第113話 - 暗黒の解剖室 (シャドウ・シアター)
実力者同士の3on3......!!
JESTERの異質な超能力も徐々に明らかに......!!
「ぬううぅゥんン」
––––〝愛に痛みはつきもの〟
柳の紅く輝くサイクスが切断された右腕の切り口に集中する。その眩い輝きは徐々に右腕の形を模し、実体を持ち始める。
––––キイイィィィ……
その後、サイクスは柳の全身を覆い、右腕が復活した柳が強大なサイクスを纏って現れる。
「へえぇ……」
JOKERはその姿に声を発して感嘆する。
「治癒力というよりも再生力だね。素晴らしい」
その一言に対して柳はウィンクしながら「THANKS」と少しだけ背中を曲げて礼を告げる。
「テメェ……」
柳の一撃によって吹き飛ばされたJESTERが粉塵の中、口についた血を拭き取りながら立ち上がる。JOKERはその姿を見ながら軽く笑みを浮かべる。
「乙女の顔面を殴りつけるなんて素敵な教育をされてきたようねえぇ!!!」
JESTERは殺意に満ちたサイクスを纏い、その殺気を全て柳に向けて放出する。
「浮気者には制裁が必要でしょ? その〝紅いリップ〟、お似合いよ? あなたを女として一層、輝かせているわ」
その禍々しいサイクスを物ともせずに柳は淡々とJESTERに語りかける。その柳の冷静な様子はJESTERの感情をより逆撫でする。
––––殺す、ころす、コロス……
「あ、キレた」
JESTERの様子を楽しそうに眺めていたPUPPETEERが一言呟く。
「殺シテヤルよ、今スグにィ」
目を大きく見開いて不気味な笑みを浮かべながら迫り来るJESTERのその狂気に満ちた表情は柳を殺すことのみに全集中を向けており、その動きはそれまでとは比べものにならないほどにキレが増す。
2人の攻防は周囲に衝撃を生み、中途半端な他の介入を許さないほどに激しく火花を散らす。その様子を見てJOKERとPUPPETEER、鈴村と仁の両陣営は2人の攻防を中心に据えてそれぞれの超能力で補助することで戦闘を繰り広げる。
––––つまりJESTERと柳の勝敗がそのまま互いの勝敗へと直結する。
柳は〝愛に痛みはつきもの〟によって回復している。そして、その痛みを伴ったサイクスは3分間、〝痛みを力に〟によって柳のサイクスとして使用することで力が増幅される。その効果は〝痛みを力に〟を重複使用した場合、制限時間が追加される。また、〝愛に痛みはつきもの〟使用後、〝痛みを力に〟を使うタイミングは柳の裁量に委ねられる。
柳はJESTERのメスによって大きく刻まれた腹部のダメージを回復するために〝愛に痛みはつきもの〟を使用、すぐさま〝痛みを力に〟を発動することよって自身のサイクスに加えた。その約1分後、右腕を切断された後に同じように回復、即座に〝痛みを力に〟で力を増幅する。
よって約2分間、重複したパワーを使用することができる。その後、1分間は右腕再生分のサイクスに減退する。
柳は右手をJESTERに向かって『2』の数字を作って不敵に笑う。
「2分でアナタをヤる♡」
その挑発がJESTERの逆鱗に触れ、より一層サイクスを強める。それと同時にPUPPETEERは鹿鳴組59名の死体を代わる代わるに操作して柳、鈴村、仁に攻撃を仕掛ける。
サイクスを持つ死体、持たない死体を次々に操作して3人を翻弄する。鈴村は潜在的後天性超能力者の死体に関する情報を柳と仁にも既に共有する。3人は攻撃を回避しながらサイクスを纏っていない個体に対して突如サイクスが発生することによる攻撃力の上昇を警戒し、多くのことに意識が割かれる。
さらにJOKERは死体にバネを接続してあらゆる場所にそれらを繋げる。そして自身の裁量で〝弾性恋愛物語〟の発動や解除を繰り返し、死体の移動速度を飛躍的に速める。JOKERのこの行為は度重なる挑発によって我を失いかけていたJESTERに冷静さを取り戻させることに成功する。
JESTERの異質な超能力である黒いドーム状のサイクス・〝暗黒の解剖室〟。
生きた者に対して、片手に込められた自身の特殊なサイクスで触れて流し込むことで〝献体〟として〝暗黒の解剖室〟を発動する。発動した〝暗黒の解剖室〟は『移動』、『解剖』、『献体の接続』、『部位の入れ替え』の超能力を発揮する。
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(この2つのサイクス。相当な手練れ。ワシの〝第六感〟に気付いて上手く避けよる。居場所を特定できん)
第81話 - 人魚姫 vs 人間潜水艇 参照
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仁は百道浜立体駐車場において既にJOKERとPUPPETEERのサイクスを感知していたものの、JESTERのサイクスは捉えきれていなかった。これはJESTERの超能力の1つで、〝暗黒の解剖室〟を一方的に移動、さらに移動距離による制限が無いことに起因する。
コンテナターミナルにJESTERが突如として姿を現したのはクラスマッチの際に瑞希に触れていたことが原因だった。この〝暗黒の解剖室〟は、一度発動すると新たに発動条件を満たさなければ再度利用することはできない。柳との打撃の応酬において躱されたように不意を突く以外にある一定水準以上の超能力者相手には戦闘中にこの条件を満たすことは困難である。
しかし、〝献体〟は死体に対しても効力を発揮する。そして死体に対してはJESTERのサイクスを付与する必要はなく、視界に入った死体に対して〝暗黒の解剖室〟を自由に発動することができる。
PUPPETEERは死体を屋上に満遍なく配置し、どこからでもJESTERが仕掛けられる環境を作ることに着手する。既にJESTERが死体間を移動することが可能だと気付いている柳と鈴村だが、いつその時が来るか分からないことで意識が分散される。JESTERの左手を躱して発動条件を知った柳だが、それが逆に別の警戒を生む。
(あの時、私に対してサイクスを込めた左手で触れることを試みていた。つまりは発動条件……! 遺体は初めから至る所にあり、彼女ほどの実力者ならば私との戦闘中に触れることくらいはできたはず。どの遺体に彼女が触れたのか分からない。さらにこの間にも新たに条件を満たす遺体が増えるかもしれない。それにこれまでは彼女と生存者、生存者同士だったのが遺体が選択肢に加わったことで組み合わせが5通りに増えた! 心を削られるわね……!)
柳はJESTERが死体に対しては触れなくても良いという条件を知らない。JESTERはその綻びを突こうと謀る。
しかし、その柳の懸念とJESTERの企みの両方を掌握してしまう最強の超能力者がこの場には存在する。
––––〝愛は海よりも深く〟
仁は空中へ跳躍すると〝愛は海よりも深く〟によって死体59名を一気に囲い込もうと試みる。
––––〝弾性恋愛物語〟
仁の目論みを悟ったJOKERが事前に繋げておいたバネによって貯められたエネルギーを利用して死体を素早く移動させる。17の死体は仁の〝愛は海よりも深く〟から免れる。
「狙い通りにはさせないよ」
「意外と協力プレイ好きじゃの?」
仁の問いかけに対してJOKERは笑みを浮かべながら答えた。
「ククク。基本的には個人競技勢なんだけどね」




