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23,決起集会だが心配しかない

「もうそろそろ着くな!いやあ、楽しかった。あんまり覚えていないけど!」


「分かったから静かにしててくれよ。」


 三喜夫は昨日、ずっと寝ていたから元気があり余っているようだ。それに引き換え、俺は全然眠れなかった。原因は明確だ。気分を変えようとジュースを買いに行った時に、偶然西園寺と出会って、それから桐谷さんと挨拶をして。まあ、はっきり言うとその桐谷さんのせいだ。他の人に西園寺をとられるぞ、という言葉が今でも頭の中に残っている。ああ言うってことは、俺が西園寺を好きなのを知っているってことだよな。どうして?どこから情報が漏れた?副会長にしか言っていないはずだが、あの二人がつながっているとは考えにくいし。もしかして、知らぬ間に女子同士で噂が回っているのか。それか、桐谷さんが単に俺をからかっているのか。それとも…。こういう風にいろいろと考えてしまって寝つけず、朝になってしまったわけだ。


 しかし、眠いのは俺だけじゃないみたいだ。みんなはしゃいで疲れ切っているのか、バスの中はとても静かである。こういうイベント帰りのバスではよくある光景だが、俺はこの空間が好きだ。行きのバスというと、いつもより高いテンションで周りはがやがやするし、人付き合いがそれほど得意でもない者にとってはストレスを貯める場所にもなる。一方帰りになると、周りが静かだから自分だけ浮いてしまうこともなく、帰るだけで何も気にしなくていいから楽だ。寝るのにも絶好なシチュエーションである。


「なあ剣人。お菓子余ってるんだけど食うか?」


 中には、逆にこの状況下でも元気な奴はいる。よりによって隣に。さっきからずっと話しかけてくるせいで、寝れやしない。


「はーい。みんな起きてくださーい。もうすぐで着きますよー。降りる準備してくださいねー。」


 先生から号令がかけられ、寝ていた人たちが続々起き始めた。結局、最後まで寝れなかったじゃないか。


 まあ、それはそれとして、一つ一つを振り返るといろんなことがあったし、終わりまで本当に長く感じた。きついことばかりだったが、収穫もある。今回のおかげで、西園寺との距離もだいぶ縮まったと思う。一緒に人助けをして料理もして、夜に二人きりで会ったりもした。そして、ダンスの時に握った西園寺の手の柔らかさ。それは今でもこの手が覚えている。結果はどうであれ、この林間学習で掲げた目標は達成できたと言っていいだろう。


 そうこう考えていると、いつの間にか学校前に到着していた。準備ができた人から立ち上がり、外へと出て行っている。俺もそれに続いてそそくさと出ようとした。


「渡辺くーん。やっほー。」


「げ。」


 声のする方に目を向けると、嫌な笑みを浮かべながら手のひらをこちらに向ける桐谷さんがいた。今、俺が寝不足になっている元凶の人だ。そういえば同じクラスだったんだった。


「また後でね、渡辺君。」


 その隣には今みたいに優しい言葉を投げかけてくれ、癒されるような笑顔を向けてくれる西園寺の姿がある。昨日の夜も思ったが、この二人って意外な組み合わせだよな。教室で仲良く話しているのをたびたび見かけるし、よく一緒にいる。桐谷さんは派手で、悪目立ちしそうな人だ。西園寺に悪影響を与えなければいいが。


「ああ。また後でな。」


「えらい扱いが違うじゃねえの。」


 薄々分かっていたのだが、やっぱりこの人のことは少し苦手だ。関わりがまだ全然ないのに、そんなに馴れ馴れしくされても困る。付き合いが長い人と短い人、扱いが変わって当然だろ。しかし、この悪意のある言い方。好きな人には態度が変わるのだなとでも言いたげに聞こえる。どこまで知っているのか。全くつかみどころのない人だ。もういい。深く考えると、この人を嫌いになってしまいそうだ。腐っても西園寺の友達だから、嫌われないよう付き合っていく必要はある。交友はこれから深めていこうということで、俺は二人が出て行った後にバスの出口へと向かっていった。


「はあ、着いた。」


 降りた瞬間に思わず声が漏れてしまった。バス酔いはしないのだが、長時間椅子に座り続けないといけないから、バスはあまり得意ではない。体中が痛いが、これで林間学習が終わった。やっと家に帰れる。


「やあ、げっそりしているな。」


「あ、会長。どうも。」


 バスを降りてから、最初に声をかけてきたのは会長だった。疲れている様子は全く見受けられず、長時間バスに乗っていたとは思えないほどシャキッとしている。いつも通りの会長といったところだ。


「疲れているところ悪いのだがな、生徒会の皆に話しておきたいことがあるから、後で生徒会室に集まってほしい。手短に話そうと思っているから頼んだぞ。では。」


 手短なら今言ってくれれば良かったのに。どうせ、今日はお疲れとか、来週から気持ちを切り替えて頑張ろうとか、そんな感じじゃないのか。まあいい。おそらく、決起集会と言ったところだろう。よく分からんが。


 最後にクラスで集まって帰りの挨拶的なことをしたのだが、先生も疲れていたのか、3分もかからないぐらいで早々に話を切り上げて解散になった。早いに越したことはないが、普段の授業終わりの教室での話は長々とするのにと、少し拍子抜けした。会長の話もこれぐらいだったらいいのに。


「お疲れ様、渡辺君。生徒会室に行くわよ。」


「あ、お疲れ様です。」


 この林間学習で、俺の恩人になった副会長だ。直々にお声をかけていただけるなんて畏れ多い。あと、これまでの失言に関してもお許しいただきたい。この人の器の大きさのおかげで、今の俺がある。今後もとも、何卒よろしくお願い致します。


「あれ。西園寺がいない。」


「花蓮ちゃんなら先に行ってるわよ。鍵を取りに行って部屋を開けておきますって言っていたわ。後輩の鏡ね。」


 今、皮肉を言われているようにしか聞こえなかったぞ。何もしないでこの場にいる俺がおかしいということじゃないか。鍵のことなんて思いつきもしなかった。だがそれよりも、西園寺は俺に何も言わず行ってしまったんだな。同じタイミングで解散を告げられたはずなのに。まあ、副会長が言う後輩力があれば、西園寺と同じ行動ができていたことにもなる。つまり、西園寺と一緒に鍵を取りに行けていた。要努力ってことにしておくか。


「それにしても、授業終わり以外で会長が集合をかけるなんて、たぶん結構大事な話よ。」


「そうなんですか?林間学習お疲れみたいなことかと思ってたのですが、違いますかね。」


「そんなの明日でもできる話じゃない。いえ、現地を離れるときに今日は頑張ったとみんなで言い合ったんだから、正直その話はもう終わったこと。同じ話を二回もするような、意味のないことなんてあの人は絶対にしないわ。」


 確かに副会長の言う通りだ。会長は性癖こそ問題があるし、突拍子もないことをよく言うが、しっかりとした理由と一緒にいつも俺たちに説明してくれる。変なことばっかり言うが。変人だが。根はまともな人だ。たぶん。


「あ、渡辺君!貴子さん!ちょうどよかった。今から鍵を開けるところだったんです。」


「あら、花蓮ちゃん。鍵任せてしまってごめんなさいね。」


「いえ、後輩の仕事ですから。私が勝手にしているだけですし。」


「そういう考えができるなんて感動しちゃいそうだわ。私と会長が一年生の時は先輩がいなかったっていうのもあるけれど、いたとしても花蓮ちゃんみたいに気遣いできていなかったと思う。今後の生徒会は安泰ね。ね、渡辺君。」


「は、はい…。」


 振ってくるんじゃない。西園寺と同級生のはずなのに、副会長と一緒にゆっくりと歩いてきた奴だぞ。やっぱりこの人、俺に意地悪しているだろ。


 ガラガラガラ


「やっぱりここが一番落ち着くわね。まあ、ただの仕事場だけど。」


 確かに一日留守にしていただけなのに、久しぶりに帰ってきた感じがする。前に来たのがかなり前に思えるほど、この林間学習の内容は濃かった。高校生になってから初めて、校舎以外で活動した後だからこそ、元居た場所の居心地の良さに気付けたのだろう。生徒会の一員になって一か月も経っていないのに偉そうだと言われるかもしれないが、気付かぬうちにこの場所を俺は気に入っていたようだ。もはや自分の家のようにも感じてきて、綺麗にしたくなってきた。


「会長が来るまで掃除でもしておきましょうか。」


「すまない。待たせた。」


 後輩らしさを見せるためにさっきの挽回もできるかと思ったが、タイミング悪く会長にさえぎられてしまった。やる気を起こしたらすぐこうなる。一気に興ざめだ。これで、もう次にいつ俺が生徒会でやる気を起こすか分からない。


「まずはこの林間学習、みんなよく頑張ってくれた。おかげでこうして全生徒無事に帰ってくることができたわけだ。もちろん疲れてはいるだろうが、気を引き締める意味も込めて明日からの活動を伝えておこうと思う。と言っても、君たちは行事明けで明日は休みだがな。」


 急に改まって、いったい何なんだ。


「今回無事に帰ってこれたが、多少なりともアクシデントはいくつかあった。しかし、これらを乗り越えた私たちは今、より結束力が強くなっている。この結束力を持って、この学校をより良くするために私が考えている政策を本格的に始動していこうと思う。早速、政策のことだが、それは...。」


「それは?」


「名付けて、スカート丈自由計画だ!」


 日が落ちて暗くなったこの静かな生徒会室中に、会長のくだらない言葉が響き渡った。そういえば、俺が生徒会見習の時にそんなことを言っていたな。


「他に大事なことはないんですか。」


「何を言う!私と貴子が一年間温めてきた政策だぞ。むしろやっとの思いで取り組むことができるのだ。なあ、貴子。」


「…そうですね。はい。その通りです。」


 本当か?返答の歯切れがすごい悪かったぞ。副会長も本当に同意の上での話なのか?前回も、副会長がフォローするような形で俺たちに力説していたが、何か裏があるのだろうか。


「明日、校長にこのことを進言しようと考えている。だから、みんなにはそれに伴う準備をしていってほしいのだ。もちろん、その都度私が指示を出すようにするから安心してくれ。」


「勝手に話を進めていますけど、まだ実行できるか決まったわけじゃないでしょ。むしろ却下される可能性の方が高いですし。」


「問題ない。何せ一年の構想期間があったのだ。あの頭の固い校長を説き伏せるには十分すぎるぐらい考えた。まあ、任せてくれ。明日はゆっくり休んでもらうが、休み明けは忙しくなるぞ。」


 なぜそこまで自信を持てるんだ。いま改めて聞いても何を言っているんだとしか思えない。古い体質の校則もたくさんあって、それに対し議論を持ちかけるのは確かに必要だが、スカート丈?普通に考えて、話も聞いてもらえずに門前払いじゃないか。


「もっとよく考えた方が...。」


「渡辺君、いいのよ。」


 副会長が食い気味に静止してきた。考え直した方がいいと訴えかけようと思ったが、副会長の顔を見て、何だかその気も失せてしまった。その顔にはすべてを受け入れたかのような、もういいんだとでも言っているような表情を浮かべていた。会長がこの発言をするに至った、今日までのいきさつを全く知らない俺が突っ込むのも野暮なのかもしれない。


「…分かりました。任せていいんですね?」


「ああ、もちろんだ。良い報告を待っていてくれ。」


「何もできなくてごめんね。お姉ちゃん。」


「君たちがいない間に推し進めていたことだ。気にしないでくれ。だが、このことを知った以上、今後はたくさん手伝ってもらうぞ。今回はこのことを伝えたくて、皆に集まってもらったのだ。お疲れの所すまなかったな。では、解散。後は帰ってゆっくり休んでくれ。」


 この話、生徒会室でする必要あったか?しかも、正直に言うと、大した話でもない。オブラートに包まず言うと、くだらない内容だった。ここまで来た意味はなかったように思うが、まあいいか。おかげで西園寺と一緒に帰れる。


 西園寺に声をかけようとしたその時、後ろから突き刺してくるかのような副会長の鋭い視線を感じた。


「一緒に帰りましょう。いいわね。」


「…はい。」


 断れそうにもない言い方だ。いいえと言ったら絶対に怒られる。良い人ではあるのだが、この人と一緒にいるのは苦手だ。いつも副会長と話すことというと、あなたはこういう風にしろだの会長のことを気にしなさいだの言われるばっかで、楽しい話をしたことなど一度もない。そして、ズバズバと言ってくるタイプでもあるから、気が張って疲れるのだ。生徒会の中でも一番怖い、会長の参謀である。


「会長、私と渡辺君は話すことがあるので、先に失礼しますね。」


「ん、そうなのか。分かった。気をつけて帰るのだぞ。花蓮のことは私に任せてくれ。かわいい女の子を守るのは得意だからな。」


「もう、何を言っているの。じゃ、貴子さんさようなら。渡辺君も、また学校でね。」


「ああ、またな。」


 何度副会長に西園寺と帰るのを邪魔されるのだろう。西園寺となら無言で一緒に帰るだけでも苦ではないというのに。俺の西園寺への気持ちを副会長は知っているはずだ。なのにこの仕打ちか。何だか腹が立ってきた。


「さ、行きますよ。副会長。」


 ややきつめの言い方で、俺が誘導するような感じで前に立った。こういうのは、先手を打った者が場を制す。いつものように、言われたことにハイハイ応じるだけではだめだ。俺にも男のプライドがある。男らしい一面を見せることで、副会長に俺への扱いを変えさせてやる作戦だ。この勢いで不満もぶちまけてやる。


「前から思っていたんですが、副会長はですね...。」


「何かしら。」


「...はい。」


「言いたいことがあるなら、はっきり言ってみなさい。」


「あ、いや、」


 副会長からの短い言葉だったが、すごい圧を感じて、思わずどもってしまった。お前が前に立とうとするなとでも言っているかのようだ。この人に逆らおうとするのは、やはりやめた方がいいと、俺の第六感が反応した。やっぱりこの人、怖いわ。


「帰りましょうか。」


「ええ。そうね。行きましょう。」


一生ついていきます。先輩。

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