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【コミックス第1巻発売中!】TRACKER  作者: SELUM
番外編②前編 - DEED編
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番外編②-4 – 取り調べ①

狩野の超能力を使って取り調べを開始する杉本...!


天草に対してどうアプローチをする!?

「それでは始めますね」


––––〝脳内取調室(ウェベックス)


 杉本が取り調べ相手を決めたのを見て狩野は地震の超能力・〝脳内取調室(ウェベックス)〟を発動した。杉本、鶴川、狩野の3人は2つの部屋を前に直線の廊下に佇む。左の部屋には『取調室A – 天草英理子』、右の部屋には『取調室B – 横手イルマ』というホログラムが表示されている。


「これは……なかなか不思議ですね」


 特に非超能力者である杉本は狩野によって作り出された精神世界へと飛ばされたことに感心し、好奇の目を持って2つの取調室を交互に見ている。


「取り調べの順は先ほどおっしゃっていた通りで大丈夫ですか? セッションがスタートするまでは順番を変えられますよ」


 狩野は取り調べが始まる前の最後の確認を行う。


「結構ですよ」


 杉本が穏やかに答えると狩野は「それではこちらへ」と言って取調室Aの扉を開いた。3人が部屋へ入るとそこには中心に照明が1つ置かれた机が設置されている。そこにはストレートなロングヘアを流し、ネイビーのビッグシルエットTシャツにホワイトのカーゴパンツを身に着けた女性が1人椅子に座っている。


「こんにちは。あなたは天草英理子さんでお間違いないですか?」


 狩野は着席している女性に告げ、女性は大きな目を狩野に向け、黙ったままコクッと頷く。天草英理子は現在26歳。子役の頃から女優として活動し、成人してからも様々なドラマやファッション誌にフィーチャーされ、若者たちを中心に人気を博している。

 狩野は杉本に合図を送り、自分は部屋の隅にあるもう1つの机へと着席する。また、杉本は天草の向かい側の椅子を引いて座り、鶴川はその隣に立っている。


「初めまして、天草さん。僕は捜査一課の杉本という者です。こちらは鶴川です。どうぞよろしくお願いします」


 鶴川は軽く会釈をし、天草は黙って応じる。


「天草さん、お会いできて光栄です。昨今のご活躍は目を見張るものがありますね。僕には高校2年生と中学1年生の娘がいるのですが、2人共あなたの大ファンでして。ドラマを録画してまで視聴しているのですよ。お陰で宿題が遅くまでかかってしまって親としては困ったものです」


 杉本はまるで世間話をしているかのように軽快に話し、その後も天草の活動に対する称賛を数分間続ける。天草も最初は話すことを拒絶していたものの、杉本の和やかな様子や称賛されたことに少しずつ気を良くしたのか簡単な返答をするようになる。


「あなたのような方がこのような場に……。非常に残念なものです」


 杉本の一言に対して少し表情が明るくなっていた天草は俯いて黙り込んでしまう。


「幼い頃からの周囲の過度な期待、身近な方々にも相談しにくかったのですかね? そしてあなたは常に若者たちのシンボルでないといけない……。そうした環境はあなたの気を休める時間を与えてはくれなかった。あなたは心の救いを求めてこのような場に足を運んでしまった。どうでしょう?」


 天草は杉本の言葉を一度飲み込んだ後に再び下を向いて自分の膝に目をやり、微かに肩を震わせる。その後、少しだけ顔を上げてその様子を静観していた杉本の顔を見て口を開く。


「私、去年の春頃に一度だけ知り合いに言われて……試したんです。本当にその1回だけなんです。実際に使ったのは……。使った後に怖くなって……」

「それでは今回はなぜ?」


 天草は少し考えた後に話し始める。


「その、どこで知られたのか分からないですけど、1ヶ月ちょっと前にDEEDの人たちに勧誘されて……。怖かったんですけど、絶対に見つからないからって。それで……。最近、ドラマの仕事やファッション系の仕事が大変になってきていて。精神的に参ってしまって。去年使った時に気持ちが楽になったのを思い出して……」

「それで今回参加してしまったと」

「はい……」


 天草は力なく答える。


(上手いな)


 狩野は杉本の様子を見て素直に感心する。


(初めに相手のそれまでの実績を称賛し、身近な例を出しながら相手の懐に潜り込んで話しやすい環境を作り出す。その後、若干の批判を展開することで相手の良心に訴えた後に相手の立場になって同情の姿勢も示す……。天草の感情はジェットコースターのように激しく動いただろう。王道と言えば王道だが、相手は若い女性で拘束された直後の素人。揺さぶるには十分だったな)


「それでは気になることをお一つ」


 天草の涙が少し落ち着いてから杉本が尋ねる。


「その天草さんに接触したDEEDの者は〝絶対に見つからない〟と言ったのですね? きちんと護衛を付けるではなく?」

「はい。もちろん、超能力者のボディーガードを付けるとも言ってますたけど。けど……」

「けど?」


 杉本は天草の言葉に対して少しだけ身を乗り出して尋ねる。


「超能力者じゃない人が護衛についたんです。言われていたことと違うって話はしたんですが、もう引き返せなくて……」


 杉本は憔悴しきった様子の天草をなだめながら何かを考えた後に声をかける。


「天草さん、あなたが本当に去年の春から薬物に手を出していないのであれば……。情状酌量の余地があると判断されるかもしれません。あなたが反省し、更生して戻ってくることを僕は楽しみにしていますよ。困ったことがあればいつでも僕にご連絡下さい」


 そう告げた後に杉本は狩野に目配せする。狩野は静かに頷くと鶴川と杉本の2人を連れて部屋を後にする。3人が廊下に出ると取調室Aは消滅し、取調室Bが残る。


「1つの取り調べが終わると3分間だけ話し合いの時間が設けられます。これは制限時間から消費されないのでご安心を」

「助かります」


 杉本は答えた後に2人の方を振り返る。


「それでは少しだけ話を整理しますか」


 3人は廊下で天草の取り調べで得た情報の整理を始めた。





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