第30話 月光の行方(2)
カティーサークは紺色のナイトガウンの上に一枚黒いローブを羽織るとすぐに騎士たちに命令した。
「優先順位はヴィクトリアだ!ただ同時にメアリーがワインを渡したヤツも探すんだ!!彼女はそいつと一緒にいる!」
あの女は牢にぶち込まれても誰にワインを渡したか吐かなかった。
尋問したところで意味ないだろう。
すると騎士の一人があることに気づいた。
「メアリー嬢の兄、ライリーが見当たりません!」
ライリー!?
まさかあの女!
自分の兄まではめたのか!
それともそいつもグルなのか…。
「よし、第1騎士団はライリーを!それ以外は王宮の隅から隅まで探すんだ!」
そしてサグレスを連れ俺もまたヴィクトリアを探しにライリーの宿舎の方へ向かった。
月は厚い雲に隠れ、辺りは夜の闇一色だった。
頼む!
間に合ってくれ!
彼女を無事に返してくれ!
俺はそんなことばかりを考えていた。
そして宿舎に行った俺たちは建物中探したが、そこにライリーはいなかった。
そんな時、落胆する俺たちの耳にある騎士から知らせが入って来た。
「ライリーが別の宿舎の空き部屋に…!」
俺はそれを最後まで聞く前に一目散に走り出していた。
ライリー!
頼むから彼女に何もしないでくれ!
俺は息をきらしながらライリーの見つかった部屋に行くと、そこには歯を食いしばって必死に耐えるヤツの姿があった。
一目見てわかった。
俺と同じ媚薬を飲まされたんだと。
そして机の上には飲みかけのワイングラスが1つと、床にガラスの破片が飛び散っていた。
それを見るや一気に駆け寄りライリーの胸倉をつかんだ。
「ヴィクトリアは!彼女はどこだ!!」
ライリーはうっすらと目を開けて俺を見ると、向こうもすぐに理解したようだった。
「殿下…。彼女は無事です。ただ、自分を抑えるのに精一杯で…どこに行ったかまでは…。」
俺は彼女が何もされていないことに一瞬安堵しつつも、彼女の行方が依然わからないことに落胆した。
俺は掴んでいた彼の胸倉を離すと、今度はヴィクトリアを探しに外に出た。
厚い雲がいつの間にか風に流され、明るい満月が夜を照らしていた。
俺はライリーの居場所を伝えたという侍女が歩いて行ったという方向に足を進めた。
きっとその侍女がヴィーだ。
間違いない…。
俺は早く、一刻も早く彼女に会いたかった。
会って無事を確認したい。
そして出来ることなら抱きしめたい。
ただ今の俺はきっと彼女に触れたらすぐにタガが外れてしまう。
だから見つけたらサグレスにでも任せるしか…。
その時だった。
かすかだが水の跳ねる音がした。
この辺りは確か…俺が造らせた「小さな湖」が。
そして前に彼女にそれを話したことを思い出した。
まさか…。
俺は一縷の望みをかけて池のある方へと足を進めた。
後ろからちゃんとサグレスもついて来ているようだった。
俺たちは鬱蒼とした木々の間を抜け、目の前に現れた池を見渡した。
といってもギリギリ全体を見渡せるくらいの広さである。
ここに人がいたとしても反対側にいたら見つけるのは難しそうだった。
丸い形をした池の水面には満月が映し出され、まるで煌々と輝く満月が二つあるかのようだった。
俺はその幻想的な風景に一瞬目を奪われそうになりながら、ヴィーがいないか目を凝らした。
すると、ちょうどその映し出された満月の水面からパシャっとシルエットが浮かび上がった。
最初は水の女神でも現れたのかとドキッとしたが、じっと見ているとその女の姿が浮かび上がってきた。
彼女だった。
そして彼女が池のほとりに近づくにしたがって、俺たちの目にその姿がくっきりと見えてきた。
しかしその姿がくっきりするにつれ、だんだんとサグレスの顔は赤くなり俺は動揺した。
おそらく泳ぐために脱いだのであろう。
彼女は白いインナードレスを身に纏ってはいたが、それは水分を含み水面から上がるにつれピッタリと体に張り付いていった。
そして薄手のインナードレスは水分のせいで透け、体のやわらかな細部まで見えるようだった。
髪から滴り落ちる雫が。
輝く金色の瞳が。
濡れた唇が。
全てが俺たちを誘惑しているようだった。
俺は瞬間的にサグレスの目を覆い呆然としてしまった。
彼女はいつも想像の斜め上をいく。
こんな必死に皆が探しているのに、呑気に水浴びとは…。
危険な状況だっていうのにあんな無防備で。
最初に見つけたのが俺じゃなかったら。
想像しただけで頭に血が上りそうだ。
おそらく俺たちは木の陰に隠れて彼女からは見えないのだろう。
だとしても無防備すぎる。
これ以上俺に何を我慢しろと言うのだ。
本当に残酷な女だ、君は…。
俺は自分の中の沸き立つ血を必死に抑えながら彼女に声をかけた。
「ヴィー。こんな時間に水浴びか?」
彼女は声に気づき、そして俺と目が合った。
当然、彼女が慌てたのは言うまでもない。
俺はサグレスに侍女を呼んでくるよう耳打ちした。
サグレスは一瞬ためらったが、俺が彼女に手荒な真似はしないと伝えると素直に呼びに行った。
俺は侍女が来るまで彼女と二人きり。
耐えられるだろうか…。
ライリー、お前は本当によく耐えたよ。
俺は彼女の無事を見ると、その場にドサッと腰を下ろした。
ふぅ。何とかここまで来ました。楽しんで読んでいただいてる皆様、ありがとうございます。
てっきりブクマの数=読んでもらってる数だと思ってたのですが、そうじゃないことに気づき思っていた以上に見てくれている方がいることに感激しました。
つたない文章ですがこれからもよろしくお願いします。




