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【コミックス第1巻発売中!】TRACKER  作者: SELUM
夏休み前編 (超能力者管理委員会編)
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第52話 - 超能力者管理委員会

政府内で蔓延る思惑。


超能力者委員会にて一癖も二癖もある登場人物たちがぶつかり合う!

「さてと、始めましょうか」


 派手なスーツに身を包み、爽やかな笑顔を浮かべながら若い男が議長席へと座り、話を始めた。男の名前は葉山(はやま) 順也(じゅんや)。先日23歳になったばかりのこの男は、2年前に若くして衆議院議員に当選し、今年から『超能力者管理委員会』の委員長を務めている。


––––超能力者管理委員会

 日本国民の超能力に関する情報を管理している。日本国民は出生届と共に先天的にサイクスを持つかどうかを政府に提出することが義務付けられている。その管理やサイクス量を分析し、特別教育機関に入学させるかどうかの判断など、超能力に関する決定を任されている。

 超能力者管理委員会は、意見の偏りなどを防ぐために与野党混合・超能力者/非超能力者混合で5大政党から2名ずつ計10名で構成される。また、超能力者管理委員会はどこの省庁にも属さず、超能力者に対する各省庁の動向、特にその特性から内務省を監視する立場となっている。


「フンッ」


 白髪を搔き上げながら貫禄ある男がわざとらしく声をあげる。


「どうされました?」


 葉山は笑顔のままその男に尋ねた。


「いや何だ、この間の総選挙で見事政権交代を果たし、最近の情勢から目玉と目されていた超能力者管理委員会・委員長を誰に任命するか……まさか人気だけが取り柄の経験不足な若者を置くとはねぇ……。人気取りに走るだけでは政権運用は上手くいかんよ」


 日本陽光党(日陽党)の重鎮の一人である白井(しらい) 康介(こうすけ)は少し大げさなアクションで答えた。日陽党はこれまで長期政権を築いていたが、先の総選挙において日本月光党(日月党)に政権を明け渡している。


「あはは。白井さんのような経験豊富な方にご指導していただけて嬉しい限りです。あ、ちなみに超能力者による犯罪に歯止めを効かせられなかった政策に関しては参考にした方が良いですかね? 白井()委員長?」


 葉山は依然として笑顔を崩さぬまま一回り以上も歳上の白井に皮肉を浴びせる。


「この……」


 白井が葉山に対して言い返そうとした瞬間、1人の若い男が間に入る。


「お二人とも止めましょう。この場で政党同士のいざこざを持ち込むべきではありません。近年の超能力者による犯罪に対する対策が必要というのは全会一致のはず。私たちはそれに集中するべきです」


 間に入ったのは日本光明党(日光党)の石野(いしの) 亮太(りょうた)で、無駄な諍いを避けるために2人を落ち着かせる。


「フンッ」


 白井が黙りこくる。その様子を見た葉山は再び話を始めた。


「ありがとうございます、石野さん。では本題に入りましょうか」


 葉山は一呼吸してから続ける。


「まずはTRACKERSの設置区域や所属機関の話です。内務省直属の組織とすることに関して異議はあります?」


 国民自由党の伊田(いだ) 裕子(ゆうこ)が挙手し、意見を発する。


「政府直属の機関にすることで政府の私利私欲に利用されてしまうのでは? という懸念を国民は抱いています。凶暴化する超能力者に対する組織ということでTRACKERSの超能力者も相当な使い手が必要となります。そのような集団が暗躍するようなことになれば……という意見ですね」

「なるほど、なるほど。しかしそれを監視し、管理するために僕らがいるのでしょう?」


 葉山の答えに対して石野が意見を挟む。


「そこで設置区域の話になります。東京だけだと全国的な犯罪に対しての動きが遅くなります。かと言って全国に1箇所ずつ設置するにしても超能力者の数が不足するし、管理が追いつかないでしょう。無理やり設置できるかもしれませんが、それだと設置区域によって超能力者の実力に偏りが生じてしまう。各県各区に設置するなど以っての外ですしね」


 眼鏡をかけたかけた気の弱そうな女性、異能共生党の国田(くにた) (のぞみ)が手を挙げ意見を述べた。


「あの……県単位ではなくてもう少し大きな括り、例えば九州地方といった感じでTRACKERSを設置するのはどうでしょうか? そして10地域以内にして管理委員会の私たちがそれぞれの地域の責任者として運営するのはどうでしょう?」


 国田の意見に対して大きく頷いた葉山はそれを補足する。


「良いアイデアですね! 大きい単位だと1人では限界があるので、エリアに属する各県に協力を要請して管理委員会をそれぞれ設置しましょう。そして定期的に僕たちが集まって意見交換をし合って状況を把握し合う。そして必要ならば応援要請するという形で」


 そこにもう1人の日陽党の島田(しまだ) 修太郎(しゅうたろう)が言葉を発する。


「それは、我々は東京以外の地域の担当になった場合、地方に飛ばされるということか?」


 各都道府県は最大10地区に分けられそれぞれの地区ごとに数人ずつ当選する。今日(こんにち)において、XR(クロスリアリティ)技術や仮想空間を展開する超能力者の出現によって国会議員は当選地区や東京外の地域で業務をこなしながら参加することも可能となった。この影響で地方自治体の声をより国政に反映し易くなった。


 島田の質問に対して、国田が困ったように少し間を空ける。しかし、ハンカチで額の汗を拭うと、口元をキュッと結んで意を決すると、か細い声でそれに答えた。


「そういう事になりますね……」

「それは困るね」


 間髪入れずに白井が言う。


「私はこれまでこの東京で活動してきたし、様々な繋がりもある。この場に留まれるのならば良いのだがねぇ……」

「いやいや白井さん、あなたほどの方でしたらそのコネクションを使ってその剛腕を発揮できるでしょう?」


 日月党の江藤(えとう) 隆弘(たかひろ)が白井に告げる。


「そうそう甘いものでもないんだよ、江藤くん。君もまだ若いとは言え、それなりに経験を積んだんだ、分かるだろう?」


 江藤は黙りこくる。


「それに少し嫌らしい話になってしまうが、私は東京都第5地区。地区の有権者の皆様に私の活動が伝わりにくくなってしまうんじゃあないかなぁ。私は何よりも彼ら・彼女らのために政治家生命を賭けて日々邁進しているんだ」


(チッ……)


 石野が内心で白井に毒づく。


(こんな場でも白井は保身か。超能力者を利用して暗躍してきたお前が有権者たちのことをいちいち考えているはずがないだろう)


 葉山が白井に向かって拍手しながら話す。


「いやー素晴らしい政治家姿勢ですね、白井さん。勉強になりますよ。白井さんのコネクションを存分に使えるというのは僕らにとってとても大きな意味を持ちます。そして白井さんにはそれらに直接かけ合って欲しい。どうでしょう? 皆さん、白井さんには東京に残ってもらうのは。この委員会の委員長という立場上、僕も東京に残ることにもなりますが……」

「良いんじゃないですか? 私は反対しませんよ」


 伊田が最初に答え、他の者も少しずつ賛同し始める。


「フン、君に賞賛されるのは素直に喜べないが……私はそれで構わんよ」

「ありがとうございます」


 葉山は白井にニッコリと笑いかける。


(何でアイツが頼まれたみたいになってんだ。希望通りになっただけだろ。それよりも葉山委員長の狙いは何だ? 白井を遠ざけて影響力を少しでも抑えることじゃあないのか?)


 石野は思考を働かせているうちにその日の委員会は解散した。




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