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6,そう簡単に入るわけがない

入学から早二週間が経った。初めこそ楽しい学校生活を送るぞと意気込んでいたが、今ではいい意味で落ち着いている。


入学する前は、高校生のことをどこか大人っぽいと思っていた。帰り道に買い食いしたり人気で行列のできる店に並んで何かを飲み食いしたり。遊びに使うお金をたくさん持っていて、毎日どこかに寄って帰ってくるといった印象だ。


お金のない中学生の贅沢と言えばせいぜいファミレスのドリンクバーでおしゃべりすることで、そこでポテトフライを頼もうものなら、そいつは金持ち認定されていたものだ。


そんな生活を思い描いていたが、実際そんなことはなかった。俺が勝手に想像していたのは、いわゆる一軍と呼ばれるやつらだ。バスケ、サッカーなどのスポーツで活躍して女子にモテる人。授業中は寝たり早弁などの悪ふざけをする人。文化祭や体育祭などの学校行事で中心的な存在になる人。こういった特徴があるのが一軍で、これらの反対の特徴を持つ者たちが二軍と呼ばれる。


ちなみに個人的には二軍の人の方が好きだ。二軍は何といっても真面目。授業の平和を保てるのは二軍たちがいるからこそで、それぞれ狭いながらも深い交友関係も持っている。中にはマニアックな趣味を持つ同士で輪を作っていたりしていて、そういうグループの中に入るとさぞ面白いことだろう。


俺はどちらにも属さない。一軍と二軍の間といったところだ。スポーツが得意なのに女子にモテないという変異種だったが、人並みには運動ができるわけで、実は中学生の頃はクラス代表をしていた。いわゆるクラスの顔になる存在でリーダー的な人が本来は任命されるが、めんどくさがりの一軍しかいなくて決まりそうになかったので、自分で手を挙げて立候補した。女子にモテることはなかったが、クラスのためにいろいろと仕事したものだ。まあ、こうならないとすることなんてなかっただろうから、結果的にはこの経験はかけがえの無いものになったと思う。女子にモテることはなかったが!


だらだらと話してきたが、結局のところ当たり障りのない高校生活を過ごしている。毎朝寝坊することなく優雅に朝食を食べ登校し、真面目に授業を受けて下校する。中学生の時と変わらない生活だが、まあ身の丈に合ってるってところだ。キャピキャピした生活は憧れはするものの、性格的にすぐ疲れてしまって飽きるだろう。こんな感じでゆるゆると生きていくのが、案外好きなのだ。しかし、一個だけ今も頭を悩ませていることがある。


「渡辺君はいますか!」


また来た。あの日、体育館裏で逃げてから今日に至るまで、毎日貴子さんが俺を探しに教室へやってくる。これだけ断り続けているのにしぶとく誘い続けるこの人も、よっぽどの変わり者だ。口で言っても分からないだろうから、今回もクラウチングスタートからのダッシュで振り切るしか方法はない。


「ちょっと、待ちなさい!」


貴子さんも素晴らしいダッシュで俺を追いかけてきた。


「今日は逃がさないわよ。毎日追いかけてきたおかげで体力もついてきたわ!」


確かに出会った時から日に日に走るのが速くなってきている気がする。追いかけてくるのを振り切るのに時間がかかるようになってきたし、毎日のことだから俺の疲労感も蓄積されてきている。もしかしてこれが狙いだったのか。それよりも、生徒会の貴子さんが生徒たちの前で廊下をこんなに気にせず走ってていいのか?


校舎から出るまでには振り切れていたのだが、今回の貴子さんは諦めが悪い。だが、正門を出ればさすがに追ってはこないだろう。勝負がつくのはもうすぐだ。


「そこまでだ。」


はあ…はあ......正門の陰から想定していない刺客が現れた。足で急ブレーキをかけたものの、勢い余って顔からこけてしまった。めちゃくちゃ痛い。そして、どこかで聞いたことのある声だ。


「あなたは、会長…。」


「久しぶりだな、渡辺君。」


うつぶせの状態で顔を上げてみると、凛々しく腕を組みながら仁王立ちしている会長の姿があった。入学式の日以来初めて会ったが、姿だけ見ていると相変わらずかっこいいな。見ているだけだと。


「な、なんだ。はっ!まさか…私の下半身を凝視してこのスカートの中をのぞこうとしているというのか!み、見えているのか!」


「違いますよ!見ていません!」


そう。こういった中身なのだ。性癖ヤバめのがっかり変態女。


「あ、会長。」


「貴子。廊下は危ないから走るのではないぞ。鍛えるのはいいことだが、生徒たちに怪我

をさせたり貴子が怪我をしてしまっては面目が立たないからな。」


「あら、バレてましたか。恥ずかしいですね。」


鍛える?一体どういうことだ。

「ああ。ここ最近貴子が生徒会室に来ないものだから校舎内を探し回っていたら、トレーニングルームでランニングマシーンを使って走っている姿を見つけてな。以前から、貴子が男子と一緒に廊下を走っていたと生徒たちの目撃情報も入ってきたので、それで感づいたのだ。」


ジムでトレーニングしていただって?どこに力入れてるんだこの人は。それで日に日に振り切るのが難しくなっていたのか。それにそんな目撃情報が前からあったのなら、この暴走を早く止めておいてくれ。


「なあ、渡辺君。生徒会に入ってくれないか。」


ずっと貴子さんだけからの勧誘だったが、厄介な人が加勢してきた。俺の静かで優雅な高校生活をかき乱すのは勘弁してくれ。だが俺の決意は揺るがない。少し面を食らいはしたものの、そんな誘い、願い下げだ。


「嫌です。」


「ふふふ、即答か…。いいな!人を気遣うことなく叩きつけるような返し!たまらん!!」


何を言ってんだ。この人と会うのもちょっとブランクがあったから、余計に引いてしまう。こんな変態がいる生徒会なんて入るはずがない。


「会長、それぐらいで。」


「ああ、すまん。取り乱した。」


手慣れた感じで横井さんが制止に入る。何度もしているやり取りなのだろう。しかし、会長のスイッチが入るポイントがどこにあるのか俺には全く読めない。


「貴子がこんなに一所懸命君のことを追いかけているのを見て、居ても立ってもいられなくなってな。君にとってはただの迷惑かもしれんが、普段から私は彼女に世話になっている。だから私からもお願いしたい。生徒会に入ってくれ。人は多い方が助かるし、何せ楽しいしな。」


「会長…。」


後輩が頑張る姿を見てその人のために体が動いてしまったと。俺には今までで湧いたことのない感情だ。三喜雄のために何かしてやりたいと思ったことは全くないし。ただこういう友情は嫌いではない。泣かせるねえ。感動した!


「断ります。」


そう。俺の決意は変わらない。関係のないことに巻き込まれても困る。それに、前に体育館裏で横井さんが俺に懇願していた様子を見る限り、よっぽど会長に苦労してきたに違いない。おそらく会長が暴れ馬で、横井さんがそれを抑えてコントロールするジョッキーといった立ち位置なのだろう。じゃあ俺はあれか。そんなジョッキーが扱いやすくするために馬を育てる調教師にでもさせる気か。そんな面倒なことは真っ平ごめんだ。


「それじゃ、急いでるんで。」


「待つのだ!話は終わっていないぞ!」


何を言われても絶対に入らない。間違いなくあれはやばい組織だ。絶対に関わらないほうがいい。非情かもしれないが、無視して帰らせてもらう。まあ、会長にとってはそれがご褒美になるのだろうな。


「あ、いた!お姉ちゃん!」


柔らかくて優しい声が聞こえてきて思わず足を止めてしまった。顔を見なくても分かる。西園寺の声だ。


「お、どうしたのだ花蓮。」


「次の議会で使うこの書類の作り方がよく分からないんだけど…あ、渡辺君!」


「お、押忍。」


おい渡辺。押忍、って何だ。三喜夫にもこんな挨拶はしたことないし、空手道をかじったことも全くない。同じクラスでちょくちょく話したりしているのに、西園寺相手になると未だに緊張してしまう。落ち着け。平常心を保つんだ。


「議会の書類がって言ってたけど、もしかして生徒会に入ったのか?役員選挙はまだ先だったと思うんだが。」


「うーん、入ってはいないかな。今は生徒会見習いって形でお手伝いをしているの。」


「知っての通りうちは人手不足でな。今まで私と貴子二人で何とか回していたのだが、一つ一つの仕事が疎かになっていたのが事実だ。そこで花蓮に見習いとして書記、庶務、会計をしてもらっている。彼女は役員選挙に立候補する予定で今でこそ見習いという形ではあるが、当選が確約されているようなものだ。この人手不足の状態である上に、募集している立候補者も現時点で彼女以外いない。それにこの子との付き合いも長いから分かるのだが、意外に骨があるのだ。少しのことではへこたれないし、十分信頼もできる。」


「そうなのか?」


「うん。何か新しいことを始めたいと思っていて。運動はできなくて、それ以外は趣味ですればいいかなって感じだから部活にはあまり興味がないの。生徒会ならレイお姉ちゃんもいるし、人前に出る仕事をあまりしてきてなかったからやってみたいって思ったんだ。」


そうか、西園寺が入るのか。入ってしまうのか。しかも見習いとはいえ、三つも役職を押し付けられている。会長と副会長も確かに忙しいのだろう。だったら俺に割いている時間を仕事の方に充てればいいじゃないかと強く思うのだが。


それよりも、あの二人の中に西園寺が入ると思うとかなり不安だ。二人の悪いところも取り入れてしまって、俺の知らない西園寺になってしまったら...。ダメだ。西園寺の負担が大きすぎる。やる気満々なところ悪いが、ここはやんわりとでも生徒会に入るのを止めるべきだ。


「三つも役職掛け持ちして大丈夫なのか?体がもたないかもしれないぞ。」


「分からないことだらけだから今は大変だけどね。でも、早くお姉ちゃんたちの力になりたいから、いっぱい勉強したい。私の気持ちだから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう!」


なんて健気でいい子!西園寺ならこの腐りきった生徒会を変えられるかもしれない。だが、やっぱり心配だ。敵は変態女としつこいKY女、難関な刺客ばかり。それでも彼女はめげずに頑張るのだろうが、悪影響なのは間違いない。ただ俺がその中に割って入る勇気はないんだ。会長と横井さんから逃げていることもある。すまない、西園寺。


「貴子さん、もしかして渡辺君を勧誘していたんですか?」


「そうなのよ。彼も骨がありそうだし、必ずこの生徒会の戦力になってくれると直感したの。それに西園寺さんにも頑張ってもらいたいのだけれど、さすがにこのまま役職三つは無理があるじゃない?生徒会のためにも、そして西園寺さんのためにも彼は必要なのよ。」


適当なことを言ってやがる。会長のお守りを俺に手伝わせたいだけだろ。そんなことのために高校生活を費やしてたまるか。


「私も渡辺君に入ってほしいなあ。仕事のこともあるけど、人が多いほうが楽しいし。もし部活とかまだ決まってないなら一緒にどうかな。」


もちろん俺の答えは決まっている。


「今日からよろしくお願いします。」

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