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3,あのド変態が生徒会長なのは信じられない

「これより清東高等学校、第四十八回新入生入学式を開会いたします。」


 これは現実なのか?朝の出来事があまりにも強烈だったせいで幻覚を見ているのではなかろうか。しかし、いくら目をこすっても俺の見ている光景は変わらない。この先の人生のハイライトになるであろう入学式の開会宣言をしているのが、電車の中で出会った痴漢好きの異常者なのだ。


「始めに私、生徒会長の高橋麗子から御祝いの辞を述べさせていただきます。」


 いきなり聞き捨てならないことを言い出した。生徒会長だって?この学校の?学校の風紀、秩序を守る生徒会の長だっていうのか。ダメだ、式に集中できない。疑問ばかりが出てきてしまう。


「新入生の皆様、そして保護者の方々、御入学おめでとうございます。」


 やかましいわ。その新入生に助けてもらったのに叱責してきたのはどこのどいつだ。いや、ここは我慢して話を聞いておこう。


「校庭にもある桜の木の満開は、皆様のご入学の歓迎を表しているかのようです。この清東高校は規律、校則を重んじており、私たち在学生の進むべき道を逸らすことなく正してくれています。この校風で育った先輩たちの背中を見て皆様もこのようになりたいと憧れを持ち、やがて皆様も後輩へと受け継いでいくことになるでしょう。新しい環境に不安を感じている方々もたくさんいらっしゃるでしょうが、支えてくれる先生方、在学生たちがたくさんいます。そして、学校生活を彩る部活動や行事もたくさんあります。改めて清東高校へようこそ。共に学び、共に成長していきましょう。簡単ではありますが、以上を持ちまして御祝いの言葉とさせていただきます。」


 ここから先のことは何も覚えていない。式に集中できる精神状態じゃなかった。覚えていることと言えば、朝出会った女の名前が高橋麗子でこの学校の生徒会長だったということ。檀上では素晴らしいスピーチをしていたが、俺はあの女の本性を知っている。信じたくはないがこれが事実なんだったら受け入れるしかない。こうして期待に胸を膨らませて臨んだ入学式が終わり、呆然としたまま高校生活の幕が上がったのだった。


「みんなお疲れさま!今日は緊張しただろうから真っすぐ家に帰ってゆっくりして、明日から切り替えて頑張っていきましょう!」


 先生の号令で各々、解散となった。そそくさと帰る者がほとんどだが、早速いろんな人に話しかけて友達作りに勤しんでいる者もいる。初日から必死になる人はよくいるが、俺からすると何もそんなに焦ることはないだろうと思う。学校生活は長いんだし、嫌というほど毎日顔を合わせることになるんだ。行事ごともたくさんあるに違いないし、そういうのを重ねていくと自然と馬が合う人は現れる。無理に作った友達なんて結局がぼろが出て、関わらないようになっていくだけだ。ちなみに言うと、焦って友達を作るやつの中には陰属性の者も多い。クラスの中心的な存在に憧れるのだろうが、日を追うごとにそういう人は影が薄くなっていく。中には嫌われ者になるやつもいるし。もしかしたら友達がいないやつの特徴なのかもしれない。いわゆる高校デビューってやつだ。だが、人間そんな簡単に変わることはできない。その人の本質は隠してても表に滲み出てしまうからな。まあ、自分を変えようという姿勢に関しては褒められるべきことだ。


「剣人―、早く帰ろーぜー。」


 長々と説明したが、三喜雄は全く変わらない。今日は入学式だというのに、こいつの中でのテンプレみたいに普段と同じことを同じテンションで言う。こいつの良いところでもあるが、こういう日は少しだけ違いをつけてほしいものだ。ここかしこと話しかけまくってるあの眼鏡男子の姿勢をほんの僅かだけ見習ってほしい。


「そうだな。今日は疲れたしさっさと帰るか。」


 俺も人のことを言えないのだがな。


「ねえ、渡辺君。ちょっといい?」


 友達作りの声かけの順番が俺に回ってきたのかと思ったが違った。振り返ると西園寺の眩しい姿があったのだ。


「西園寺、どうしたんだ?」


「来てほしいところがあるんだけど、この後予定とかある?」


 こ、これはいったい…?!デートの誘いととっていいのか?いや、間違いなくそうだろう!こんなに積極的な子だったとは…。しかし、俺には三喜雄と一緒に帰るという予定が、いやいや落ち着け。どっちを優先すべきかなんてはっきりしているじゃないか。あまりに突然なことで気が動転している。


「ん、なんだ予定があるのか。じゃあ先帰っとくわ。また明日なー。」


 パニックになっている俺を置いて、三喜雄は一人で帰っていった。俺のことを気遣ってくれたのか?いや、あいつの性格的に長くなりそうだから帰りたくなっただけだろう。親友の俺に対してもいつもの帰りたがりの性格を発揮したことに少しショックを受けた。そんなことを言っている場合ではない。おかげで決心がついた。ここは西園寺の誘いに男らしく乗るしかない。


「大丈夫だよ。じゃあ行こうか。」


「ほんとに!ありがとう!」


 精一杯平然を装って、西園寺の歩く方向をただただ付いていった。遠い存在だった西園寺とこんなに急接近できるとは...。しかも西園寺の方からの誘いだ。もしかして、段取りも最後まで全部考えてくれてるのだろうか。本来は俺の役割なんだが、ここは身を委ねよう。だって急なことだったし、さっきまで西園寺とは高校3年間をかけて仲良くなれればいいと思っていた程度だったのだ。それなのに向こうからこんなにも早く仕掛けてくれるなんて...。その思いはもちろん受け入れるが、奥手な俺にはスピードが速すぎる。焦らずゆっくりいかせてください、姉さん。一人心の中で盛り上がっていたのだが、連れて行ってくれるところはどうやら外じゃないらしい。階段を2階分上に上がり、まっすぐ廊下を歩いていく。


「そろそろ聞いてもいいか?」


「ん?どうしたの?」


「今からどこに行くんだ?」


「あ、ごめんなさい。そういえば言ってなかったね。ここだよ。」


 見上げて室名札を見ると、良くない字が書かれていた。


「生徒会室だって…。こんなところに何の用が?」


「失礼します。」


 返事が来る前に、西園寺は教室の中へと入って行ってしまった。今後生徒会とは関わらないようにしようと思っていた矢先に、すぐ導かれてしまった。全く気が進まないが、せっかく連れてきてくれたんだ。どういった意図があるのか分からないけれど、ここで逃げたら西園寺との距離もまた遠のいてしまうかもしれない。行くしかないか。西園寺が扉を開けたのに続いて、そろそろと俺も教室の中へ入っていった。


「お、花蓮じゃないか。久しぶりだな。」


「久しぶり!レイお姉ちゃん!」


 やっぱりいた。勘付いてはいたが、入学式終わりの生徒会室に会長がいないはずがない。関わりたくもないと思っていながら、自分から会いに来てしまった。それはそれとして、この二人の関係も気になる。お姉ちゃんとはどういうことだ。やけに親しい様子に見えるが。


「あ、お前は、」


 やはり覚えていたか。だが、朝に理不尽なことを言ってきた時とは打って変わって、慌てているようだ。また意味の分からん説教が始まるのか思っていたが、西園寺の前だと具合が悪いのだろうか。もしかしたら、俺はもうすでにこの人の弱みを見つけたのかもしれない。まあおそらくこの二人は深い関係みたいだから、西園寺との仲を向上させるためにも、会長にいきなり嫌われるようなことはできない。最初の内は媚でも打っておけば西園寺とも今後うまくかもしれないしな。背に腹は代えられない。ここは先手必勝だ。


「西園寺花蓮さんと中学から同じの渡辺剣人とといいます。朝はどうも。」


「あ、ああ!そうだったのか!私はこの学校の生徒会長を務めている高橋麗子だ。会ってお礼を言いたかったと心残りにしていたのだが、こんな形で実現するとは。いやあ、朝は助かった。本当にありがとう、渡辺君!」


 おかしい。いや、これが正しい反応なのだが。朝と百八十度態度が変わっている。痴漢を好む変態女だったのに、ただの容姿端麗、泰然自若な女性になっているじゃないか。そうか、きっと入学式前の緊張でイライラしていたんだ。違いない。壇上に立ってあの大勢の前で話すという大舞台が待っていると考えると、周りが見えなくなるのも無理はない。


「レイお姉ちゃん、渡辺君と知り合いなの?」


「うむ。今朝、私がサラリーマンに痴漢されそうになったところを渡辺君が助けてくれたのだ。新入生で、

しかも花蓮の友達だったとはな。今時声をあげて助けてくれる人なんてそうそういないぞ。花蓮、いい友達を持ったじゃないか。渡辺君も、今後ともこの子と仲良くしてくれると私も嬉しい。」


「いえいえ、俺の方こそそう言ってくれると嬉しいです。」


「へえ、そうなんだ。私も何だか嬉しいな。ありがとうね、渡辺君。」


 朝の会長の反応を受けた後だから気味が悪く感じるが、西園寺からの株は上がっているみたいだから良しとしよう。やはりいいことはするもんだな。こうやって思いがけない形で帰ってくる。まさか西園寺を知っている人だったとは。


「ふーん、人助けねえ…。」


「うわ!」


 びっくりした。気持良くなっていたところに水を差すように、背後からトーンの低い声が俺にかけられた。この人いつからいたんだ。入ったときに扉を閉めたはずなのに、開けられる音が全くなかったぞ。頭が俺の肩と同じ高さに来るぐらいの身長。華奢であまり目立たない雰囲気の人だが、物音一つ立てず俺の真後ろに立つとはいったい何者だ。


「お、貴子。お疲れ。」


「お疲れ様です、会長。この方たちは?」


「今日入学したばかりの新入生だ。この子は西園寺花蓮。隣にいるのがその友達の渡辺剣人君だ。」


「ふーん、そうですか。私は横井貴子。生徒会の副会長をしているわ。よろしく。」


「よ、よろしくです…。」


 挨拶を交わした後も、横井さんの目線はずっと俺の方に向けられている。俺を見ながら何を考えているんだ。この人とは正真正銘これが初対面だ。自己紹介をしただけで何もしていないし、火をつける要素は何もないはず。それか女子しかいないこの空間に男の俺がいることに対して不信感を持っているのか?そんな顔をしているように見えるのか?悪いが下心なんて全くないぞ。こうやって想像してしまうぐらいこの人の表情の真意が読めない。


「で、あなたたちはどうしてここに?」


「レイおね…会長としばらく会っていなかったので挨拶だけでもしておこうかと思いまして。お邪魔してごめんなさい。」


「そう。あなたは?」


 また、視線が俺の方に戻ってきた。


「ただの付き添いです。」


「では、そろそろ帰ります。レイお姉ちゃん、またね。」


「ああ、いつでも寄ってくれ。」


 やっと西園寺と2人きりで帰れる。ここからが本番だ。いきなりどこかで遊んだりカフェに寄ったりするのはまだ早いだろうから、まずは楽しくトークをしてお互いのことをよく知り、少しでも距離を縮めて帰るとしよう。恋とは一方的にならずに相手のことを考えて段階を踏むことが大事だと、たまたま聞こえてきた女子トークで過去に勉強済みだ。


「それじゃあ、俺もこのへんで、」


「ちょっと待って。あなたに話があるわ。」


「え?」


 空気を読まない言葉が横井さんの口から発せられた。やはりこの人、俺のことを何か疑っている。こんな居心地が悪いところ、早く出たいというのに何をこの人は勘違いしているんだ。西園寺もいるのだからさっさと切り上げたい。


「何の話ですか?西園寺もいますし、早くしてもらいたいのですが。」


「そうね。西園寺さんは先に帰ってもらっていいかな。待たせてしまうと悪いから。ごめんなさいね。」


 は?!何を言っている?!!それはいらない気遣いだ!察しが悪い人だ。これからどんな話題で会話を組み立てていこうかと考えているんだぞ。どこまで人の邪魔をしようとするんだ。


「そうですか。わかりました。今日はお邪魔しました。じゃ、渡辺君。先に帰るね。また明日。」


 えー!待ってくれないのかよ!しかも諦めるの早くないか!!この西園寺の反応を見て分かった。西園寺が俺に気があるに違いないという確信は、ただの俺の妄想だったのだ。一人だと生徒会室に行きづらいから、顔見知りの俺に声をかけたといったところか。西園寺が閉めた扉からしばらく視線を変えることができず、呆然としていた。だめだ、涙も出てきそうだ。


「それじゃあ、渡辺君。いろいろと聞きたいことがあるの。」


 俺は怒りの表情で横井さんに視線を向けた。


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