第112話 - 生者の行進
PUPPETEERの狂気......!!!
そして柳 vs JESTERの行方は......!?
––––〝生者の行進〟
PUPPETEERが使用する超能力。右手の指先からそれぞれ最大3本ずつ計15本の糸状のサイクスが生きた人間や動物の脳に接続することで支配し、操作する。
①一度に操作できる個体は合計15体
② 操作されている場合、対象の意識は保たれる
③ 各個体の五感はPUPPETEERを含め共有可能
④ 脳への接続が途切れる、又は対象が絶命すれば解除される
⑤ 操作した対象の超能力を使用することが可能。ただし〝死の舞踊〟と違い、潜在的後天性超能力者にサイクスを発現させることは不可能
「優しさが仇となったね」
「何?」
PUPPETEERの言葉に対して鈴村は不機嫌に聞き返す。
「いや、まぁ君の油断もそうだけどさ」
「貴様、俺をおちょくってるのか?」
PUPPETEERはフッと笑った後に続ける。
「生きたものを操作することも予測できていたみたいだけど、だからこそあの鳥の心臓ではなく、糸を狙ったんだろ? 死んでしまわないように。ま、糸がどこに繋がっているかちゃんと確認しなきゃね、アハハ」
「……」
鈴村はノスリの心臓ではなく、そこに繋がっているであろう糸を狙っていた。ノスリの脳にはPUPPETEERの糸が繋がっており、現在は自由に飛んでいる。この様子から鈴村は自分の予想が外れていたことに気付いた。
対象を操作する超能力を使う超能力者は多くの場合、その相手の意識を完全に乗っ取る。その方が効率的に、そして冷酷に徹することが可能だからである。無意識化であれば痛みを感じない。ゆえに致命傷にならない程度の攻撃を仕掛けようと考えていた。
「残念だったね。俺の〝生者の行進〟にかかった〝人形〟は意識を維持したままだよ。だからもし、君の攻撃が当たったら痛いだろうなぁ」
PUPPETEERがサイクスをより一層強めると、そのマスクは青白く不気味に輝く。
「心地良いんだ。互いの悲痛に満ちた声が俺の心の隙間を埋めてくれるみたいで」
PUPPETEERは元々、〝生者の行進〟を発現し、操作された相手の意識もろとも乗っ取る超能力者であった。そして第三覚醒を終えた後、死体をも操る〝死の舞踊〟が発現する。死体を操作することは人や動物の精神に影響を与える精神刺激型超能力者であっても特異なものである。
そこでPUPPETEERは〝生者の行進〟では意識を乗っ取るという効果を破棄した。さらに全超能力者が基本技術として習得する〝超常現象〟の一切の使用を禁じた。これによってPUPPETEERは左手に死者5名、右手に生存者15名の計20名の〝人形〟を操る〝人形使い〟となった。
「虫唾が走る」
鈴村はPUPPETEERの言葉に嫌悪感を示し、臨戦態勢を整える。
「見解の相違だね」
それに対してPUPPETEERも自身の凶々しいサイクスを放出して鈴村に向かって死体人形を放つ。
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「シッ!」
柳の重い右拳がJESTERを強襲する。
––––ビリビリッ
(このオカマ! 何てデタラメな力なの!? サイクスを込めた防御の上からでも身体の芯まで響く!)
一方の柳はコンテナターミナルでのJESTERの様子を思い返していた。
(あの妙な超能力は一体どんな仕組みなのかしらね? 彼女の移動に解剖、そして臓器の入れ替え……。さらには瑞希ちゃんと可哀想な町田ボーイ、彼女が関与していない者同士でもあの囲いは発動している。おそらく制限もあるだろうけどね)
JESTERは素早く柳の正面に移動し、顔面目掛けて右脚で蹴りを見舞う。柳はそれを左手で難なく防ぐと右拳でカウンターを狙う。JESTERは左手にサイクスを込めて地面を勢いよく突いて上空へ回避、そのまま1回転して取り出したメス3本を柳に向けて投げ付ける。
柳は微動だにせずそのメスを弾き、うち1本を手に掴んで上空のJESTERへ投げ返した。
「!?」
既にJESTERは移動して柳の懐に潜り込み、サイクスを込めた左手を掌底打ちの形で柳の腹部を襲う。柳は〝レンズ〟でその異様なほど込められた左手のサイクスを確認して咄嗟に横へ回避する。JESTERは「チッ」と軽く舌打ちをした後に、右手に持ったメスにサイクスを込めて柳を一閃する。
––––ズバッ!!!
サイクスで大きく強化されたその切れ味は、屈強な柳の肉体を物ともせずに腰周りから右肩にかけて大きく傷跡を残した。
––––〝愛に痛みはつきもの〟
柳は自身の超能力によって傷を即座に完治させる。〝愛に痛みはつきもの〟を自身に用いる場合、もう一度その痛みに耐えねばならない。つまり二度同じ痛みを味わう必要がある。
(基本的には速さを生かした体術とメスによる刃物攻撃が中心ね。今のところ彼女の超能力は使われていないわ。これはつまり発動条件を満たしていないことを意味する)
柳はJESTERの左手を見つめる。
(コンテナターミナルでの出来事を思い返すと、特定の人物、又は彼女自身を中心としてサイクスがドーム状に広がる。彼女単独では発動できないのかしら? あの左手の異様なサイクス。私への攻撃と見せかけて触れることが目的だったのでは? それによってあのドームを生み出せるようになる)
対するJESTERは驚きを持って柳の自己治癒力を眺める。
(厄介ね。触れることができなかった。今の一撃で隙を作って条件を満たそうと思ったけど、あれほどに素早い治癒力……! 〝献体〟とするにはあまりにも相性が悪い)
JESTERは周りに転がる死体に目をやる。
(もっと色んな所に死体を配置しなさいよ、PUPPETEER!!)
明らかに苛立っているJESTERを見て柳はフッと笑うと圧倒的なサイクスを纏い始める。
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(ありゃ? もしかしてJESTER苦戦してる?)
JESTERの視線に気付いたPUPPETEERは転がる59名の鹿鳴組の死体を取っ替え引っ替えに操作して鈴村を襲う。鈴村は〝人命救助〟によって呼び出したショットガンを使って応戦する。
(そろそろ1人くらい狩るか……)
PUPPETEERはJOKERが仁の〝気鮫〟や〝気槍〟に対処しながら上空へと跳躍する様子を視界の端に捉えながら〝死の舞踊〟で鈴村に死体5体を向かわせる。
「やり方が1パターンだぞ! 時間稼ぎもほどほどに……」
鈴村は言葉を言い終わらないうちに眼前に迫る死体の異変に気付いた。
「なっ!」
死体から黒いサイクスのドームが広がり、鈴村ごと囲む。鈴村はショットガンを死体群に放つもそのサイクスは消えない。
(まずいな)
鈴村は背後へと跳躍して黒いドームの範囲外へと脱出しようとするも既に黒い渦が発生、そこからJESTERが現れてメスを振りかざす。
「別に俺は1on1でやろうなんて言ってないぜ?」
「私、目移りしやすいのよ。本命は瑞希ちゃんだけどね♡」
––––〝人命救助〟
「大雅ァ!!」
「Oui」
〝人命救助〟は〝点検者〟によって把握された乗り物を含めた建造物から自由に人や物を取り出す。それは屋上であっても適用される。
「まじィ?」
PUPPETEERは柳を身代わりにする鈴村に対して思わず言葉を発する。
––––ズパンッッ!!
柳の右腕がJESTERによって切断される。切断された右腕はドーム内であるため、出血することなく宙を舞って浮遊する。
––––〝痛みを力に〟
柳の左拳がJESTERの顔面を直撃する。
––––ドオォォンンン!!!
JESTERはJOKERの側まで勢いよく吹き飛ばされ、轟音を響かせる。柳と鈴村は共に仁の側に揃い立つ。仁はドームの範囲外に出たことで右腕の切断面からの出血が始まった柳に目をやりながら尋ねる。
「問題は?」
柳は穏やかに答える。
「NO PROBLEM」




