここで起こった出来事を話した後に現在の萌と結衣の状況について説明した。
「分かった。俺は眼帯の男の足取りを追うよ。瑞希は長野さんのアシストに徹してあげて。恐らく拠点地だろうし先回りできるかも」
和人がその場を離れようとすると「待って」と瑞希が呼び止める。
「私も行く! 残留サイクスが見えるから。志乃ちゃん、もしものために超能力貸してくれる?」
p-Phoneを出現させ、志乃に尋ねる。志乃はそれに応じ、瑞希は〝空想世界〟を複写し、p-Cloudに保存する。
「1人でタスク多過ぎないか?」
「大丈夫」
瑞希は〝宝探し〟を解除し、短く答えると既に中本の残留サイクスを追うことに集中しようとする。
「瑞希、私も行く!」
綾子が志願する。
「でも危ないよ?」
「瑞希、サイクスの消費が激しくなるでしょ? そして〝宝探し〟での強調表示は使えないから身体への負担も大きくなる」
綾子の言葉に瑞希はピクッと反応する。
「どういうことだ?」
それを聞いて和人は瑞希に尋ねる。代わりに綾子が答える。
「もし〝宝探し〟を眼帯の人のサイクスを追うために使うと萌ちゃんを捕まえてる人のサイクスを追う事ができなくなるからでしょ?」
瑞希はゆっくりと頷く。
残留サイクスは日常生活の中であらゆる場所に付着し、空気中にも漂う。この環境下で1つの残留サイクスを追うことは至難の業で眼精疲労はより蓄積される。
「私が〝女子の秘密の努力〟で少しでも身体の負担を軽減して回復させるよ。任せて」
瑞希は少し考え込んでから答える。
「分かった、お願い。私と和人くんから離れないでね」
綾子は頷き、瑞希と和人と共に中本の残留サイクスを追った。




