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8,この会長を放ってはおけない

 生徒会に私が入ったきっかけは、会長への憧れだったわ。私たちの代の入学式の時に会長が凛々しく壇上でお話をされていて、きれいな人だなあと思いながら見つめていたのを覚えている。


「あの人まだ二年生らしいよ。噂では容姿端麗で仕事も一人でてきぱきとこなすから、上級生が一目置いているんだって。他に任せられる人はいないと言って、周囲が頼み込んで生徒会長になってもらったとか。」


 それを聞いて私はあの人についていきたいと思った。一緒に仕事をすれば必ず得るものがあるだろうし、壇上の姿を見て一目惚れしてしまったの。経験したことなかったけど、なんかこう、電気がビビっと走る感覚だった。部活とかに入ろうとは全く思ってなかったけど、このときすぐ生徒会に入ると決めたわ。


 そして入学してから三週間。生徒会役員選挙に立候補したのだけど、候補者演説とかなく担任の先生から

「横井さんおめでとう。当確です。」と言われただけだった。後から聞いたところによると、立候補したのは私と同級生の女の子一人だけで、定員割れだったみたい。


 当選した実感はなかったけど、何はともあれ会長のいる生徒会に入れると決まったからとても喜んだ。もう一人の当選者と軽く挨拶を済ませて、少し緊張しつつ期待を膨らませながら生徒会室に入った。そしたら中には会長一人しかいなかった。「ほかの人はまだ来ていないんですか?」と聞くと、


「いや、生徒会は私一人だけだ。」


 と、きっぱりと言い放った。


「でも、噂であなたが優秀だから上級生の方たちが会長職をお願いしたって。」


「根も葉もない噂だな。確かに先輩方はいたが全員辞めてしまったのだ。最初は同級生も何人かいたが蒸発してな。私しか務める者がいなかったというだけのことだ。」


「でもみんな辞めるだなんて…。何かあったのですか?」


「ん、まあ、いろいろとな。とにかく、生徒会へようこそ。一緒に頑張っていこう。」


 唖然としたわ。立候補者演説もなく簡単に入れたのはこういうことだったのだと。ただ、このときは何事も前向きでいた。憧れの会長と一緒にいられるということには変わりなかったから、会長以外全員辞めたというありえないこの状況に、大した疑問も持たなかった。確かに出鼻はくじかれたけど、私たちが会長を支えていけばいいのよ。その程度でしか考えていなかった。けど、会長の本性を知ったのは、その1か月後。あれは事件といってもいい出来事だった。


「私はこの学校を変えたいと思っている。」


 ある日会長が真剣な面持ちで言ってきた。雑用を一通りできるようになったばかりの私と同級生の子だったから、生徒会の一員として認めてくれたんだと思った。そして、とうとう生徒会らしいことができるのだと胸が躍ったわ。


「そのためには校則から見直すべきだと私は考えている。」


「具体的には決まっているのですか?!」


 同級生の子が勢いよく会長に問いかけた。以前その子と二人でいたときに、なぜ生徒会に入ったのか聞くと、「入学式の時に会長の話している姿を見て、かっこよくてきれいと思って。こんな風になりたいと思って立候補したんだ!」と話していた。動機が同じだったこともあって、意気投合したわ。帰り道に会長の私生活を妄想して語り合っていた。女の人からもラブレターをもらってそうだよねとか、休みの日は朝早くから起きてジョギングとかしてそうだよねとか。けど、こんな妄想がこの時に打ち砕かれた。


「それは校則にある『柄物の下着の着用を禁止する』を廃止するのだあああ!!」


「なるほど…え?」


「会長、それはいったいどういう...。」


「うむ。校則にあるのは無地の下着しかつけてはいけないということだ。制服という決められたものを着ている中で、下着は数少ないおしゃれの形なのだ。その自由を奪うというのはあってはならない。」


 どこに目をつけているのだと最初は思ったけど、理由はしっかりとしていた。ここまでは、だけどね。


「そして、何より下着は殿方に見せるものだ!柄物がダメなのは百歩譲って許すとしても、校則の続きに『黒と白に限る』とある。これを許してはいけない。女子生徒全員が同じような下着をつけてしまうと、殿方も興味をなくしてしまう。つまり、男性からのいやらしい目線を浴びることがなくなってしまうのだ!この事態を解決するためにも、この校則の廃止は不可欠だ。」


 理解するのに時間がかかった。いや、言っている内容の意味は理解できていた。会長の本性は私たちが描いていた人物像とかけ離れた異常者だったということにあまりにも大きくショックを受けて、この言葉が本当にあの会長の口から発せられたのかと意味もなく疑っていた。隣の同級生の子を見ると、顔が引きつっていた。現状を受け入れられていない様子だったわ。


「せ、生徒たちのためなんですよね...?!生徒たちが健全で楽しく学校生活を送るための...。」


「違う!興奮と刺激のためだああ!」


 この、後から言い訳もできない一言によって、同級生のわずかな希望も打ち消されてしまった。


「わ、私、付いていけませんー!」


 そう言って、泣きながら生徒会室から勢いよく出ていった。あの感じだと、もう戻ってこない。忽ち会長と私の二人体制になってしまった。私も肩を落として会長の方を見てみると、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。


「ああ、またやってしまった。」


「あの、会長。顔を上げてください。」


「おお、君は残ってくれていたのか。すまない、情けないところを見せてしまったな。」


 目を真っ赤にして涙目になっていた。しっかりしていそうなイメージとはかなりのギャップがあったから、その時はちょっとかわいいと思ってしまったわ。ただ、変人の烙印は押させてもらった。


「またやってしまったと仰ってましたけど...。」


「実は生徒会が過疎化してしまったのは私の責任なのだ。会議の際の意見交換で、私が下着とかスカート丈とかについて語ってしまった。最初は冗談だと思って笑ってくれていたが、毎回会議で同じことを長時間語ったせいで、優しく丁寧に仕事を教えてくださった先輩方々に愛想をつかされたのだ。そしてある日、『教えることはもう何もない』と言って突然全員生徒会を辞めてしまった。後輩も何人も入ってきたが、この姿を晒してしまって結局私一人になってしまう。先ほど見せてしまったように、一度火がついてしまうと止められなくなるのだ。」


 まあ、そんな変人だと遠ざけられるようになるのも無理はない。ただ、後から知ったのだけど、当時会長が優秀でテキパキ仕事をこなしていたのは本当よ。その優秀な人を差し置いて、他の人が会長になることはできない。けど、この変人についていく自信はないと感じて、上級生の方たちは辞めてしまったらしいわ。あの人の性格だけが原因ではなかったということだけは分かってほしい。まあ、後輩の子が入っても続かなかったことは別だけどね。


「だが、これだけは信じてくれ。学校を良くしたい気持ちは嘘ではないのだ。この学校は校則で生徒たちをがちがちに縛っている。これも真面目腐った校長のせいだ。風紀を守るための校則はもちろん必要だが、無意味な校則は生徒たちを苦しめるだけだ。それを打開するために、私は固い校則をなくしたいと思っている。」


 このことは私も同じことを思っていた。渡辺君も思ったかもしれないけど、入学して生徒手帳をもらった時、その分厚さに驚いた覚えがある。その中にはたくさんの校則がびっしりと詰まっていた。だから、この時の会長の言葉は共感したし、裏表のない人であることはよく伝わってきた。


「分かりました。そういうことなら私は付いていきます。申し遅れましたが、横井貴子と言います。よろしくお願いいたします。」


「本当か?!ありがとう!とてもうれしい。」


 真っ赤な目をしながら、とびっきりの笑顔を見せてくれた。あんな顔をされると、会長の性格のことも忘れてしまいそうになる。けど、これから二人三脚でやっていくわけだから、はっきりさせないといけないことがあった。


「さっき仰ってた生徒のためじゃなく興奮のためとかって、ボルテージが上がって思ってもないことを言っちゃったってことですよね?」


「うーん。あながちそうでもないぞ。」


「そうですよね…。え?今何て?」


「うむ。もう隠す必要もないだろうから先に伝えておこうか。実は私…ドМなのだ。」


 今度は照れた感じで頬を赤くしていた。かわいいけど、言っていることは全然かわいくなかった。


「普段から気を付けているのだがな。さっきも言ったように我を忘れて性欲がつい表に出てしまうことがあるのだ。登下校中とかでも満員電車に当たると殿方に触られるチャンスと思ってしまって、ウキウキで乗車してしまう。しかし、私はウェルカムなのだが、疑わしい所を見ると勘違いして一早く通報してしまう人もいる。私のせいで痴漢冤罪が起こってしまって、一個人の生活を壊してしまうのはあってはならないからな。そういった電車の中では生き地獄のようなものだ。その状態もゾクゾクするが。」


 正直な人。確かに正直な人だった。欲望にだけど。この人を止める誰かがいないと何かしでかすに違いない。私だけは絶対に辞めてはいけないと思った。


「会長!一生付いていきます!!」

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