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【完結】誘惑のヴィクトリア~皇太子妃になりたくないので皇子以外を全力で誘惑します~  作者: 茄乙モコ
【第1章】ヴィクトリアに誘惑された男たち(厄介な皇子編)
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第5話 殿下の初恋(2)

ヴィクトリア嬢が行くと言っていた湖はそれほど遠くなかった。

馬を走らせてから20分ほどで着き、それぞれ近くの木に手綱(たづな)を縛り付けた。


そしてヴィクトリア嬢が「こっち」と示す方向に殿下と私はついて行った。

そこには全体がちょうど見渡せるほどの円形の湖があり、その先には海が見えた。

湖と海と空が一体となるような美しい場所だった。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「キレイでしょう。ここは私のお気に入りなの。気に入ってくれた?」

海風とともにヴィーのピンク色の髪がなびいていた。


「ああ、とっても気に入ったよ。ここに連れて来てくれてありがとう、ヴィー。」

カティはにっこりと笑顔を向けた。


「この湖はルシア湖って言うんだけど、太陽がもうちょっと落ちてからがもっとキレイなの。ちょうど真西に沈む今の季節にしか見られないから、たまたま来れたカティとサグレス様はラッキーね。」

無邪気に笑うヴィーとは裏腹にカティは一瞬顔を曇らせた。


「へぇ、楽しみだな。…ところで、サグレスにも『様』はいらないと思うよ。僕もサグレスって呼んでるし。」

有無を言わさぬ顔でカティはサグレスを見上げた。


「そうですね。サグレスと呼んでいただいて構いませんよ。」

サグレスは極めて紳士的に返答した。


「そんなわけにはいかないわ。目上の方は敬うようにお母様に言われていますもの。」


「それを言うなら僕だってヴィーより2つ年上だよ。」


「でもカティは『様』をつけるなといったじゃない。それともカティ様って呼ぶ?」


「…カティでいい。」

言い負けられるのは不服らしく、カティは顔をそっぽに向けた。


サグレスはそんなカティの意外な一面を見てほっとしていた。




ルシア湖の周りにはブラムレーという果実のなる木がたくさん生えており、日が沈むまでの時間を果実を取って三人は過ごすことにした。

ブラムレーは黄緑色のリンゴに似た形の果実で、この地方にしかないそうだ。

上の方になっている実の方が甘味が多く、下の方にあるのは酸っぱいので取らないらしい。


ヴィーはサグレスに肩車をしてもらい、手をのばした。

「もうちょっとで届きそう。」

その先には青々としたみずみずしいブラムレーがなっていた。

そして「あっ取れた!」と言ったヴィーの手にはしっかりと果実が(つか)まれていた。


「ありがとうございます、サグレス様。」

そう言うとヴィーはサグレスにぎゅっと抱きつきハグをした。


「どういたしまして。」と、またも紳士的にサグレスは返事をした。


それを横で見ていたカティは対抗心あらわに「僕の方がもっと上のを取れる」と言い木に登り始めた。


サグレスは慌てて止めようとしたがカティはどんどん上に登り、一番上になっている実を取って戻って来た。


「すごい!カティ!」

ヴィーはサグレスにしたのと同じようにカティにハグをした。


カティの耳はまた赤くなっていた。




気づけは太陽は地平線の近くまで来ていた。


と、その時である。


一筋の太陽の光が湖の水面を滑るように反射し黄金色へと変えたのである。


オレンジ色に染まる空と海に黄金色に輝く湖。




「どう?すごく綺麗でしょう!」

振り向いたヴィーの金色の瞳は黄金色の湖よりも美しく輝いていた。

そしてヴィーの瞳と同じ色の胸につけた金色のブローチが怪しく光っていた。


「うん。ものすごく綺麗…。」

そう言ったカティの瞳にはヴィーの瞳を映していた。



しばらくその美しい風景を眺めたあと、三人は邸宅に戻った。


ヴィーはそのまま別館に行くとのことで、外で分かれた。

サグレスはその時何かが光ったような気がしたが、迎えに来たコーレル夫妻が話しかけて来たので気にも留めずにその日の様子を伝えた。

カティは一瞬(かが)んでそして邸宅の中に入っていった。


その日の夜、カティは自分の胸が高鳴るのを感じた。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


次の日の朝、殿下を連れた使節団は次の領地に向けて出発の準備をしていた。

見送りにコーレル夫妻が来ていたが、子どもたちの姿はなかった。


殿下がどうしてもヴィクトリア嬢に挨拶したいと言うので、サグレスと一緒に2人で別館を訪ねた。

すると慌てて侍女がヴィクトリア嬢を呼んで出てきた。



「あれ?カティ、もう出発するの?」

令嬢はきょとんとした顔をしていた。


「そうなんだ。だからどうしても挨拶したくて。」

殿下はいつものやわらかな表情を浮かべていた。


「挨拶に来てくれてありがとう。」


「こちらこそ、昨日はとても楽しかった。」




すると殿下は意を決したようにヴィクトリア嬢の方を向いて言った。


「ヴィーは皇太子妃になりたい?」


殿下の真剣な眼差しはヴィクトリア嬢の瞳をまっすぐに(つらぬ)いていた。

突然の発言にさすがのサグレスも慌てていた。

真っすぐに殿下を見据えたヴィクトリア嬢は徐に口を開いた。


「何を言っているの、カティ?皇太子妃?」


「そう、実は僕」

と殿下が言いかけた瞬間、ヴィクトリア嬢はさえぎるようにはっきりと言った。








「私、皇太子妃なんて絶対に(いや)。私は皇太子以外の人と結婚して幸せになるの。」







その後の殿下は何もしゃべらなかった。

ヴィクトリア嬢は不思議そうに見つめ「じゃ、()()()。カティ。」と言った。

サグレスは殿下を馬車に乗せ、使節団はコーレル家を後にした。








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