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【コミックス第1巻発売中!】TRACKER  作者: SELUM
夏休み前編 (超能力者管理委員会編)
54/172

第53話 - 葉山順也という男

葉山の圧巻の読み。そして渦巻く心理戦!

「おい、葉山! どういうつもりだ!?」


 超能力者管理委員会が解散した後、江藤が葉山の元へと血相を変えて駆け寄る。


「何がです?」


 葉山が江藤の方を振り返り、キョトンとした顔で答える。


「何って……なぜわざわざ白井を東京に残すような提案を受け入れたんだ!? 委員会前の話は地方に追いやって少しでもこちらが主導権を握ろうって話じゃなかったのか!? そのために委員会で何か策を講じるって……」


––––委員会が開かれる2時間前


「葉山、お前はどう読む?」


 紅茶を一口飲み、一息入れてから葉山が答える。


「まぁ、日陽党……というか白井さんは委員会の主導権を握ろうと考えるんじゃないですか?」

「それはそうだろうな。委員長に選ばれたのも若手のお前だ。プレッシャーはかけてくるだろう」

「あはは、僕はその辺は流しますよ。おそらく最初は設置区域の話になるでしょう」

「それで?」


 葉山はテーブルについている染みを意味なくなぞりながら微笑んでいる。その後に思い出したかのように再び話し始めた。


「分かりやすく地方で分けるんじゃないですか? そうですねー、委員会が10人なので10地域以内になるでしょうか。そして日本国民党……おそらくは伊田さん辺りですかね……TRACKERSが政府直属の機関に置かれることから政府の私物化に懸念を示すでしょう。そこで僕らが割り振られた地方の責任者となり、さらに地方超能力者管理委員会がそれぞれ設置され、管理・監視を強化するという話になると思います」

「それはなぜ?」


 江藤はすかさず聞き返す。葉山は江藤の質問に対して少し鼻で笑った後に答える。


「そもそも東京1ヶ所にのみ設置するのは無理でしょう。超能力者による犯罪は全国的なんですから。かと言って全都道府県に設置するのは超能力者の数が不足するし、超能力者の実力にバラつきが大きくなってしまう。よって地方で拠点を置いてTRACKER(超能力捜査官)たちを派遣する形で落ち着くと思います。複数の県を管理するのでどう考えても1人ないし、2人では不可能です。それで地方レベルで委員会を置くでしょうね」

「なるほどな」

「白井さんは東京に残るという条件下であれば、この提案を飲むと主張するでしょう」

「コネクションを手放したくないだろうしな」

「それに自分の選挙区内の有権者からの支持も盤石にしておきたいんじゃないですかね」

「白井の牙城を崩さないとな」


 葉山は江藤の言葉に答えず、カップに手を伸ばすとそのまま口へと運び、紅茶を喉へと通す。目を閉じて香りや風味を同時に楽しむように顔を少し反らしながら、一息入れるのだった。


#####


「いやいや、必要に応じて白井さんに繋がりのある団体や企業に直接かけ合ってもらった方がスムーズになるに決まっているじゃないですか」


 葉山は少し大げさに笑ってみせる。


「そんな建前は良いんだよ。お前の狙いは何なんだ?」


 葉山は笑みを抑え、間を空けて答える。


「……白井さんを地方に追いやったところでその影響力が弱まるはずないじゃないですか」

「白井自体は明らかに嫌がってたじゃないか」

「そんな素直に受け取らない方が良いと思いますよ?」


 葉山は自販機の前で立ち止まり缶コーヒーと紅茶を購入し、缶コーヒーを江藤に手渡す。


「どういうことだ?」


 江藤が受け取った缶コーヒーを開けながら尋ねる。


「まぁ、ちょっとした揺さぶりでしょう。あそこで議論を長引かせて与党を譲ったとはいえ、未だ日陽党の存在はこの委員会において影響力は絶大だと誇示するためにね。しかし、予想外に僕が簡単に受け入れたので拍子抜けすると同時に少し油断も生じたかもしれません」

「……何でそういうことを委員会前に言わないんだよ」

「当たり前のことなんで省きました」

「……ッ」


 江藤は葉山の小馬鹿にするような調子で発せられた言葉に少しイラつきを覚えたものの、すぐに落ち着きを取り戻す。


(いちいち言葉がムカつくが……こいつの言っていることは正しい)


「これからは陣取り合戦になりますよ」


 不意に葉山が呟く。


「陣取り合戦?」


 江藤が聞き返す。


「えぇ。おそらく北海道地方、東北地方、関東地方、中部地方、近畿地方、中国・四国地方、九州地方の7地方で分けて北海道2名、近畿で2名……といった具合に割り振る話が出て……」

「それで関東はお前と白井の2人で残りは1人ずつか」


 江藤が口を挟む。


「……いえ、関東地方は5人です。実質10人で6地方を分け合うことになります」


 江藤が溜め息をつく。


「葉山、お前足し算できるか?」


 江藤の言葉を聞くと、葉山はやれやれと頭を横に振りながら、少し馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「できますよ。江藤さんこそ、きっちりと頭使って下さい」


 江藤は少し苛立つ。


「どう考えてもお前の方がおかしいだろ」


 葉山を一切ペースを崩さずに答える。


「江藤さんも大先輩ですし、白井さんがおっしゃる通り経験も豊富なので省いても問題ないのかと思いまして」

「いちいち腹立つ奴だな……」


 江藤は依然、笑みを崩さない葉山を見ながら頭を掻き毟る。


「分かった、口を挟まない。説明してくれ」


 葉山は微笑んだ後に話し始める。


「今回、白井さん、そして全体を統括する僕が東京に残ることが決まり、とりあえず他の党もこの話を持ち帰るはずです」

「ああ」

「現与党と前与党のみが日本の中心に残る。さらに現与党側で残るのは若手の僕です。他の党は、結局のところ日陽党が実権を握り続けることを懸念して関東地方は5大政党より1名ずつ置くことを提案してくると思います」

「勢力の均衡を図るってことか」

「はい、やはり優秀な超能力(ちから)を持つ超能力者が集まるのは関東エリア、特に東京ですからね。特別教育機関も特に優秀な子は、地方から東京に来ることを要請しますし。そのコネクションを僕ら日月党も含めて逃したくないはずです」

「……お前は初めからそれを読んでいたのか?」


 少し間を置いて葉山が答える。


「えぇ。超能力者管理委員会は実質、日陽党が実権を握っていました。今回の政権交代を機に日陽党の影響力を弱まらせようと考えていたのですが、白井さんを東京に置き続けることをあえて簡単に受け入れ、他の党がこの提案を出しやすいようにしてみました」

「お前が最初から提案すれば良いじゃないか」

「もちろん、それもアリですが、あえて他の党に意見を出させることで、『他の意見を受け入れるだけの度量が日月党にはある』、という他政党、及び世論へのアピールにもなるかと思って今回はこう動いてみました」


 江藤は感心して息を飲んだ。


(この葉山順也という男。何を考えているのかいまいち掴めないが……将来的に、いや、もう既に我が党の最重要人物だな……)


 江藤がチラッと視線をやった先には葉山は依然として笑顔を浮かべている。


「いや〜陣取り合戦は楽しくなりますよ〜」


 葉山の調子は依然明るい。





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