第39話 死のお茶会(3)
ヴィクトリアは深い眠りの中で夢を見ていた。
遠い、遠い記憶の夢を。
ずっと頭に引っかかっていて、チラチラとよぎっていたものを。
深い水の中を泳ぐように、記憶のカケラを探していた。
ここはどこかしら?
水の中?
私は辺りを見回した。
すると水の底の方でキラッと光っていた。
私はそのまま深く深く潜ってその光っているものを手に取った。
あれ…?
こんなこと前にもあったような…。
私は水の中に射し込む太陽の光を追って水の上へと一気に浮上した。
「ぷはっ!」
私は一気に息を吸い込むと、太陽の光のもとに先ほど拾ったものをかざしてみた。
金のブローチ…?
これもどこかで…。
そしてゆっくり周りを見渡すとそこは湖だった。
私はハッとした。
ここは…間違いない!
ルシア湖!
私…故郷に戻って来たんだわ。
私ははやる気持ちを抑えながら泳いで岸に上がった。
私、帰って来たんだ。
というより今までどこに…。
早く家に戻らなくっちゃ。
お父様とお母様、それに弟のローゼンが心配してるわ。
って何で心配してるって思ったのかしら…。
私は自分の思考に違和感を覚えながら歩き出そうとした時、誰かにスカートを引っ張られた。
後ろを振り返るとそこには金髪で青い目をした小さな男の子がいた。
…カティ?
あれ…、カティって誰だったかしら。
それに、この子誰かに似てるわ。
誰かに…。
私はなぜかこの男の子から目が離せなかった。
「ねぇ、ヴィー。一緒に夕日を見たいな。」
私は家に戻るのをやめ、彼と一緒にいることにした。
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カティーサークは焦っていた。
ヴィクトリアの命を救うため盛られた毒を調べようとした矢先、昨日のお茶会で用意された紅茶からお菓子、ティーポットからカップに至るまで全て消え去っていたのである。
「一刻を争うって時に…一体何がどうなってるんだ!」
俺は机をガンっと叩いた。
慌てて戻って来たクロンが報告した。
「殿下、やられました。どうやら毒を盛ったと思われる厨房の一人が全て燃やしたようです。焼却炉の中に割れたティーカップやティーポットが出て来たので間違いないかと。」
「そいつは今どこにいる!」
「それが…はっきりとはしませんが恐らく口封じされたかと。今朝、王宮の外で死んでいるのが発見されたと今報告が。」
「…くそっ!一体どうしたら。」
俺は一縷の望みが目の前で消えていくのを感じた。
こうしている間にもヴィーの命は…。
こうなったらモナルカを拷問にでもかけて問い詰めるか…。
いや…だが証拠がない。
彼女がやったという証拠が。
証拠もないのに問い詰めたところで白を切られて終わりだ。
尋問になど掛けたら彼女の父親が黙っちゃいないだろう。
せめて毒がいつどこで盛られたかだけでもわかれば何か手の打ちようがあるかもしれないのに…。
一体いつどうやって…。
するとアレックスが妙なことを言い出した。
「ヴィクトリア嬢が口にしたのって紅茶だけでしたよね。確か…。侍女の話からするとメアリー嬢のことがあってから警戒してたようですし。念のためにお茶会前に毒が吸収されにくくするための薬を飲んでたって聞いてます。」
確かに彼女は警戒していた。
紅茶だってモナルカが口につけたのを見てから飲んでたくらいだ。
お菓子だって一切手に付けず、俺があの女から出されたケーキを食べる時だって心配そうな目でこっちを見ていて…。
「そうだ…。彼女は紅茶しか飲んでいなかった。仮にティーカップに毒があったとして、それを運んだ給仕は動揺こそすれ何の変な動きもないじゃないか。とするとやはり紅茶に毒が仕込まれていたと考えるが…問題はそれを俺もあの女も飲んでるということだ。」
それは何度も考えてそして打ち消した答えだった。
紅茶に毒が入っていたなら俺も倒れていないとおかしい。
するとアレックスはまたも考え、思いついたように俺を見た。
「殿下とモナルカ嬢だけ解毒薬を飲んだ…とか。ってそれはさすがにおかしいか…。」
アレックスは言ってるそばから自分で否定していたが、俺はその言葉が気になった。
俺とあの女だけ助かった…。
俺とあの女だけ解毒薬を飲んだとしたなら。
「ケーキだ!!」
間違いない。
あのケーキだ。
不自然なまでに俺とあの女の分だけ用意して、食べるのを見届けてからあの女は食べた。
これが突破口になるかもしれない…。
毒入り紅茶は警戒しただろうが、ケーキの方は作っているところを誰かに見られても問題ないからな。そう言えばあの女、ケーキには珍しい果実を使ったと言っていたな。
「アレックス、お手柄だ。お前とクロンはすぐにあの女が用意したケーキを探ってくれ。それを作っている所を見た者、使っている材料を少しでも目にした者を探すんだ!」
彼らは威勢よく返事をするとすぐに厨房へと向かって行った。
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おかしい…。
あの女がまだ生きてるなんて…。
モナルカは心臓がドクドクと波打ち動揺していた。
翌日になっててっきりヴィクトリアはもう死んだものと思っていたが、侍女からまだ虫の息の状態で生きていると聞いたのだ。
あの毒を飲んでそんなに耐えられるはずがないのに、なぜ!?
モナルカは自分の計画に狂いが生じていることを感じていた。
まさかとは思うけど、助かったりしないわよね。
いや…そんなはずはないわ。
証拠も全て消させたし、あとはゆっくり待っていれば…。
するとそこへ皇太子の護衛騎士の一人、サグレスという男が部屋に訪ねてきた。
どうやら私を殿下の所まで連れてくるよう命じられているらしい。
私はやり取りを聞き、ますます動揺した。
私を呼ぶということは何か…つかんだの?
確実な証拠もないのにそんなことをすればどうなるか承知のはずなのに。
私はゆっくり椅子がら立ち上がるとサグレスの方へと近づいた。
そしてこれ以上ないくらいの微笑みを浮かべた。
「殿下が私に会いたいとおっしゃってるの?では、連れて行ってくださる?」
私はここが勝負所だと確信していた。
クライマックスがだんだんと近づいてきました!
次話は明日の18時に更新予定です。




