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17,子供の扱いは慣れていない

「はあ、はあ、やっと追いついた。」


 何て足の速さだ。無邪気な子供というのは全く不思議だ。


「見て!カエルさん!」


 リンが両手でカエルを持っていた。思っていたよりもかなり小さい。二、三センチぐらいだろうか。きれいな緑のアマガエルである。これによく気付いたものだ。


「はあ、はあ。捕まえられて、良かった、な。はあ。じゃあ、スペース広場に、向かおう。」


「広場ここだよ。」


「何?」


 確かに目の前には緑豊かな原っぱが広がっていた。追いかけていった先が目的地だったとは。うまい具合に早く辿り着くことができた。まさか、このカエルがここまで誘ってくれたのか。今日は何かと動物に縁があるな。


「バイバイ、カエルさん。」


 捕まえたカエルをすぐに返したようだ。ぴょこぴょこと川が流れているほうへと帰っていった。あれだけ走って捕まえたのに意外に執着心はなかったんだな。命を大切にできるのはいいことだ。


「さて、お母さん探すか。」


 と思ったが、想像以上に広場の面積が大きい。その上、家族連れの大人たちがわんさかいる。さすがスペース広場というだけある。宇宙のように広がった草原の中で、星のように人間が散らばっている。いや、そんなこと言っている場合ではない。


「よーし、見つけるぞー。」


 またリンが突拍子もなく走り出してしまった。さすがに疲れた。普段運動をあまりしていない俺では付いていけないぞ。でも、お母さんの顔を知っているのはあの子だけだ。見失うわけにはいかない。


「待ってくれー!」


「ザザっ。う、いたーーい!ああーーん!!」


 うわ。こりゃまた盛大にこけたな。


「大丈夫か?」


「うわーーん!うわーーーん!!」


 これからって時に、また振出しに戻ってしまった。膝をすりむいているみたいだ。どうしよう、絆創膏も何も持ってきていない。動物ビスケットは全部なくなったし…。さっきのカエルを呼び戻すか?


「リン、立てるか?」


「うわーーーん!いたーーーーい!!」


「はあ、困ったな。」


「おーーい!渡辺くーーん!」


 聞いたことがある、癒されるような優しい声。声のする方へ目を向けると、手を振りながらこちらへ走ってきている人がいた。こっちに近づくにつれて顔がはっきりと分かった。


「西園寺?!」


「おつかれ。もしかしてこの子がリンちゃん?」


「あ、ああ、そうなんだが…。どうしてこの子の名前を?」


「実は向こうの方で子供を探しているお母さんがいるの。もともといた場所を離れると余計にややこしくなるからお母さんには待ってもらって、私がお子さんの名前と特徴を聞いて代わりに探していたんだ。聞いた感じだとこの子で間違いないと思う。」


「そうか、この子のお母さんは待ってくれているんだな。」


 助かった。この広場を手当たり次第に探すには、かなりの時間がかかりそうだったからな。そして俺が想定していた心配を西園寺も考えてくれていた。かわいいだけじゃなく頼りにもなる。ましてや、大泣きしているリンをどうやってなだめたらいいのかと、俺も泣きそうになっていたところだ。


「うわーーん!うわーーん!!」


「どうかしたの?すごい泣いているよ。」


「急に走ったかと思ったら足を滑らせて転んでな。怪我しているんだよ。」


「あ、大変!ちょっと待っててね。」


 そう言って西園寺が近くの川へと走っていき、濡れたハンカチを持って戻ってきた。


「初めまして、リンちゃん。ちょっと沁みるけどふきふきするね。ひざキレイになるから我慢してね。」


「う、う、」


 リンの手を握りながら汚れた傷口をハンカチで拭いていく。リンも西園寺の手を強く握り返しながら泣くのを必死に我慢している。そして、拭き終わるとカバンから絆創膏を取り出してピタッと張ってあげていた。


「よし、これでオッケー。よく我慢したね。えらかったよ。」


「へへ。ありがと。お姉さん。」


「どういたしまして。立てるかな?」


 さっきの大泣きが嘘みたいにリンの顔がケロッとしている。これが子供との接し方のお手本なのだろう。西園寺がリンと出会ってから瞬く間に泣き声も止み、怪我の手当てもやってのけた。俺にはできない芸当だ。せいぜいお菓子で釣るやり方しか、俺にはできない。慣れないことはするべきじゃなかった。


「西園寺、この子のお母さんのところに案内してくれ。早く会わせてやった方がいいだろうからな。」


「うん。わかった。こっちの方だよ。」


 男らしくないかもしれないが、あとは西園寺に任せて後ろの方から付いていくことにしよう。もう俺の出る幕じゃない。リンをまた泣かせたくもないしな。


「あれ?」


 馬鹿な...。目の前に西園寺しかいない。リンはどこに行ったんだ。まさか、俺らが気付かない間にまたどこかへ行って…。


「お兄ちゃん!早く早く!」


「お、ちょっ、ちょっ。」


 いつの間に俺の真横にいたんだ。すっかり俺への興味を無くして、西園寺の隣にいるもんだと思っていた。横にいたかと思ったら、俺の指を引っ張り、西園寺のところに向かって走り出した。


「へへ、ケントとお姉さん大好き!」


 リンがもう片方の手で西園寺の指を握り、俺と西園寺でリンを挟むようにして三人で一列になって歩いた。


「何か恥ずかしいな。」


「ふふ、そうかな。私は楽しいよ。」


 幸せな時間だ。まるで家族にでもなったかのような、そんな感覚である。そして、リンを挟んで隣に西園寺がいる。これは間接手つなぎというものではないだろうか。少しでも長くこの時間をかみしめたいところだが、この子のお母さんも心配して待っている。のんびりしてもいられない。


「あ!お母さん!」


「え?」


 確かに遠くの方に女性っぽい人が立っているが、この距離から分かるのか。俺にはシルエットでしか判別できない。リンと出会ってから、本当に子供の生態に驚かされることばかりだ。とか言っていると、俺と西園寺の手を離さずにまた急に走り出した。


「リンちゃんはやーい!」


「手握りながらだと危ないし、また転ぶぞー。」


「早く早く!」


 何を言っても聞こえていないみたいだ。そりゃそうか。いつも一緒にいたお母さんとはぐれてしまって一人だったんだ。あれこれ言うのは野暮である。黙って引っ張られていくとしよう。リンがさっと俺らから手を離して、今では俺らでも姿がはっきり見えるお母さんの方へと走っていった。


「お母さーん!!」


「リン!よかったー!心配したわよ!」


 いろいろあったが、こうしてお母さんの元に帰らせることができて本当によかった。子供が苦手だった割にはうまくできたと思う。これでやっと一休みできるな。しかし、何だろう。リンの手が離れてからのこの気持ちは。


「ありがとう、西園寺さん。本当に助かったわ。」


「いえ、私よりも、こちらにいる同級生の渡辺君がリンちゃんを連れてきてくれたおかげなんです。」


「ケントがこのお菓子をくれたの!」


「あら、そうなの?よかったわね。ありがとうね、渡辺君。なんてお礼すればいいか。カメさんのお菓子までもらって。」


「そんな、たまたま僕が近くにいたってだけですよ。」


 まだ動物ビスケットを持っていたのか。よっぽど気に入ってくれたんだな。あとお母さん。それはカメじゃなくてカニですよ。


「えっと、すいません。私たちそろそろ戻らないといけなくて。」


「あら、ごめんなさい。野外活動の途中だったのよね。二人とも親切にしてくれて本当にありがとう。」


「ケント!」


 俺の脚をリンが両腕でがっとつかんだ。子供なんて騒がしくて扱いづらい存在だと思っていたが、そんな考えは変わった。まあ、間違ってはなかったが、世間一般が言うように子供はかわいい。一般人の感覚に引き戻してくれたことにはリンに感謝だ。そして、このとき胸がきゅっとなった。なるほど。さっきの気持ちは寂しさなのか。もう少し一緒にいたい。だが、リンの前でそんな子供っぽいことは言ってられない。西園寺もいるし、ここはぐっとこらえて大人の対応をしよう。


「またな、リン。」


「うん!お兄ちゃん、タッチ!」


 タ、タッチ?!ハイタッチのことか?そんなことしたことないぞ。どうやったらいいんだ?うーん。西園寺もいる手前、恥ずかしい。どんな顔をすればいいのか。だが、ここは大人の対応だ。


「タ、タッチ。」


「へへ、ばいばーい!」


「ば、ばいばい。」


 こうして西園寺と一緒にリンと別れを告げた。慣れないことをしたせいで終始ぎこちない顔で対応してしまった。むしろリンにリードされたな。やっぱり子供は少しだけ苦手である。だが、その辺は大目に見てほしい。こんなに子供と向き合ったのは初めてなのだ。


「すごく好かれていたみたいだね。」


「そうなのかな。お菓子がなかったら何もできていなかったよ。」


 今回に関しては運が味方してくれた節はある。たまたま持っていた動物ビスケットに急に出現したカエル、タイミングよく来てくれた西園寺。俺一人ではどうにもできなかった。


「西園寺は慣れていたみたいだな。怪我で泣いていたリンを手際よく落ち着かせていたし。」


「私も偶然絆創膏を持っていたってだけだよ。内心ハラハラだったもん。」


 焦っているように全く見えなかったが、実際子供に慣れているということもあったんだろう。そうじゃないと、あんな風にできない。


「それにしても疲れたな。一仕事終えた気分だ。」


「本当だね。お疲れさまだよ。」


「ああ、お疲れ様。だが、何か大事なことを忘れているような気がするんだよな。」


「ふふ、忘れちゃったの?早く戻らないと…。あ。」


「ん?どうした?」


「そう。忘れちゃったの。」


「うわ!」


 全く気配に気付かなかった。いつもより低い声ではあったものの、すぐに副会長だと分かった。声のトーンからして、おそらく怒っている。


「副会長…。どうも。」


「どうもじゃないわよ。あなたたち、どうして持ち場を離れてこんなところにいるのかしら?訳を聞こうじゃない。」


 副会長が怒っているところを見たことはないが、たぶん噴火寸前だ。ここは慎重に言葉を選んで説明しないといけないな…。

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