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【コミックス第1巻発売中!】TRACKER  作者: SELUM
夏休み前編 (超能力者管理委員会編)
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第58話 - 変化

瑞希のサイクスの変化、そして瑞希の身体に少しずつ起こっている変化とは......??

「ここは……」


 木戸は自身の超能力によって導かれた場所の近くにある駐車場に車を停め、月島宅を眺める。


(月島って上野菜々美の事件を解決した女の子よね……サイクスの量が膨大で私たちの中でも話題になってる。報告によると〝不協の十二音〟もやけに絡んでいたらしいし。姉も捜査一課で重要な役割を担っているはず。葉山委員長は接触を図ったようね)


 木戸は携帯を取り出し、曽ヶ端に電話をかける。


「もしもし、木戸さん?」

「はい。葉山委員長がどこへ向かっていたか分かりました。どうやら月島姉妹の所へ向かったようです」

「月島姉妹って、あの?」

「はい。私の〝あなたはどこへ(オン・ユア・ウェイ)〟がここへ導いたので間違いないです」

「了解です。戻って大丈夫ですよ。お気を付けて」


 木戸は携帯を切った後、車を出し本部へと向かった。


#####


(……行ったか)


 月島宅のキッチンで夕飯の支度をしていた翔子が手を止め、〝第六感(シックス)〟によって感知した木戸のサイクスの方向を見ながら警戒を解く。その翔子に瑞希が声をかける。


「翔子さんどうしたの?」

「ん? 何が?」

「いや、何か手止めてたし、翔子さんのサイクスもいつもと少し違ったし」

「どう違ったの?」


 瑞希は少し顎に人差し指を当てながら考え、説明を始める。


「翔子さんのサイクスが向こう側の誰かのサイクスに向けて注意を向けてた的な?」

「!?」


 瑞希の答えに翔子は驚いて一瞬言葉を失う。


「……瑞希ちゃん、サイクスは形とか色の微妙な違いとか、流れ方とか輝きの感じとかしか分からないって言ってなかった? それで残留サイクスと比べて誰のか分かるって」

「うん。でも最近なんかそれに込められてるその人の気持ちが何となく分かるんだ」

「……そう。ちなみに向こう側に誰かのサイクスがっていうのは?」

「それも最近、遠くの方で何か感じ取れたりするの。勘みたいな。特に超能力者は具体的に分かるかな?」


 翔子は瑞希の言葉を聞いておもむろに右手を彼女の左頬に伸ばす。瑞希はその右手に驚き、思わず目を瞑る。しかし、その右手は慈愛に満ち溢れており、そのまま優しく瑞希の頰に触れる。


(肌の白さに変化はない……肌質も変化ないわね……)


 翔子はそのまま瑞希の髪の毛に触れ、眺める。瑞希の美しい黒髪は微妙に変色し、茶色がかってきている。


「翔子さん何?」

「瑞希ちゃん髪の毛染めたことあったっけ?」

「ないよ」

「そっか、綺麗ね」

「……ありがとう?」


 瑞希は翔子の言葉に疑問を抱きつつ礼を言う。その時、風呂が沸いたアナウンスが部屋に響く。


「お風呂、貯まったみたいよ。入ったら?」

「うん、そうだね」


 瑞希が2階に上がるのを確認し、翔子は再びキッチンで作業を再開する。


(瑞希ちゃん、目で読み取れる情報が増えてる。そして天然で〝第六感(シックス)〟を会得しつつある。それに……)


「気付いた?」


 p-Phoneの〝Contact(連絡先)〟に登録されている翔子の携帯からピボットが現れる。


「瑞希ちゃんのサイクス量増加してるわね?」

「うん。少しずつ増えてきてるよ」

「少しずつ? 髪色に変化が出てきてるのよ? それに〝第六感(シックス)〟も天然で会得し始めてる。さっきの超能力者を感知しているなんて近くとはいえ、あの駐車場まで広げられるなんて初心者のそれを超えているわ」


 一般的に(個人差はあれど)15歳を迎える頃にサイクス量は増加し、数年して各個体の上限に達する。その中でごく稀に身体的変化が生じるほどにサイクス量が増加する超能力者が存在する。代表的な変化は肌の色や艶、質感の変化、髪色や髪質の変化、目の色の変化などが挙げられる。これらはサイクス生物学で主に研究が進められていて、基本的には『成長期』として扱われる。

 しかし、瑞希のように生まれつきサイクス量が膨大な超能力者に身体的変化が見られるほどにサイクス量が増加したという事例はまだ無い。


「もちろん、サイクス量が増えているけどそれ以上に瑞希の〝目〟の性能やサイクスの質自体が向上したことの方が影響が大きいと思うよ」

「そんなことあるの?」

「知らないよ、そんなの。でも実際そうなってるんだ。おそらくこの短期間で瑞希に様々な感情が込められたサイクスが向けられたからだろうけど」


 瑞希は高校に入学して以降、3–4ヶ月の間に上野菜々美の歪んだ愛が込められたサイクスや不協の十二音による悪意に満ちたサイクス、瑞希に対抗心を剥き出しにした樋口凛の様なサイクスなど、これまで触れてきたことのないサイクスを向けられてきた。これらが元々感受性豊かな瑞希に対して何らかの影響を与えてしまったというのがピボットによる推測である。


「なるほど……。一理あるわね。ちなみに瑞希ちゃんは〝第六感(シックス)〟を誰かに習った?」

「んにゃ。ちなみに瑞希のは少し特殊だよ」

「どう特殊なの?」

「本来、〝第六感(シックス)〟はサイクスを可能な限り広げてその範囲内、言い換えればその()()を感知するんだろ? でも瑞希はそんなことしていないんだよ。瑞希のサイクスそのものに感知能力があるんだ」

「つまり?」

「瑞希がもし〝第六感(シックス)〟を学んだら拡張したサイクスの範囲内に加えてその外側に対してもある程度の感知範囲があるんだよ」


 翔子は少し頭の中を整理した後にピボットに尋ねる。


「例えば瑞希ちゃんの〝第六感(シックス)〟の範囲が半径100メートル、サイクス自体の感知能力が50メートル先まであるとしたら実質半径150メートルを感知できるってわけ?」

「そういうことだね」

 

––––聞いたことがない。


 翔子の素直な感想である。それと同時に1つの懸念が生じる。


(瑞希ちゃんの目やその特殊なサイクスにおける代償は存在するの? またサイクス量の増加でどこまであの子の身体が耐えられる?)


 愛香の半身不随が翔子の頭によぎる。


(愛香ちゃんは、自身がコントロールできるサイクスの許容量を大幅に超えたことと無理やり固有の超能力を発現させたことで車椅子生活を余儀なくされた。瑞希ちゃんのはただの成長期で片付けられる? 分からない……)

 

 嫌な予感を払拭できないまま翔子は作業を再開した。


#####


 p–Phone内でピボットは呟く。


「ま、覚醒維持と成長期が同時に起こってるんだけどね。簡単に言えば覚醒状態がずっと続いてるのさ」


 瑞希の身体に少しずつ変化が起こっていることにまだ誰も気付いていない。





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