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【コミックス第1巻発売中!】TRACKER  作者: SELUM
追う者、追われる者編
134/172

第132話 - 3090Q1KL3

両親の痕跡を追うQ1–KL3。


メタバース、Room Q1に残された手がかりとは!?

 Q1–KL3は両親の足取りを全く知らなかった。なぜなら彼がこの世に生まれ落ちる前に彼の両親は第10地区を離れ、第5地区へと移住したのだから。


(施設の中にいた子供は身寄りのない者やその家族の生活水準を上げるために実験に駆り出された者だ)


 さらに後者の者たちの中には家族と共に第10地区で生活しつつ、毎日、又は週に数回施設へと通う子供たちと一定期間、又は半永久的に施設に預けられてその家族は別地区へと移住し、何不自由ない生活を送っている者たちで分かれている。


(俺は産まれた時から施設に譲渡され、家族は既に第10地区にいなかった。相当な手当てを受け取っているはず。ということは3、4、5地区に移住しているか?)


 10地区に分けられている東京都において富裕層や芸能人が数多く住み、最も華やかな地区である第5地区を筆頭に第3、第4地区の3つの地区は全国的にも裕福な地域であると知られている。


「我が党は日本を世界と対抗し得る超能力・科学大国へと成長させようと考えております。そのためにもサイクス科学と従来の科学とが手を取り合ってサイクスの謎解明に尽力し、それを利用する方法を開発するという動きを積極的に行うべきなのです」


 Q1–KL3はふと目をやった大型モニターに日陽党の議員が政治番組に出演して自分たちの活動をアピールしている。


(白井康介か……)


 Q1–KL3は時折、第10地区の研究施設を訪れていた若い議員、白井康介を思い出した。研究施設は白井だけでなく著名人や研究者が秘密裏に訪れてその進捗を確認しに来ていた。

 白井はQ1–KL3の幼少期には頻繁に現れて自分のサイクスに期待を持って接してきていた。しかし、自分に超能力がなかなか発現しないことから徐々に会いにくる回数が減っていった。


(俺に頻繁に会いに来ていたことを考えると両親は白井と取り引きを行った可能性が高い。白井の選挙地区は第5地区。俺の両親は第5地区にいるか? いや、そんな明らさまなことはせずに別の地区にいるのか?)


 Q1–KL3は様々な可能性を考慮しつつFNS(Free Net Space=フリー・ネット・スペース)へと赴き、白井康介の経歴や思想、派閥、深い交流を持つ他の議員や事務所スタッフ、秘書について調べ上げた。MT–72はその中で1人、東京都第10地区出身の者を見つけ出す。


––––白井康介 政策秘書・葉山(はやま) 光輝(こうき)


 葉山光輝の経歴を調べると第10地区で生まれ育ち、東京第十地区大学を卒業している。卒業して2年後には白井康介議員事務所のスタッフとして働き、その後すぐに秘書となっている。


(経歴が詳しく分からない。卒業後に何をしていたのか分からないが、突然白井事務所で働き始めてすぐに秘書になっている。今では政策秘書となって重要な役割を担っているな)


 Q1–KL3はさらにネットの掲示板を調べてみたが、葉山秘書のことについて詳しく知る者は見当たらなかった。それでもQ1–KL3は粘り強く過去の書き込みを(さかのぼ)った。その中で一つの書き込みを見つける。


––––葉山秘書の秘密を知りたい者は私のPM(Private Metaverse=プライベート・メタバース)の〝Room–Q1〟へ。パスワードはそれに続く英数字を足して語尾に、その前には出生年を。ハイフンは不要。


 これは約5年前に書き込まれたもので、これに対してネットの者たちは『一介の秘書に興味なんて持つかよw』や『誰だよwww』といった書き込みがあるばかりでその仮想空間へ接続したと思われる者はいないようだった。

 Q1–KL3はVRヘッドセットを装着してML(Metaverse List=メタバース・リスト)から〝Room–Q1〟を検索する。


(まだ存在する)


 Q1–KL3はパスワードを〝3090Q1KL3〟と入力すると開錠され、書き込み主によって創り出された空間へと(いざな)われた。


「誰もいない」


 5年前に創り出されて人が接続したことがないためか、その仮想空間にはMM(Metaverse Master = メタバース・マスター、その仮想空間を創り出した者)が不在だった。Q1–KL3は通知にMMが気付いて接続するまで待機した。


––––ピッ


 突然、Q1–KL3の目の前に2つの質問が流れ、Yes、Noの選択肢2つが表示される。


––––あなたは東京都第10地区出身ですか?


––––あなたは両親を知っていますか?


 そして最後に30秒の時間制限がある3つ目の質問が流れる。


––––あなたの名前を漢字で入力して下さい


(俺の名前は……)


 Q1–KL3は名前を入力することなく30秒が経過する。


––––ブウゥン


 突如、Q1–KL3の目の前に眼帯を着けたウサギのアバターが出現する。


「俺はMMがこの空間に残したメッセージアバター。あんたがMMの求めた相手かどうかこの簡単な質問だけじゃあ分からない。それにログを残したくないしな。第7地区2番街第7セクタ–13–17。ここに来い」


 Q1–KL3はFNSを抜けてすぐさま第7地区2番街第7セクタ–13–17へと向かった。そこは第7巨大保管庫エリアだった。ここは主に富裕層が利用する特殊な保管庫エリアで特定の者しかその保管庫を開けられない仕組みとなっている。


「こちらで血液を採取します」


 Q1–KL3は血液を採取されて数十分後に〝3090Q1KL3〟と書かれた保管庫へと案内された。


「ごゆっくりどうぞ」


 案内人が姿を消したのを確認してからQ1–KL3は入室する。そこには1台のPCが設置されていた。PCは電源と繋がっておらず、その接続コードは見当たらなかった。


––––ズズズズ……


 PCから紫色のサイクスが漏れ出し、画面上にメッセージが表示される。


「あなたのサイクスをPCに込めて」


––––私を使え、Q1–KL3


 黒いサイクスがQ1–KL3に告げる。


––––お前は死ぬ前、特異複合型超能力者だった。つまり私がお前の原点だ


 Q1–KL3は言われた通りに黒いサイクスをPCに込めた。


「!?」


 その瞬間、モニターから紫のサイクスで型取られた両腕が出現し、Q1–KL3を包み込みそのまま中へと引きずり込んだ。


「初めまして」


 Q1–KL3の目の前には白いワンピースを着て長髪をなびかせながら笑う女性が立っていた。





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