第19話 交錯する舞踏会(3)
ヴィクトリアはカティーサークに手を引かれながら舞踏会の行われている広間に向かっていた。
彼がぐいぐいと引っ張りながら歩くので、その度に転びそうになり腕が痛かった。
ちゃんと戻るから手を放してほしいと何度懇願しても、彼は決して放してはくれなかった。
私は近づいてくるルビー宮を前に今日のことを思い出していた。
皇后と話をして、妃候補から落ちるはずと糠喜びして。
その前にロレンツォにも会って、私のせいみたいに言われて…。
カティーサークとダンスして…。
そういえば皇后と話し終わった後、彼は「後で踊ろう」と言っていた…。
今思えばおかしいことだらけ。
まるで私が残ることを知っていたみたいに…。
でももし彼が裏で手をまわしていたとしても、もうどうでも良かった。
今更何も変わらない…。
レイヴン侯とも、もう会えない。
今はただ、彼がキスした感触だけが唇に残ってる。
そしてドレスも…。
よく見ればこのドレス、アクアマリンの宝石が散りばめてある…。
彼の瞳と同じ色。
ドレスの色もアクアマリンで…。
宝石言葉は確か…そう、確か「聡明」だった。
私は小さく鼻で笑った。
全ては彼の手の平の上で踊らされていたってわけね。
私は自分の浅はかさに嫌気がさした。
「…殿下。待ってください!」
私はどうしても聞かなければならないと思った。
呼び止められた彼はこちらを振り向いて「どうした」と言った。
私は真っすぐに彼を見て、そして尋ねた。
「殿下…、なぜこんなことをするんですか?」
私は彼をじっと見た。
彼は少し驚いたような表情をし、私を見返した。
「どうしてかわからないのか?」
彼は何かを訴えるような表情で私を見ていた。
そしてアクアマリンの瞳がやはりゆらゆらと揺れていた。
私はもうこれ以上は隠し通せないと思った。
「私が…私が殿下のプライドを傷つけたのなら謝ります。ここにいる間は静かにしてます。ですから、どうか皇太子妃にはっ」
その瞬間、彼は大きな声を出し遮った。
「それ以上言うな!」
握られた彼の手から震えが伝わった。
「頼むからそれ以上は言わないでくれ。二度と聞きたくないんだ。」
彼は悲痛な表情を浮かべていた。
私はそんな彼を見て何も言えなくなってしまった。
「どうしてこんなことをするのかと君は聞いたな。だったら考えてくれ…。どうして俺がこんなことをするのか答えが出るまで考えるんだ。」
カティーサークは本当は今日、ダンスが終わった後に自分の思いを伝えようと思っていた。
もしかしたら彼女は自分の思いに少しは気づいているのではないかと思っていた。
だが、これだけアピールしても彼女には何も伝わっていなかった。
伝わっていないどころか彼女の瞳には他の男ばかりを映している…。
それならばいっその事、自分しか考えられないようにしてやろうと思った。
朝から晩まで、何なら寝ている時まで俺のことを考えて悩めばいい、と。
ヴィクトリア…君が俺をこうさせるんだ…。
彼は私をじっと見つめた後、くるりと前を向いて歩きだした。
私の手は依然、引っ張られたままだった。
私はくたくたに疲れていた。
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広間に戻ると私はまた注目を浴びた。
なぜなら皇太子と手を繋いで帰ってきたのだから。
メアリー嬢は悔しそうにこちらを見ており、ダンスをしてもらえなかったモナルカ嬢はものすごい顔で私を睨んでいた。
階段下でようやく手を放すと、カティーサークはそのまま階段を上がり最初の位置に戻った。
私はというと階段下でただぼうっと突っ立っていた。
私は心の底から疲れていた。




