第50話 - 新組織
藤村課長の活躍そして政府が新組織設立を発案する!?
「ハァ……ハァ……くそっ……何なんだよあいつ……」
1人の若い男が息を切らしながら走る。男が走ってきた方向から1発の銃声が鳴り、男は後ろを振り返る。
「銃声!? 外したのか!? とにかくあのおっさんヤベェ……!」
男が再び正面を向いた瞬間、銃弾が着弾した壁から歪んだ穴が開き、そこから腕が現れて男に向かって伸びる。
「!?」
そのまま男は胸ぐらを掴まれ、その穴からは警視庁捜査一課長・藤村洸哉の姿が現れる。
「よぉ、さっきぶりだな」
そのまま藤村は身長180センチを超える男を地面に叩きつける。
「そのまま大人しくしとけよ」
そういって藤村は一瞬男から目を離し、ポケットから携帯を取り出す。男はその隙に逃げ出そうとする。藤村が右手に持っていた装填数6発のリボルバー式装飾銃が散弾銃に変化して男の背中に向かって撃たれる。男はそのまま地面に押し付けられた。
「重い……!! 動けねぇ……! 一体何だ!?」
「大人しくしてろって言ったろうがよ」
藤村は溜息を吐きながら呟いた。
藤村洸哉の持つ銃・〝八方美人〟は、使用する特殊弾によってその形状を変化させる。また、それぞれの形状の銃には藤村のサイクスを使ったエネルギー弾を基本性能として放つことも可能である。
基本形状であるリボルバー式装飾銃は〝次元開通弾〟を使用することができる。最大6つの接続する次元の穴を開き、自由に出入りすることができる。藤村は左手で触れた位置から自由に設置した次元の穴へと移動することが可能で、また、直接命中した相手は藤村が指定した穴へと強制的に移動させられる。
一方、ショットガンの形状に変化した〝八方美人〟は〝重力炸裂弾〟を使用し、命中した対象の重力値を変化させる。
「ご苦労だったな」
藤村の背後から組織犯罪対策部長の石川一志が声をかける。
「最近現場に出されること増えてねーか? 俺は捜査一課の課長だぜ? そもそも今回は管轄も違うしな」
「今回の『DEED』って組織の連中、新興組織の癖に麻薬オークションを開催してたんだ。これまで足取りを掴めなかったことから強力な超能力者がいるって話だったんだよ。念のために最高戦力の一人であるお前に来てもらったんだよ」
「そっちにも超能力者いるだろ。結局、今回の連中は雑魚ばっかだったじゃねーか。こいつなんて非超能力者だしよ」
そう言って、最後に捕まえた男に手錠をかけて引き渡す。
「最近は超能力者が増えてきてる。しかも昔に比べて危険な力を使う連中がだ。こっちとしてはとっととTRACKERSって超能力者捜査官を組織して管轄の垣根を超えて協力して欲しいもんだよ。まぁ手続きとかで稼働し始めるのは2、3年後とかだろうけどな。お前がリーダーやるんだろ?」
「まぁな。ただこっちも人選に困ってるんだよ。新しい世代の方が便利な超能力を持ってる超能力者が多くてね。このままじゃ引率の先生みたいになっちまう」
「色々と大変なんだなお前も」
石川はそう言って藤村の肩を軽く叩き労う。
「でも最近の犯罪を考えてみるとこっちに形振り構ってられないのも事実だよな。政府もそのつもりなんだろ?」
「あぁ。まだ二十歳少し超えた若い連中なら分かるけど、高校生からも候補生出してんだぜ?」
「それだけ才能はあるってことだろ?」
「まぁ……そういうことなんだけどな」
藤村本人としてもまだ高校生である和人や瑞希をこのプロジェクトに参加せることに積極的に賛成していない。しかし、2人の才能や超能力が貴重な戦力になることも理解している。そして既に所属を希望している霧島和人には近いうちに政府からの書簡が届けられる予定であるという。
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「速報です」
月島家に昼のニュースが流れる。瑞希は高校に登校中で、家には非番の愛香と翔子の2人がいる。
「政府は近年、超能力者による犯罪率や凶悪犯罪が増加していることから優秀な超能力を有する捜査官で組織されたTRACKERSを設置する案を発表しました。野党もこの案に対して協力的な姿勢を示しているとのことです」
2人はテレビに注目する。
「超能力者の選定に関しては議論の余地があるとされています。警察機関に所属する超能力者だけでは不足する懸念があり、スカウトすることも視野に入れているとのことです。しかし、これに関してどう選定するのか、また、その場合にはプライバシーに関する問題はクリアされるのかなどの問題も付随します。早野総理はこうした諸問題にも誠意を持って対応し、遅くとも3年後には始動できるよう努めるとも述べました」
報道を聞いていた愛香は鼻で笑う。
「ほとんどは特別教育機関で教育を受け、資料が管理されている優秀な超能力者から選ばれるわね。瑞希もしつこく詳細聞かれたし。プライバシーなんて今さらって感じよ」
翔子が愛香に尋ねる。
「霧島君はご両親も同意したって聞いたわよ」
「えぇ。これから本格的に戦闘訓練や必要な知識を身に付けていくみたいです。確かに戦力的には上がるだろうけど私はやっぱり反対かな」
「そうね」
2人はそう話しつつコーヒーを口にした。




