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2,見間違いではない

 幸いなことに改札口を出てからは曲がり角が一か所あるだけでほとんど一直線の道だったから迷うこともなく、すぐ校門の中に入ることができた。入ってから真っ先に新入生らしき集団が見えた。その集団の目線の先には掲示板があり、そこにはクラス表が張られていた。みんな自分がどこのクラスに割り振られているのかを探すのに密集しているみたいだ。この様子なら急ぐ必要もなかったな。


「おーい、剣人―。」


 知っている声だ。手を振りながら俺より遅く校門から入場してきたのは、中学生の時からの同級生で武智三喜雄。こいつとは小学生の頃から九年間ずっと同じクラスで妙な縁がある。お互い汗を流し合うような部活動にも所属していなかったから、放課後は三喜雄の家に行ってゲームをしたりジグソーパズルを一日したり、プラモデルを加工してブログを書いたり大会に出たりしているという三喜雄の両親と俺しか知らないような隠れた趣味の手伝いをしたりと、いわば親友関係である。


「あれ、遅刻かと思ったけどいっぱいいるじゃん。こんなことなら急ぐ必要もなかったな。」


 さすが親友。俺もさっき全く同じことを思った。


「今日から高校じゃん。新生活楽しみすぎて全然眠れなかったわ。そのせいで寝坊しちまった。」


「まだまだ子供だな。もう高校生になるんだから落ち着いて登校しようぜ。」


「遠目で見たけどお前この直線走ってなかったか。めっちゃ汗かいてるぞ。お互い寝坊しないように気を付けないとな。」


 何だ。見てたなら先に行ってくれ。あと、こいつは一つ勘違いしている。確かに寝坊はしたが少し涼しいこの気候だ。走ったせいで汗をかいているわけではない。これは冷や汗だ。なぜ冷や汗をかいているのかについては思い出したくもない。はて、何だったか。忘れてしまってはどうしようもないな、とでもとぼけておこう。


「ここに突っ立っててもしょうがないし、掲示板見に行こうぜ。」


 確かにその通りだ。先に行ってしまった三喜夫に誘導されるように、クラスの確認へと足を向けた。校舎の入り口付近に掲示板が6台並んであり、1-A、1-Bと順に6クラス分それぞれ貼り出されている。それを1個ずつ確認していき、自分の名前が書いてあるかを探すという地道な作業をしていく。その上、書かれてある字が小さいせいで結構近くまで行かないと見えない。だからこんなに密集しているのか。そりゃ時間がかかるわけだ。


 俺もその人混みに加わって1-Aの掲示板から探していったわけだが、1-B、1-C、1-Dと慎重に見てるのになかなか自分の名前がない。まさか実は合格していなかったってわけじゃないよな。いや、そんなはずはない。合格通知はちゃんと来ていた。来る高校を間違えた?考えてみると合格と聞いてここしかないと思っていたが、高校名をしっかり確認していなかった。俺の入学先は別のところなのか?だったらなぜ俺はこの制服を着ている?いかん、パニックになってきた。そして、とうとう最後の掲示板の前に目を向けると...あった!俺の名前だ!やっと自分の名前を見つけることができてほっとしたと同時にぐったりした。俺が一番最後に見た掲示板の最終行に名前が書かれていたのだ。今気づいたが、自分の名前は渡辺だから各掲示板の下の方だけ見れば済んだことだった。無駄な努力...と思うだろうが、実を言うと目的は自分の名前を探し出すことだけではない。もう一人、探し出すべき名前があったのだ。だから時間をかけた。その名前は、


「あ、渡辺君!おはよう。同じ学校だったんだ。いっぱい人がいるね。」

 

 タイミングよく現れたこの子、西園寺花蓮だ。髪が肩にまで伸びたショートロングで、おとなしくおしとやかな女の子だ。俺はこの子に恋をしている。彼女は知らなかったようだが、遺書の高校であることはサーチできていた。一つ前置きをしておくが、狙って同じ高校を受験したわけではない。偶然の産物だ。お互いの関係は仲が良いというわけでなく、中学一年生の頃に同じクラスになったことがあるぐらいで顔見知り程度である。大した会話もしたことなく、先生からノート返却を任されたときに西園寺の名前を呼んでノートを渡し「ありがとう」と言ってもらったり、同じ掃除当番の時に西園寺が大きい机を一人で運ぼうとしているときに手伝ってあげ「ありがとう」と言ってもらったり。要するに、ろくに話したことがない。中学生活三年間はそういった感じだったのが、高校入学初日にしていきなり好きな女の子としゃべる機会が訪れたのだ。


「そ、そ、、だね。」


 そりゃあ、どもるし声も上ずります。だって心の準備ができていないんだもの。緊張するのが当然じゃないか。


「あ、渡辺君と同じクラスだ!よかったー。知っている人がいると心強いよぅ。これから一年間よろしくね。」


「え、そうなんだ。よ、よろしくぅ...。」


 そのことは言われる前に分かっていた。何なら自分の名前よりも先に西園寺の名前を見つけていた。まあ、こんなこと言ったら気持ち悪がられるのは想像がつくから、当然口には出さないでおく。


 そう言って、西園寺は胸の前で控えめに手を振り、教室へと向かっていった。淡い期待は確かにあったが、まさか本当に同じクラスになれるなんて...。改めて掲示板を見ると俺の名前の上の方に西園寺の名前がやはりはっきりと書かれている。受験に合格した時よりも、今感激している。ありがとう神様!数年ぶりに同じクラスになったんだ。今度こそただの知り合いから友達関係になってみせる!決意を固め、連続同クラス年数を更新した三喜雄と共に西園寺のあとを追いかけるように足を軽やかに校舎へと運んでいった。

教室に着いた後に座席表を確認し、そわそわしながら開始の合図を待った。名前順で並んでいるだけだから俺の席は教室の入り口から一番遠い角の席なのだが、周りにいるのは知らない人だけだ。しかし、視界の中には西園寺と三喜夫もいるから少し安心感もある。緊張しながら待っていると、女の先生っぽい人が入ってきた。入るや否やすぐに自己紹介を始めた。このクラスの担任らしく、担当科目は英語。教師になって二年目。クラスを受け持つのは初めてだそうで、エネルギッシュな感じが伝わってくる。


「私も初めてだらけで迷惑かけるかもだけど、新しい学校生活一緒によろしくね!」

 

 なんだかんだいっているのは耳では聞いているが、俺の意識は別にある。西園寺と同じクラスだということを今でもかみしめているのだ。ここから西園寺の席まではちょっと遠い。しかし、この位置からは彼女のきれいな髪からこっそりと覗く横顔が見え隠れし、このギリギリの感じがまたいい。と、周りを見渡してみたら続々とクラスメイトが教室から出ていっている。どうした?いきなり学級崩壊か?!


「なにしてんだよ、早く行くぞ。」


と、三喜雄が近づいてきた。


「行くって、どこにだ?」


「体育館だよ。入学式だって先生言ってただろ。」


「...ああ、そうだったな。」


 全く聞いてなかった。心ここにあらずだ。いかんいかん、切り替えよう。


 入場式開始前、新入生たちは体育館前に集められた。全クラスこの狭い敷地内に牛ぎゅう詰めになっている。電車では満員電車に乗らずに済んだというのに、他に集合するのにいい場所はなかったのか。ただ、同じ中学校だった、顔を見たことのある同級生がちらほらいたこともあり、緊張感は少し和らいだ。友達ではないし話したこともないが、知っている人がいるだけでも落ち着く。


「早く終えて帰りたいよなー、剣人!な!」


「...ああ、そうだな。」


 この人生でそう多くない入学式の雰囲気を味わっているというのに、なんだか水を差された気分だ。三喜雄は昔からこういうところがある。小学生の頃の理科の授業でコットンの入ったアルミホイルの器を複数用意し、それぞれ塩、ミョウバン、除湿剤などを入れて火をつけ炎の色の違いを見るという実験があったのだが、黄色、紫、オレンジと、様々な色の違いが出て俺が驚き興味を持っているときに、同じ班だったこいつは「早くレポート書いて教室戻ろーぜ」と、急かしてきた。目の前のことを楽しむのを知らず、なにかと早く帰りたがる。趣という言葉を早く覚えてほしいものだ。


 集合してからおよそ十五分後、「1年A組入場!」という場内からのアナウンスがあり、大きな拍手が体育館内から聞こえてきた。俺の胸の鼓動も高まってきた。とうとう始まったんだ。心行くまで楽しもうじゃないか。だが、俺のいるクラスはF組で一番最後。まあ、焦らされるのも悪くないだろう。列に戻った三喜夫が俺の方を向いているが、無視しておくとする。


 気揉みしながら待っていると、やっと「一年F組入場!」のアナウンスがかけられた。列の先頭から入場していくのだが、この列も名前順で並んでいる。つまり、この拍手を浴びて歩いていく生徒の中で大取りを務めるのが俺なのだ。あまり目立つことは好きではないが、せっかくの晴れ舞台だ。堂々と、そして恥の無いように歩こう。胸を張り、背筋を伸ばしてゆっくりと足を運ぶ。うん、我ながらしっかりとできている。会場の中に入ると同時に視線を前へと向けた。その時、目に入った光景にこれまでの緊張、期待、高揚感も全て忘れ、足元から崩れ落ちそうになった。


「う、うそだろ...」

 

 思わず声も出てしまった。驚くことに、教壇のど真ん中で立っていたのは、朝出会ってしまった変態女だったのだ。


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