表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/172

第108話 - 挑発

JOKERの挑発! 対峙する仁は!?

「失敬だなぁ。盛大に、派手にお出迎えしたのに」


 JOKER(ジョーカー)は両手を広げながら仁に話しかける。

 那由他ビルの屋上には鹿鳴組34代目組長・鹿鳴那由他の死体を初め、鹿鳴組59名の死体が横たわっている。彼らの血が整備されたコンクリートを赤黒く染め上げる。足場はほぼ血で埋めつくされて、白色のコンクリートはところどころ剥き出しになっているだけである。そのため、歩を進める(たび)にネチャッと気持ちの悪い音が身体の芯に響く。

 JOKER(ジョーカー)はその音を楽しそうに鳴らして愉快に踊る。それとは対照的に仁は不快そうにその様子を睨みつける。鈴村は革靴に血が付くことを忌々しそうにしながらじっとJOKER(ジョーカー)PUPPETEER(パペッティア)を警戒し、柳は腕を組んで微動だにしない。


「そこらに転がっとるのは社会のクズ共に間違いはないが……。少々やり過ぎじゃな。不愉快極まりない」


 その言葉を聞いてJOKER(ジョーカー)はクククと声に出して笑い、PUPPETEER(パペッティア)は頷きながら話す。


「そうだよ、JOKER(ジョーカー)。身体の部品(パーツ)バラバラにしちゃってさーぁ」

「え〜、キミあっち側なの? キミの場合、ありがたいでしょう? 使える玩具増えてるんだからさぁ」

JESTER(ジェスター)は良いさ。俺の場合は欠陥品だと扱い難いんだよ。できれば何人か生かしてて欲しかったんだけど」

「アハハ。確かに」


 JOKER(ジョーカー)PUPPETEER(パペッティア)まるで2人しかその場にいないかのように楽しそうに会話を繰り広げる。その隙に鈴村は地面に手を触れて〝点検者(インスペクター)〟を発動し、那由他ビルの構造を読み取りつつ、ビル内の状況を把握する。


(……このビル内の生き残りは0(ゼロ)か。女、子供も全員を殺している……。血も涙も無い奴らめ)


 鈴村は頭の中でJOKER(ジョーカー)PUPPETEER(パペッティア)を毒づく。


「そろそろワシらの相手もしてくれんかのぉ」


 仁はゆっくりと2人に声をかける。


「あぁ〜、ゴメン、ゴメン。お爺ちゃんでしょ? ボクの〝第六感(シックス)〟の邪魔してたの。下手に彼女の気を引きたくなかったから引き下がってあげてたのにわざわざ来るだなんて……」


 JOKER(ジョーカー)は少し間を置いて軽く息を吸い、サイクスに若干の敵意を込めて言葉を続ける。


「死にたいの?」


 JOKER(ジョーカー)がサイクスに込めた殺意は本人にとってほんの僅かなものであったが、その激しい自然科学型サイクスは鈴村と柳を一瞬にして警戒態勢に移行させるのに十分なものとなった。


(へぇ……)


 一方で、JOKER(ジョーカー)のサイクスを目の当たりにしても顔色一つ変えずに動じない仁にPUPPETEER(パペッティア)は感心する。


「ワシは吉塚仁という者じゃが……」


 仁は周囲の惨状を一通り見渡した後にJOKER(ジョーカー)PUPEETEER(パペッティア)を真っ直ぐに見据えて静かにサイクスを発する。そのサイクスはJOKER(ジョーカー)の激しさと禍々(まがまが)しさを孕んだ自然科学型サイクスとは違い、真夜中の閑散とした樹海を思わせるほどに静かで滑らかに流れ、そのまま能古島の美しい自然に溶け込んでいく。


「ワシのォ……4年前に娘夫婦を亡くしたんじゃ。そしてお主の言う〝彼女〟とは十中八九みずのことじゃろ? 可愛い孫まで亡くすわけにはいかんのじゃよ」


 仁のサイクスはそのまま静かに広がり、やがてJOKER(ジョーカー)のサイクスと衝突する。明らかに質の違う2つの自然科学型サイクスが共鳴し、お互いの力量を確かめ合う。仁は表情を崩さないまま静かにJOKER(ジョーカー)を見つめ、JOKER(ジョーカー)は興奮を隠しきれない様子でゾクゾクッと身体を震わせる。


「なるほど、なるほど。瑞希ちゃんのお祖父ちゃんか」


 その言葉を聞いて仁は腑に落ちない表情を浮かべてJOKER(ジョーカー)に尋ねる。


「コンテナターミナルにおった仮面の若い女子(おなご)もお主らの仲間じゃろ? 情報共有適当じゃの」


 笑いながらJOKER(ジョーカー)が返答する。


「ククク、自由行動がモットーなんだよね、ボクたち」

「その通り」


 PUPPETEER(パペッティア)の周りに黒いサイクスのドームが広がり、黒い渦の中からJESTER(ジェスター)が現れて会話に加わる。


「あっ! あのお爺ちゃん、瑞希ちゃんのお祖父ちゃんよ」

「知ってる」


 JESTER(ジェスター)は自分たちを静観している仁、鈴村、柳の3人に向かって右手を挙げて「やっほー」と旧友に再会したかのように馴れ馴れしく挨拶をする。


「ねぇ、仁さん」


 JOKER(ジョーカー)は仁に向かって話しかける。


「ボクらがやってること、仁さんにとっても悪い話じゃあないんだよ?」


 JOKER(ジョーカー)は仁が無言でいることに静かな笑いを漏らしながら言葉を続ける。


「その亡くした娘さんとまた会えるかもしれないんだよ?」


 仁の眉間に(しわ)が寄ったのを愉快に見ながらJOKER(ジョーカー)は続ける。


「キミら家族全員がサイクスをなるべく使わないようにしていたり、姉妹だけになった時に側にいてあげなかったりしたのも全部警戒していたんだろう? 彼女たちの中にあるであろうサイクスが共鳴しないように」


 仁はJOKER(ジョーカー)の言葉を聞いてゆっくりと目を閉じて何かを考え始める。柳と鈴村は相対(あいたい)するJOKER(ジョーカー)JESTER(ジェスター)PUPPETEER(パペッティア)の3人が隙を突いて攻撃を仕掛けてくることを警戒して目を離さないようにじっと見つめる。その様子に気付いたJOKER(ジョーカー)は笑顔で手を振りながら自分たちにその意思が無いことを表明する。


 仁は目を開いて目線を下からゆっくりと上げ、JOKER(ジョーカー)を見る。


「その話を知っている者はごく僅かなはずなんじゃがなぁ……。まぁ良い。それよりも……」


 仁は一度言葉を切って語気を強めて尋ねる。


「その場合、みずはどうなる?」


 その問いに対して JOKER(ジョーカー)は少しだけ笑い、挑発に満ちた声色で仁に告げる。


「一度で二度おいしい的な?」

「下衆が」


 仁はそこで初めて自身のサイクスに明確な敵意を込める。その瞬間、周囲の木々がザワめき立ち、野生動物がその異様さを察知して一斉に走り出す。JOKER(ジョーカー)はそれを見て興奮した様子でサイクスを放出する。歯を剥き出しにした、その不気味に満ちたマスクは緑色のサイクスと相まって怪しく輝いた。




 

5/20よりコミックポルカ、5/22よりニコニコ漫画にてTRACKERのコミカライズ版、連載開始!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ