第29話 - クラスマッチ②
女バスの予選を突破した瑞希。
女バレ準決勝へと向かう!
瑞希はバスケットボールの試合を2連勝で終えた。昼食を摂った後に14時から始まる超能力女子バレー準決勝までの時間、男子超能力者サッカーの予選の応援に向かう。
「バレーまで1時間、超能力者サッカーは全部応援できるけど、非超能力者サッカーの方は途中までかな?」
志乃が時計を見ながら話す。
「うん、残念だけどそれまでいっぱい応援しよー」
萌がそれに応じる。瑞希は萌の言葉に頷いた後に試合へと目をやる。背番号10を背負う城島康太がフリーキックのためにボールの前に立っていた。城島が右手を挙げた後にペナルティーエリアにボールを蹴り込む。
超能力者男子サッカーにおいて選手は試合を通して3回のみ〝超常現象〟を使用してボールの軌道を変えることが許されている。これは守備側は許されず、攻撃側のみが許される。また、固有の超能力を使うことは相手に直接影響を与える超能力でなければ事前の申請で許可される。
敵陣左サイド深くから蹴られたボールはゴールに向かってカーブを描き始める。その時、ボールが突然右に方向転換し、フリーの葉山 慶太へ向かう。葉山は胸でトラップ、そのままシュートを放ちネットを揺らした。
「すごい!」
「葉山くん、ナイシュー!」
周りの歓声に釣られて瑞希も立ち上がって手を叩きながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
「城島くんも〝超常現象〟を使うタイミング完璧だったね!」
綾子が興奮しながら話す。
「〝超常現象〟あと2回しか使えないよー! 気を付けて!」
中には〝超常現象〟の制限回数に関して注意を促す者や油断しないように気を引き締める者たちもいた。その後、1年1組は相手チームの反撃によって1点を失うが3対1のスコアで勝利を収めた。一方、非超能力者サッカーでは白熱した試合が展開され、2対2の同点となったところで瑞希たち超能力女子バレーボール選手は準決勝へと向かった。
「サッカー勝てると良いね!」
そんな会話をしながら瑞希たちは体育館へと向かった。ラリーなどをして身体をほぐした後、2年3組との準決勝が始まろうとしていた。
1年1組の女子バレーは月島瑞希(7番)、大木志乃(4番)、豊島萌(5番)、西川美奈(8番)、田上由紀(3番)、天野 恭子(13番)のメンバーとなっており、天野のみがバレー部だ。
ルールとして〝超常現象〟による方向転換は許されていないが、相手に直接影響を与えない超能力は許されている。サイクスを込めたサーブやスパイクはとても力強く、レシーバーは考えてサイクスを込めなければ場合によっては大怪我を負う。ここでもやはり〝フロー〟が重要となるが、この学習内容は2年生からとなる。瑞希が事前にチームメイトに説明したとは言え、1年生にとっては不利な競技となってしまう。
超能力女子バレー準決勝の開始を合図する笛が鳴る。少し深呼吸をした相手選手がボール、そして腕にサイクスを込めジャンピングサーブを放つ。1年1組の決まり事としてレシーブは瑞希、バレー経験のある天野、瑞希の説明を受けて〝フロー〟を若干会得した萌が担う。
(やばっ、私のとこ来る……)
萌は手を組みサイクスを腕に込める。
(痛ッッ!!)
萌のサイクスの移動が若干遅く、ボールが前気味に高く跳ね上がる。
––––〝病みつき幸せ生活〟
瑞希はサーブが萌に向かった時点でp-Cloudから〝病みつき幸せ生活〟を選択して発動させた。自分に注射を打って身体能力とサイクスを増加させ、ボールの落下地点へと向かって身を投げ出しながらボールを上げる。この時、ボールの勢いを上手く殺し、綺麗な軌道で自陣へと戻し、アタックができるまでのボールの質に変えた。
(月島さん、ナイス!)
志乃がアタックのために跳ぶ。女バスでのジャンプボールの時のように高く舞う。
(高っっ!!)
ジャンプした大木が目の前にそびえ立つ3枚のブロックに怯む。志乃が打ち込んだ渾身のアタックは、真ん中の壁に当たりそのまま自コートへと落ちてしまい、先制点を奪われた。
(これキツイな)
瑞希は内心そう思いながらも必死にボールに食らいつくが〝病みつき幸せ生活〟による体力の消耗やサイクスの使い過ぎによる疲労で失点が重なり、3対0でストレート負けを喫した。
1年1組女バレチームは、結果に肩を落としつつコートを後にした。
(p-Phoneで複製した超能力を使いながらだと、そっちに気を取られちゃう。それだと〝アウター・サイクス〟がままならなくなってサイクスの消費が激しい……これは大きな課題だな……)
瑞希は自分の課題を噛み締め、頭を切り替えようと努めた。
(さすがにp-Phoneを併用しての〝アウター・サイクス〟や〝フロー〟は難しいようね。けどこれから学べば良いのよ、瑞希ちゃん。まだ15歳なんだから)
観戦していた翔子はそう考えながら瑞希を見守っていた。
#####
「樋口さんは超能力者に対して恨みを持っている印象は受けました」
比較的軽傷で済み、既に退院した泉が愛香と玲奈の聞き込みに応じていた。
「妹さんが第三地区高等学校に通うくらい優秀みたいで劣等感があったみたいでした」
「なるほど。他に何か気になることはありましたか?」
「いえ、特には」
2人は泉にお礼を言って車に戻る。
「瑞希ちゃんの高校の3年生なのね、樋口の妹さん」
玲奈はそう呟きながら聞き込みの整理を行う。その時、泉が慌てて2人の乗る車に向かって来た。
「泉さんどうされましたか?」
愛香が車の窓を開けて尋ねる。
「あの、お役に立つか分かりませんが、樋口さんよくサイクス研究所の方を向いて『あんなのがあるからダメなんだ』って悪態をついてました」
「なるほど。わざわざありがとうございます」
泉の背中を見送りながら玲奈が愛香に声をかける。
「とりあえず第二研究所の警戒を強めとくわね」
「えぇ。研究所でもあるからサイクスの〝餌〟は豊富だしね」
少し間を開けて玲奈が話を続ける。
「結果的に花さんの判断は正しかったわね」
「確かに。みずが巻き込まれる可能性は低くなったってことだからね」
「今日からクラスマッチでしょ?」
「えぇ。観に行ってあげたかったけどしょうがないわね」
愛香は溜め息をつくと報告のために課長へと電話をかけた。玲奈はその会話を聴きながら車のハンドルを切った。




