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【完結】誘惑のヴィクトリア~皇太子妃になりたくないので皇子以外を全力で誘惑します~  作者: 茄乙モコ
【第2章】嫉妬する女たち(恋心、意識編)
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第22話 メアリーの悪意(2)

メアリーが声を掛けてきて一緒のベットで眠ってから、私たちはほぼ毎日のように互いの部屋を行き来し一緒に過ごす時間が長くなった。

それにひきかえモナルカ嬢は相変わらず私たちとは交流することなく、自室で一人で過ごしていた。

モナルカ嬢も一緒に過ごせたらどんなにいいだろうと思いながら、私はメアリーとのおしゃべりを楽しんだ。

こうして私はカティーサークのことを考えるのを紛らわしていた。


しかし、なかなか自由に外に出られない私たちにとって話題は限られており、どうしても彼の話を避けることは難しかった。



メアリーはお菓子を一口食べながら、ごく自然に突然聞いてきた。


「ねぇ、ヴィクトリアって殿下とキスしたこと…ある?」


私は唐突(とうとつ)な質問にびっくりし、飲んでいた紅茶でむせてしまった。


「えっ…キス?」


「そう、キス。」


彼女はまじまじと私を見た。

そして私が言葉を詰まらせていると、彼女の方から口を開いた。


「実はね、私あるんだ。ヴィクトリアより一か月前に殿下との寝屋(ねや)があって、その時にね。私のエメラルドグリーンの瞳が気に入ったって。だけど正妃選びは慎重にしたいからって言って、その先はせずに部屋に返されちゃったんだけどね。すごく優しくしてくれたの。」


彼女はうっとりとした表情になり、その時のことを思い出している様子だった。

メアリーに彼が優しいキスをしたと聞き、私は何だか少しもやっとした。

私にはあんな仕方でしたくせに…。


もちろんこれがメアリーの嘘だなんて、ヴィクトリアはこれっぽっちも思っていなかった。

ただ彼女もキスをしていたということで、自分のことを話してもいいかという気になった。


「私も…最初は一瞬触れただけだから、ちゃんとキスっぽいのは一回だけかな。でも、メアリーみたいな感じじゃなくて、かなり強引な感じで…。」


「へぇ、やっぱりあるんだ。殿下は強引なキスをするのね。」


彼女は笑っていた。


「ねぇ、やっぱりキスされた時ドキドキした?」


「ドキドキというより…あんまり覚えてないかも。」


というより思い出したくなかった。

それなのに何度も頭をよぎって、彼のアクアマリンの瞳が頭をちらつかせた。

考えたくないのに、本当に忌々(いまいま)しい。


「そうなんだ…。まぁ、比べてみないとわかんないよね。」


その時、彼女が何の気なしに放った言葉が引っ掛かった。


「比べて…みる?」


私の何気ない(つぶや)きにメアリーは反応した。


「えっ!?もしかしてヴィクトリアって、他の人とキスしたことないの?」


彼女は驚いていた。

そして、その事実に私自身も驚いていた!

今まで誘惑した男の人も大概は耳元で(ささや)くだけで良かったし、結婚すると決めた人としようと思っていたから結局キスをしたことがなかった。

レイヴン侯としたつもりになっていたけど、あの時は寸前の所であの男に止められたし…。

えっ、何?それじゃ、私…。

私の頭は混乱していた。

今まで腹が立ったりびっくりしたりで頭がいっぱいいっぱいになっていたけど、あれが私のファーストキスだったのだ!


「ヴィクトリアって本当、鈍感なのね。」


メアリーは声を立てて笑っていた。




そしてメアリーは思いついたように私に(ささや)いた。


「じゃあ、比べてみましょうよ。」

彼女はにっこりと微笑んだ。


「比べてみるって?」

私はキョトンとしていた。


「言葉の通りよ。他の人とキスしてみるの。なぁに、そんな難しいことじゃないわ。ちょっといいかもって思う人を見つけて、少し誘ってみるの。ヴィクトリアの外見ならすぐに出来るわ。」


メアリーはニコニコしながら私を見ていた。

彼女はとても楽しそうだった。

前の私ならすぐに乗っていた提案だったが、レイヴン侯や舞踏会でのことを思い出すと気持ちがもやもやしてすぐに返事できなかった。

そんな私の様子を見てメアリーは言葉を続けた。


「大丈夫。もし気が乗らなかったらしなければいいだけだし。実は王宮騎士団に私の兄がいるの。ちょうど訪ねようと思ってたんだけど、気分転換にどう?見に行くだけでも、ね。」


私はメアリ―が元気づけようとしてくれているんだと思った。

…気分転換も必要よね。

そう思いメアリーについて行くことにした。


「ありがとう、メアリー。私、本当にあなたと友人になれて良かった。」

私は彼女ににっこりと微笑んだ。


彼女は振り向いて笑って言った。


「私もよ、ヴィクトリア。」



私たちはメアリーの兄がいるという騎士団の訓練場に向かった。



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