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6 宝来結恋

"百合園麗華"


私が彼女の存在を初めて知ったのは、西ヶ花学園に入学する、一年前。


つまり、私が五歳の時。


このぐらいの時から受験という名の戦いはもうはじまっていて私もそれはそれは必死に勉強した。



西ヶ花学園。

そこで卒業した、というアドバンテージは計り知れないものだから。


全国には、西ヶ花学園のような学園が他に北、南、東にあるのだけれど、その4つの中で最も入学するのが難しいといわけている。



だけれど、その分合格すれば必ず私の力になるからとお母様やお父様に勧められて、私はその日も必死に西ヶ花学園に合格するために勉強していた。

お母様はいつも私の邪魔しないように声をかけてこない。

それがどうしてかその日はふいに声をかけられた。



「結恋ちゃん、百合園麗華さんという子を覚えておきなさい。

そしてもし、学園でその子にあったならば必ず仲良くしろとは言わないけれど出来るだけ仲良くしなさい。」



いつもは私が誰と仲良くしようがそのことをとやかくいわずにいることを美徳にしていたはずのお母様が急にそんなことを言い出した。



どうして?なんて聞けない雰囲気で。




そして、習い事の先生も。


「結恋さんが学園に入学なさったら、百合園麗華さんという方とお会いになるでしょう。

私が言うのもおこがましいですが、彼女とは仲良くしたほうがよろしいかと思います。」




分からなかった。

その百合園麗華っていう子がまるでもう確実に入学するとわかっているように話すことが。

みんな、彼女と仲良くしろという意味が。

確かに百合園家は私の家と並ぶ財力に私の家にはない歴史などもある。

表向きは同格とされていたけれど、その差は誰もが理解していたし、私だってそのことは理解していた。

先生だってお母様だって今更そんなことで私に仲良くしろなんて言う必要がない。


だから、分からなかった。

あの日までは。





その日は、いよいよお受験に向けての仕上げという意味もあって、出るか分からないし、出たとしても誰も解けないくらいの難問を当日慌てないよう、一応軽く考えて見よう、そんな内容の授業だった。


私が、問題と格闘している間に先生は別の先生に呼ばれて少しの間席を開けることになった。


「結恋さん、もし問題が解けたり、どうしても分からないところがあったりしたら先生のところに悪いんだけれど来てくれるかしら?」


「はい、わかりました。」


「悪いわね。少しの間席を外すわ。」



そう言って先生は隣りの部屋に行った。




………………。

うーーん。

やっぱり全然分からないな。

少しだけ、先生にヒントを教えてもらおう!


そう思って隣りの部屋にいる先生のところに私は向かった。

そして、扉を開けようとした時、


「本当にまだ五歳の子がこんな問題を解いたんですか!?」


「ええ。本当よ。」


「信じられない……。

神童、天才、天使。いろいろな彼女の噂を聞いてきたけれど本当にそんなことが出来る子がいたなんて。」



「本当に……。彼女は本物の天才よ。

この問題だって下手をすれば大人ですら解けない程の難易度よ!?それをたった10分でスラスラといてしまうのよ?教えてもない公式を使って!!

教える私の身にもなって欲しいわ!」



「…彼女は、レベルが違う…………。」




いつも穏やかで、にこにこしている先生がこんなにも慌てている姿に私はとっても驚いた。


けれどそれよりも私が必死になっても分からないような問題よりも難しい問題をスラスラ解けてしまうような同年代の子がいるということに何よりも驚いた。



だって、そんなの絶対に勝てないじゃないか。



私はその日まで、自分に絶対の自信があった。

他の子達よりも、明らかに高い家柄。事実、予約でいっぱいのお店だって宝来家が来るとなると、予約もしていないのに1分も待たずにお店に入れたし、どこに行っても私たちが優先されていた。



でも、お母様はそれを当たり前と思わずに、自分を磨きなさい。と、私に言った。


だから私は、今までいろいろなことを頑張って来たし、泣き言も言わなかった。



それに、私は他の子達よりも上達するのが早かった。みんなよりも明らかに差をつけて色んなことをゴールしてきた。


だって、私は私より優れていた子達をも追い抜かして一位になることができたから。


なのになのに。



どんな子なんだろう。

自分よりも明らかに優れていると言われる百合園麗華さん。

本当にそんなにも優れているのだろうか。



そのことを私は入学式で初めて彼女に会った時に知ることになる。





_______入学式当日。




その日は、みんな静かにしなければいけないというのにザワザワが収まらなかった。


それもそのはず。

だって、私を含めて、明らかにレベルが違う財閥の子達が入学していたのだから。



私はいつも初めて会った人には2度見をされるか、その人が何度も目をこすって私の顔を凝視するかの二択をされる。



自分で言うのもあれだけど、私は確かに他の子達よりも綺麗な顔をしていたから。


肩まで揃えたサラサラの黒髪に、青の目。

私の気に入っているパーツだ。



だけど、その日は少し違った。

私と同じ位の美貌を持った男の子達が四人いたのだ。

正直、驚いた。

だって私の自慢の目と同じ青系統の目を四人ともみんな持っていたし、独特のオーラをそれぞれ漂わせていたから。


あぁ、この子達も自分と同じ側の人間なんだと思った。



私たちがいたからザワザワはおさまらなかったんだとわかった。


それにしても、百合園麗華さんって言う人はどこにいらっしゃるのかしら。


ふふっ、でもきっと普通の方ですのね。

本当にすごい方でしたら私たちのように騒がれますもの。

所詮は噂。なーんだ。やっぱりね。



そんなふうに思っている時だった。



ピタッ。



言葉に表すならこんな感じ。

本当に急に誰も話さなくなって、入口の方を見ていた。


なに?


入口の方を見た私は、噂が事実であったことをまざまざと思い知った。



_____そこにいたのは、天使と見間違える程の美少女だった。

腰あたりまできりそろえられたサラサラの黒髪は"姫カット"と呼ばれる髪型で。

彼女の特別な雰囲気にピッタリだった。


「……きれい……。」


誰かの声がその場に響いた。

誰もその声に反対の意見なんてなかった。

だって、本当にその通りだったから。


彼女と同じ私の青の目が恥ずかしく感じるほど、海よりも青くて、空よりも深いその青の目は、宝石のようで。


彼女の美貌は言葉に表せば、損なわせてしまうように感じるほど。

だけど、だけどそれでも言葉に表すならば。

この世のものとは思えない。

浮世離れした、神が自分の姿を模して作った

のかと、そう思ってしまうような逸脱した美貌。



彼女は入学式で自分が座る席はどこかを近くにいた係の人に聞いた。


その声はまるで 、鈴が鳴ったかのように繊細で軽やかで。

目をつぶって聴き入ってしまうような声だった。



大袈裟でも、なんでもなく。本当に、言葉通りの人。


あぁ、彼女が、いえ、この方が百合園麗華様。

神童、天才、天使と呼ばれるにたる人物だ。





_______________________


入学式は無事に終わり、私はヴィ・ロージリアのサロンに向かった。


そこにいたのは、麗華様以外のメンバーだった。

彼らは、元々知り合いだったらしく仲良くお話ししていた。


「さっきの入学式にいたのが百合園麗華って奴か。」

「そうだね。多分彼女であってると思うよ。」


話題は、麗華様の事だった。


「彼女凄かったねー。その場がシーンとしてさ!」「俺たちと同じ青の目だったけどなにか違うかった。」


「……実は僕、母に彼女には気をつけなさいと言われていたんだ。」

「あ!それ僕も言われた!」



…………家によってそれぞれ言われていることが違うのね。

少なからず、入学前から麗華様が色々な家に知られていたことに変わりわないけれど。


「……百合園麗華には気をつけないとな。」

「……うん。僕もそう思うよ。彼女は何か僕達と違う。」


「「「「…………。」」」」


そんな、ピリッとした空気になった時だった。



ガチャ。

麗華様が入ってきた。


近くにいればいるほど、作り物のようなその顔は少し怖くて。

だけど、大人びているようなのにどこか子供っぽいちぐはぐの雰囲気が、私を彼女にもっと近づきたいと思わせて。

まるで、綺麗な炎に吸い寄せられる虫になった気分だった。


そして、今日は初めて会ったこともあってそれぞれで自己紹介をすることになった。


私は少し緊張しつつも、自分の名前と一言を話した。


そして、麗華様の番になった。


「わたくしは、百合園麗華と申します。

これからどうぞよろしくお願い致しますわ。」


そう言って、天使のような、お人形さんのような顔でにっこり微笑んだ。


これから私は、麗華様と仲良くなれるだろうか?

そもそも私なんかが、仲良くしていいのだろうか?

でも、でも、やっぱり仲良くなりたい。

お友達になりたい。


どうやったら、お友達になれるだろう?

私はその事で頭がいっぱいになりながらサロンをあとにした。






ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

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