第36話 お茶会…それぞれの思惑
「殿下、皇后様から必ず読むようにと先ほどルビー宮から手紙が届いておりますが。」
サグレスはその手紙をカティーサークの目の前に置くと、さっさと読めとでもいわんばかりの顔をしながらこちらを見ていた。俺は嫌な予感しかしなかったが、仕方なく封を開けた。
― あなたは破廉恥な痕をつけたままのヴィクトリア嬢をお茶会に出席させるつもりですか?気持ちはわかりますが、自重しなさい。お茶会は一週間後ですよ。 ― エスメラルダ
俺はハァとため息を漏らした。
「母上にバレた。」
「皇后様どころかこの皇子宮の全員が周知しております。侍女たちが赤い顔して殿下の部屋からでてくれば、中にいるヴィクトリア様が何をされたかなんて想像に容易いでしょう。」
「まだ3日しか経ってないぞ!」
「3日もです!」
サグレスもまたハァーとため息をした。
「殿下の思いが実って私も嬉しいです。しかし初めてだった無垢なご令嬢が3日も獣のような殿下の餌食になっているかと思うと…。皇后様のご意見が最もかと。少し自重されるべきです。」
「ヴィーの方から煽ってくるんだ。そんなの抗えるわけないだろ。おかげで今の俺は、彼女のお願いは何でも聞いてしまいそうだ。」
「そうではなくて部屋から出してあげればよろしいだけではありませんか。現に皇后様も暗にそうおっしゃってます。わざわざ昨日も一昨日も『寝屋の日』に設定して…。」
「正妃と認められるまでは正式な形にのっとってやらないと王族の恥らしいからな。そうしてるだけだ。」
「侍女長の言葉を相当根に持ってらっしゃるようですが、この状況で残ってらっしゃるモナルカ嬢も不憫でなりませんね。早く決着をつけて差し上げないとあちらも限界が来るんじゃないですか。」
「わかってるが…。ただ母上が残した手前すぐに候補から降ろすと色々と面倒だ。それに何よりあのファウスト公爵の娘というのも厄介だ。だが父から正式にヴィーが正妃として認められればすぐにでも降りてもらうつもりだ。十分な見返りをつけてな。皇太子に選ばれなかった令嬢として今後社交界で立場が悪くなっても困るしな。」
だからこそお茶会なんて最早どうでもいいんだが…。
前から決まっていたこととはいえ煩わしい。
俺はヴィーと過ごす時間がいくらあったって足りないっていうのに。
俺は今度は深くため息をついた。
「母上に言われては仕方がない。ヴィーを出してやるか…。」
今日は部屋に戻っても彼女がいないと思うだけで寂しくなる。
いつも追っていた彼女の幻想が現実になったのに…。
こんなにも私室に戻るのが嫌な日はないな。
カティーサークは侍女長を呼びつけるとヴィクトリアを彼女の部屋に戻すよう指示をした。
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私は3日ぶりにやっと解放され部屋に戻った。
そして自分の部屋がこんなにも落ち着くと思ったことはなかった。
私を見るや否やマリーが今にも泣きそうな顔で駆け寄ってきた。
「お嬢様!大丈夫ですか?どこか傷とかつけられたりとかしてませんよね?」
「何とかね。ただもうヘトヘト。」
「私はお嬢様の噂を聞く度に心配でたまりませんでしたよ。それにしても皇太子様もいくらお嬢様にメロメロだからって酷すぎます!」
「メロメロって…。」
確かにそういう言い方もあるわね。
でもそんな可愛い感じでもない気がするけど…。
「とりあえず一旦落ち着いて食事でも取りたいわ。」
そして私は自分の部屋でマリーとゆっくり食事をした。
私の心は久しぶりに平穏を取り戻していた。
胸のざわつきもなければ体が熱くなることもない。
この3日間がまるで嘘だったんじゃないかと思うくらい、ゆったりと時間が流れていた。
「あっ!そういえばお嬢様。お嬢様が着ていた侍女の服にこんなものが入っていたので預かってたんですけど…。」
そう言って取り出したのはあの小さな湖で見つけた金のブローチだった。
「あっ、すっかり忘れてたわ!ちょっと見せて。」
私は今度はそのブローチを窓から射し込む太陽の光にかざしてみた。
やっぱり見れば見るほど昔私が持っていたブローチに似ていた。
拾った時は見たことあるなくらいにしか思っていなかったが、こうやって明るい部屋で見るとあのブローチにそっくりだ。
ただ、いつの間にかなくなっていたのよね…。
最後に見たのは確か…。
その時マリーが突然大きな声で話しかけたので、思い出せそうな何かが吹っ飛んでしまった。
「お嬢様!!大変です!!もう一週間後にはお茶会ですよ!!今から準備をすぐしないと間に合いません!もうお嬢様は次期正妃様なんですからドレスだってちゃんとしなくちゃ。」
次期正妃と聞くとやっぱり気持ちは重かったが、彼を受け入れた時点で覚悟していたことだ。
これからは少しずつ気持ちを切り替えていかなくちゃ…。
「マリー、とりあえずドレスは大丈夫だと思う。殿下が用意してくださるって言ってたから。」
「まぁ!さすがお嬢様!もう皇太子様を手懐けていらっしゃるんですね。」
「手綱を握ってると言ってちょうだい。あの人は時々何をするかわからない人なんだから。絶対に聡明で優しい皇子なんて思っちゃダメよ。」
この前はいかにも彼を象徴したようなドレスを送ってきたけど、今回は一体どんなドレスを送り付けてくるのやら…。きっとまた普通のドレスじゃないんだろうな。
それにしても結局聞きそびれちゃったけど、一体私のどこがそんなに好きなのかしら。
何だかんだで彼にキスされると何も考えられなくなっちゃうし。
今度こそちゃんと聞かなくちゃ。
一時の気の迷いで正妃にされた後に寵姫でも作られたらたまらないもの。
こうなったら側妃を娶るのだけは避けないと。
私の幸せのため!
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「モナルカ様、大丈夫ですか。お顔の色が…。」
「ええ、大丈夫よ。ちょっと一人にしてくれるかしら。」
私は侍女を外へ出すと一人私室で怒りに震えた。
許さない…。
ヴィクトリア。
3日も殿下の部屋にだなんて、この私を侮辱するにもほどがあるわ。
私を憐れむ周りの目。
侍女まで私を可哀想な目で見て…。
高みから私を笑うあの女の姿を考えるだけで血が逆流しそうだわ。
殿下もあの女にまんまと騙されて…。
でも、それも今度のお茶会で最後よ。
そこで後悔するがいいわ!
そうしていられるのも今だけよ!
ヴィクトリア!
私は人生で負けるなんてことあってはいけないのよ。
この勝負も必ず勝つわ。
それが私だもの。
そうよね。
だって私は完璧なんでしょう、お父様。
彼女は首から下げたロケットペンダントを開け、父親の写真をうっとりと眺めていた。
次話からいよいよお茶会です(・v・!
あと、読み返しては誤字脱字を発見し直してるため(改)ばかりですみません。




