第37話 死のお茶会(1)
お茶会の前日、ヴィクトリアに美しく仕立てあげられたドレスが部屋に届いていた。
今度のドレスは誰が送り主かちゃんとわかっている。
もちろんカティーサークである。
今度のはターコイズ色をした、大胆に背中が開いた肩の出るデザインのドレスだった。大きく広がるスカートは幾重にもレースが重ねられており、そこにはダイヤモンドが散りばめられている。
また胸の辺りに白い小さな花の刺繍が施されており、セクシーなデザインの中に可愛らしさを含むものだった。
私はそれを見た時すぐにピンと来た。
ジャスミン!
あの花の刺繍は間違いなくジャスミンだわ。
花言葉は確か「あなたは私のもの」だ。
それに「愛らしい」とか「官能的」とかもあったような。
可愛らしい花だけど濃厚な香りを放つのが特徴なのよね。
まさかこんなストレートな表現で来るとは!
しかもこのドレス…彼がつけた所有痕が残ってたら思いっきりわかるデザインじゃない。何て独占欲が強いの…。
そしてドレスと合わせるかのようにターコイズの宝石をあしらったネックレスとイヤリングが届いていた。
これ、どう見ても一週間やそこらで準備したとは思えないわ。
舞踏会前ぐらいから仕立て始めないと到底…。
私は小さくため息をついた。
あの時から既に用意してたの?
だとしたら…。
本当にいつから私を正妃にするつもりだったのかしら。
はぁ…。
私はまたため息をついた。
どっちにしても未来はこうなってたってことね。
何だか彼の思惑通りに進んでるみたいでちょっと癪だわ。
私はドレスを引き下げさせると、マリーに頼んでおいたものは届いているか確認した。
「お嬢様、こちらだそうです。」
「ありがとう。一応、念のためにね。」
私は渡された小瓶をギュッと握りしめると、明日のお茶会が何事も起こらないことを祈った。
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時を同じくしてモナルカ嬢のところにもドレスが届いていた。
それは彼女の父、ファウスト公爵から届いたものだった。
モナルカには2つ離れた姉が一人と年の離れた妹が二人の四人姉妹である。残念ながら男児がいないため、公爵家の爵位は姉の夫が継ぐのが有力であるがファウスト公はまだ諦めていないようだった。
というのも姉とモナルカの母親は体が弱く、モナルカを生むとほどなくして亡くなってしまった。
そのため父親であるファウスト公は、いない母親の分まで愛情を注いだというのは有名な話だ。特に母親に似ていた次女モナルカへの愛情は激しかったという。毎日のように「お前のように完璧な娘はいない」と言い、寝る前には彼女の髪を丁寧に櫛ですいていた。
しかし彼女が15歳の時にファウスト公が後妻を娶ったことから、少しずつその日常に歪みが生じた。モナルカに注がれていた愛情は少しずつ後妻へと移り、ほどなくして妹ができた。そしてまた次の年も赤子が生まれ、一週間前にはまた赤ちゃんがお腹に出来たと王宮にいる彼女に連絡があった。
お父様は言った。
私が家から出発する時「王妃になるお前を待ち望む」と。
私はお父様の完璧な娘。
私が正妃になればあんな継母なんか追い出してやるわ。
そして以前のようにお父様からの愛情は私だけのものになるのよ。
そして届いたドレスに目を移した。
ふんわりとした白いレースのスカートに上半身の部分には黄色の糸で美しく繊細な刺繍が施されていた。胸の辺りには黄色の大きな宝石がはめ込まれており目を引いた。
ドレスと一緒に髪飾りもついており、白椿をモチーフにした品の良いデザインだった。
「お父様ったら…。」
昔からお父様は私に言った。
お前は白椿のようだと。
あの花言葉のように「完璧な美しさ」があると。
彼女は満足気にドレスを部屋に飾らせると、引き出しからそっと小瓶を取り出し握りしめた。
そしてハンカチにしっかりと包んで侍女に手渡した。
「これを厨房にいるジョンに渡してちょうだい。」
「かしこまりました、お嬢様。」
彼女は明日が待ち遠しそうに窓の外を眺めた。
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翌日、お茶会日和と言えるような素晴らしい青空が広がっていた。
噴水の見える庭園近くにテーブルが置かれ、皇太子の席と二人の令嬢の席が用意されていた。
モナルカ嬢はすでに先に席に着いており、残りの二人が来るのを静かに待っていた。
彼女の腰まである水色の真っすぐな髪は、この青空の下でさらに美しさを増していた。
また白を基調としたドレスは彼女の清楚さを際立たせていた。
一方、私は髪の支度に時間がかかっていた。
普段は胸のあたりまである髪をそのまま下に流していたが、肩と背中が大胆に開いたドレスを着るや、突然片方の肩に流すように髪を編み込むように指示をした。
そのためお茶会には間に合ったものの、私が行った時にはすでに二人は席に座って話していた。
私は軽く胸を手で押さえながらカティーサークに頭を下げた。
「お待たせして申し訳ありません。」
そうして席に着こうとすると、彼はさっと立ち上がり私の椅子を引いた。
そして私の耳元で囁いた。
「俺のつけた痕は全部消えてしまったね。また、覚悟して。」
彼の瞳は私の背中や首筋をなめるように見ていた。
私はその熱いまなざしを感じて、また体が熱くなった。
モナルカ嬢からは何を言ってるのか聞こえなかったと思うが、二人の様子を見て何か感じるところがあるようだった。
彼は私とモナルカ嬢に挟まれるように席に着くと、手をたたき準備をするように指示をした。
カティーサークはその間、微笑みを絶やさずいつもの穏やかな皇太子の顔をしていた。しかしその内実、彼はヴィクトリアの姿を見て後悔をしていた。髪をいつものように下ろさず一つに束ねて肩に流すことで、肩から胸そして背中と肌の露出が際立ち給仕や使用人の男どもの目を惑わせていた。今すぐ彼女の背中にキスをして痕をつけてやりたい衝動に駆られながら、この茶会が終わったらドレス姿のまま部屋に連れ帰ってしまおうかと考えていた。
こうして穏やかな空のもと、波乱を含んだお茶会は始まったのである。
次話はまた23時に更新できるよう書く予定です。
どうかオラにパワーを!じゃないですけど、皆さんの応援が執筆の励みになっています。
ただひたすら自分がドキドキしたいという思いのもと書き始めましたが、こうやって読んでもらうとまた違いますね。では、引き続きよろしくお願いします。




