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【完結】誘惑のヴィクトリア~皇太子妃になりたくないので皇子以外を全力で誘惑します~  作者: 茄乙モコ
【第2章】嫉妬する女たち(恋心、意識編)
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第31話 月光の行方(3)

ヴィクトリアは彷徨(さまよ)っていた。


一度遠くの方から一瞬だけ見えた「小さな湖」の場所なんて正確にわかるはずないのだ。

この辺りの林を抜けた先にあるだろうと入っては見たものの、木は鬱蒼(うっそう)と茂っており月の光を(さえぎ)るかのように闇が深くなっている気がする。

引き返そうと後ろを振り返ると、真っすぐ歩いて来たつもりなのにどこを通って来たかわからない。

私は不安に駆られながら辺りを見渡すと、ただ暗闇と静けさがあるだけだった。


さらに不安が襲い掛かったその時、私はふと湿った空気の流れを感じた。

風がまるで近くにある池の水気を運ぶように。

私はその体に(まと)わりつくような水気のある方へと足を進めた。



そして生い茂る木々を抜けた時、私は目の前に広がる景色に目を奪われた。


真上にキラキラと輝く満月はその真下に美しい水月を浮かび上がらせ、円形の人工的な池はサン・ビセンテで見たルシア湖を思い出させた。


「綺麗…。」


私は吸い寄せられるように近づき池の水を手ですくってみた。

濁りのない透き通った水だった。


「ちゃんと循環してるのね。」


私は池のほとりに腰を落とすと、水面を(のぞ)き込んでみた。


するとそこには反射して映った自分の顔が見えた。

私は映し出された自分の顔をじっと見つめた。



ねぇ、ヴィクトリア。

あなたはどうしたいの?

どうしてそんなに逃げるの?

そんなにあの男が嫌い?


そうじゃない、そうじゃないけど。

あの人がキスすると胸がざわつくもの。

ライリーとは何もなかったのに…。


ふとメアリーの言葉が頭をよぎった。

― 比べてみればわかるんじゃない?


そしてロレンツォの顔が浮かんだ。

― 人を好きになったことある?


いつから?

どうして?

あんな傲慢な男を?


そんなの理屈じゃないの。

もうわかってるくせに。


私は打ち消すようにバシャバシャッと水面に映った自分の顔を消した。



もう少し、もう少しだけ考える時間がほしい。



私はそう思いながらぼんやり全体を見渡すと、池の真ん中辺りが一瞬キラッ光ったような気がした。

最初は月の光が反射したんだろうと思ったが、気になってその辺りをもう一度じっと見てみた。

するとやはり同じところがキラッと光っている。


池の中に何か…。


私は目を凝らしてみたがさすがに遠すぎて何なのかまではわからなかった。


気にしないでおこうとしたが不思議なもので、一度気になるとついついそちらに目が行ってしまう。

私はちょっと近づいてみようかなと思い、池の中に足を踏み入れてはみたものの、靴や服が水分を吸って重くなりとてもじゃないけど進めそうになかった。


私は辺りを一通り見渡した。


よしっ、誰もいない…よね。


私は思い切って服を脱ぎ岸に放り投げた。

靴も脱ぎ、アンダードレスだけになった私はこれで身軽になったと思った。


お父様とお母様に知られたらとんでもないことになるわね。


くすっと笑いながら先ほど見えた光っている所へめがけてゆっくり泳ぎ出した。


心地よい風と水が気持ちよかった。


窮屈(きゅうくつ)な部屋から一気に解放された感じだわ。

上を見上げると満月が煌々(こうこう)と輝き、空一面に星が(またた)いていた。


本当に綺麗…。


その中で青い輝きを放つ星を見て、彼の瞳に似てるなと思った。


私はまたくるりと反転し、光っていた方へとパシャパシャ泳ぎ出した。


うーん、この辺だと思うんだけど…。

近くまで泳いできたものの、やはり水面の上からじゃよくわからなかった。


ここまで泳いだからには一応やるだけやっとくか…。


私はバシャっと水に潜り、水の中でゆっくり目を開けた。

上の方は月の光でぼんやり白かったが、深い所は暗くよく見えなかった。


やっぱりダメか…。


と思った矢先、底の方がキラッと光ったのである。

私はそのまま光ったところまで潜り光っているものに手をのばした。

そして手に(つか)んだ感触を頼りに一機に水面まで浮上した。


「ぷはっ!」


思いっきり空気を吸って、私は呼吸を整えた。

そして手に掴んだものを月の光にかざしてみた。


何だろう、これ…。

真ん中にはめ込んであるのは宝石?

周りの細工は金でできてるのか全然錆びてないわ。

ブローチか何かかな…。

暗くてよく見えないけど何となく見覚えが…。


私は明日にでももう一度よく見てみようと思い、先ほど服を放り投げた方へとゆっくり戻っていった。

そして服のポケットに掴んだものを突っ込み濡れた髪を絞っていると、突然、声がした。



「ヴィー。こんな時間に水浴びか?」



聞き間違えるはずがない。


この声は彼の声だ!


私はきょろきょろしながら辺りを見据えると、木陰にカティーサークと従者がいた。

彼のアクアマリンの瞳が月光に照らされ、私は目が合った。


私は体が急に熱くなって、下に落ちていた服をギュッと掴んで体を隠そうとした。


従者は何か告げられるとこの場を去ってしまった。

彼はその場でドサッと腰を下ろし、こちらを見ていた。


私はまた胸の辺りがざわついた。

















次話でやっとヴィクトリアとカティーサークの二人のシーンが来ます。最近やっと書くペースを掴めてきて、コンスタントに更新することが出来るようになりました。

次話は本日23時に更新予定です。

よろしくお願いします!

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