第32話 月下に、陶酔する二人
R15です。
ヴィクトリアもカティーサークも押し黙ったまま、ただ相手をじっと見つめていた。
私の濡れた髪から雫がぽたぽたと垂れていた。
その垂れた雫がときおり首筋や背中をつたい、私の体を流れる感触がした。
体が風にさらされる度、少しずつ冷えていくのを感じた。
私は服を胸の辺りでギュッと掴んだまま、手に力を込めた。
「あの…怒らないんですか?」
いつもの彼ならきっとまたすぐ怒って引っ張ってでも連れ戻すと思ったのに…。
彼はただ何もせずに少し離れたところで座って、じっと見ているだけだった。
「怒ってるさ。もう十分に…。」
「なら一体…。」
今度は何するつもりと言おうとして、言葉が出なくなってしまった。
ゆらゆら揺れた彼の瞳が私を離さなかった。
「今はヴィーが無事だった。それだけでいい。」
彼の金色の髪がさらさらと風に揺れていた。
私は彼をじっと見た。
彼は片手を地面に着きながら、両肩を大きく揺らしていた。
もう片方の手は頭を支えるようにしていた。
何だか呼吸が苦しそうだった。
「あの、どこか悪いんじゃ…。」
私はもう少し様子を見ようと彼に近づこうとした時、彼は突然声を荒げた。
「それ以上近づくな!」
私はビクッとなり体が一瞬硬直した。
彼は何かに必死に抗っているようだった。
「今の俺は自制が利かないんだ…。」
カティーサークは甘いヴィクトリアの声を聞く度に体は熱くなり、視界に入るたびに彼女に襲い掛かってしまいそうになるのを必死にこらえていた。
媚薬のせいなのか、満月が酔わせるのか自分の中で抑えられない欲望が渦巻くのがわかった。
「俺の頭の中は醜い欲望でいっぱいだ…。」
カティーサークは目を塞いで手で覆った。
なるべくヴィクトリアを見ないように。
「これ以上、君を傷つけたくないんだ。だから近づかないでくれ…。」
彼は必至に自分を抑えているようだった。
全身で私を求めておきながら、私を遠ざけようとしていた。
聡明で穏やかな皇太子。
だけど嫉妬深くて、傲慢な男。
なぜ、私なの…。
どこがそんなに好きなの?
私は…。
私は考えることに疲れていた。
満月の光が私の本能だけを照らしていた。
何も考えずにただ楽になってしまいたかった。
私は手に持っていた服をばさっと落とし、彼に近づいた。
そして彼の前に膝をついて少し覗き込んだ。
彼の金色の髪が風に揺れるたび月の光に照らされ煌めいていた。
私はそっと彼の髪に触れた。
すると彼は覆っていた手を外し、目を開けた。
月の光に反射したアクアマリンの瞳が輝き、熱を帯びていた。
「私がほしいですか?」
彼の瞳は今までになく大きく揺らいだ。
「っ…欲しい。欲しくてたまらない。」
彼は絞り出すように答えた。
私は彼の首筋に手をまわし瞼を閉じた。
「なら、あげます。好きにしてください、殿下。」
私は体の力を抜いた。
そして彼の体に身を預けた。
彼の体にさらに熱が帯びるのを感じた。
「…名前で呼んでくれないか。っ…カティと。」
私は彼を受け入れることにした。
そして、今は…もう何も考えないことにした。
私は彼の名前を呼んだ。
「…カティ。」
すると彼は私を強く抱きしめ、そして噛みつくようにキスをした。
何度も何度も、息が出来なくなるほどに。
苦しくて顔を離すとすぐに彼は私の口をふさいだ。
彼の熱が私に移るように、私の体も熱くなっていった。
頭がぼうっとして、ただ彼の熱だけを感じていた。
そうしてどれだけの間キスをしたかわからなくなった時、彼は私の瞳をじっと見つめた。
「部屋に行こう。」
そう言うと彼は私にローブを羽織らせ体を隠した。
フードまで被せ、私はすっぽり顔まで覆って見えなくなってしまった。
「ヴィーのこんな姿…誰にも見せられない。」
彼はやさしく私を抱きかかえるとゆっくりと立ち上がった。
私は何も見えないまま彼に抱きかかえられ、ゆらゆらと揺れながら彼の部屋に入った。
お昼の時とは違って、心地いい揺れだった。
途中で侍女か誰かに彼は何か話していたが、そんなことはもうどうでも良かった。
そしてベットに寝かせられると、彼はゆっくりとローブをほどいた。
そこには肌の透けた下着姿の熱を帯びたヴィクトリアの体があった。
「本当にいいのか。」
彼は私を見つめていた。
私は昼間の彼とは大違いだと思った。
今すぐにでも欲しいくせに、それでも優しくしようとするなんて…。
私は彼の体を引き寄せて答えた。
「気が変わらないうちに。」
そして私は彼の手の平にキスをした。
彼はまた火が着いたように私に熱いキスをし、強く抱きしめた。
胸のあたりが熱かった。
私の体は彼がキスをする度に熱く反応した。
そして彼が首筋から胸へとキスした所はほんのり赤くなっていった。
そうして私はただ本能のままに彼を受け入れた。
彼もまた渇きを潤すかのように、欲望のままに彼女を抱いた。
朝方、一度うっすらと目を開けると彼は隣でぐっすりと寝ていた。
彼の金色の髪がカーテンの隙間から射す光に反射して綺麗だった。
私はそうしてまた目を閉じた。
次に起きた時には彼はもういなかった。
私はベットから起き上がるとお腹のあたりに少し違和感を感じた。
ただ、実感はなかった。
私の頭はまだ夢の中のようにフワフワしていた。
ほどなくして様子を見に来た侍女がお風呂に入れてくれた。
時折侍女が顔を赤らめたりしていたのを見て、私の体のあちこちに赤い痕があることに気づいた。
私は今日は休みたいと言い、またベットに横になった。
何も考えずただ深く、深く眠ってしまいたかった。
ドキドキしてもらえたら嬉しいです。次話も楽しんでもらえたらと思います。




