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「貴様の悪事は全て見ていたんだ!」と断罪する王子と、全て見られていたと知って動揺する悪役令嬢と、そんな二人を見ている平民娘の話

掲載日:2021/02/22

「エヴリン・アシュクロフト公爵令嬢、君との婚約は破棄する! 新たな婚約者はここにいるアリス・アバーナシーだ!」




僕――イーサン王子は、卒業パーティの式場で大声で告げた。


突然のことに動揺する令息令嬢たち。

僕を見上げ、呆然と立ち尽くすエヴリン。

そして僕に肩を抱かれ、顔を俯けるアリス。


観客たちがざわざわと騒ぎ出し、僕とエヴリンを交互に見た。

名指しされたエヴリンは明らかに動揺した表情で僕を見ていた。


騒ぎが落ち着いてから、エヴリンが震える声で言った。


「と、突然どうして……!?」

「どうして、だと!? しらばっくれるな! 君があんなことをする女だったとは思いもよらなかったぞ、この悪女め!」

「あんなこと……!? 一体何のことです!? 私は別に何も……!」


エヴリンはあくまでシラを切るつもりらしい。

ならばこちらから仕掛けてやる。

僕はその意気を込めて言った。




「エヴリン! 君がこのアリスを階段から突き落とそうとしたのを僕は見ていたんだ!」




観客から悲鳴が上がった。

咎める視線の集中砲火を浴びて、エヴリンがきょろきょろと辺りを見回した。

アリスは僕の腕の中で不安そうに僕を見上げた。


「大丈夫だよアリス、僕がついてる」


そう囁いてから、僕は大声で断罪した。


「あれは一ヶ月前……僕が見ている目の前で、君とアリスが口論を始めた! その直後に悲鳴と物凄い音がして、次の瞬間にはアリスが階段の下に転落していた! 君が突き落としたんだろう! 僕は一部始終を見ていたんだ!」

「そ、それは冤罪です! 私は彼女を突き飛ばしたりは……!」


チッ、と僕は舌打ちした。

エヴリンはまだ言い訳をするつもりなのか。


「アリス嬢との口論は事実だとして、階段から落ちたのはそこのアリス嬢が脚を滑らせただけですわ! すっ、全ては偶然です!」

「偶然、だと……! どこまでしらばっくれる気だ、この悪女め!」

「まさか殿下、殿下は婚約者である私の言うことを信じてはくれないのですか……!?」


エヴリンは元々気の強い女だし、この程度のことで尻尾を出すはずがない。

僕は次のカードを切った。




「ふん、貴様の悪事の証拠はまだまだあるんだぞ、エヴリン! 君はアリスの教科書を捨てただろう!」




観客がざわついた。

まさか、とか、もしかして、という声とともに、断罪を見守る令息令嬢たちが戸惑ったようにエヴリンを見た。

エヴリンはこの断罪にも、明らかに動揺を見せた。


「あれは半年前だ! アリスが半泣きの声で教科書を探していた! 回復魔法学の教科書がないとな! その日の午後だ、君が回復魔法学の教科書をゴミ箱に捨てているところを僕は見ていたんだ!」


アリスが小さく震え始めた。

きっとあの時の辛い記憶を思い出して怖いのだろう。

僕はアリスの右手を握った。


「そ、それは……! ただ回復魔法学のテキストを捨てたのは事実です! でも、拾ったときはボロボロで、誰のものなのか私には……!」


エヴリンは必死に言い張った。

まだシラを切るつもりか。

ならば更にダメ押ししてやると、僕は続けた。




「さらにだ! エヴリン、君が取り巻きの令嬢たちを差し向けて彼女をイジメているところも見たんだ!」




非難めいた声が観客から上がった。


アリスの身体の震えが強くなる。

大丈夫、僕がついているよ。

そんな意志を込めて、僕はアリスの手を強く握った。


「君が取り巻きの令嬢たちに命じ、アリスが平民であることを理由にネチネチとイジメさせていた……僕はすべてを見ていたんだ! しかも一度や二度じゃない! これでもまだ言い逃れするつもりか!」

「そ、それは最近、アリス嬢が私の婚約者であるイーサン王子と親しげにしていることの真意を聞いていただけで……!」

「まだ言うか! ならば何故自分が直接話をしない! 彼女は怯えていただろう! 僕は見ていて胸が痛んだぞ!」


そう、ちょうどこんな風に……。

アリスは土気色の顔を涙目にして僕の顔を見上げた。

その目に浮かんでいるのは怯えとも、恐怖とも違う。

もっと複雑な感情だった。




「まだまだあるぞエヴリン! 君が彼女の靴を隠すところも、君が彼女の生まれを馬鹿にするところも! 君が足を引っ掛けて彼女を転ばせたところも見た!」




そう、僕は彼女の悪事を見ていたのだ。

そのほとんど全てを。

公爵令嬢という表の顔に隠された彼女の本性を――。




「彼女に対して公爵令嬢という立場をひけらかして威張り散らしてるところも! 彼女を黒魔術で呪っているところも! 学食に焼きそばパンを買いにパシらせてるところも! 靴に画鋲を入れるところも、僕は全部全部見ていたんだぞ!」




アリスは遂に泣き出してしまった。

悔しそうに下を向き、唇を噛んでポロポロと涙をこぼす。

それを見ているとずきりと胸が痛んだ。


僕はアリスの肩を抱いて、その顔を覗き込んだ。


「大丈夫だ、僕がついてる。辛かったねアリス。でも今日ですべて終わるよ」


僕は彼女に手を回し、安心させるように背中をさすった。


「よしよし、大丈夫。もう二度と君を危険な目には合わせない。彼女の罪は僕がきちんと断罪する、だって僕はその全てを――」




見ていたんだから。

そう言い、彼女の頬に触れようとした瞬間だった。




パシッ、と、鋭く僕の手が払いのけられ。

同時に、ギロリ、と、鬼の目が僕を睨みつけた。


え、何この表情?

アリスってこんな表情できるの?


僕がそう思った途端。

彼女が大きく足を踏ん張った。

アリスは上体を捻じり、思い切り後ろに右手を振りかぶった。


おっ、なんだろう。

彼女は何をしようとしているんだろう。

理解が追いつかない間に、彼女は容赦なく右手を振り抜き――。




瞬間、僕の世界が大爆発した。




グワッシャア! という衝撃が顔面に突き抜けた。

僕の左頬にメガヒットしたパンチによって平衡感覚が吹き飛び、僕の身体が呆気なくよろけた。

足がもつれ、僕はバルコニーの階段を踏み外し、みっともなく階段をゴロゴロと転げ落ちた。


しばらく、どこが上で、どこが下かわからなかった。

それと同時に、したたかにぶっ叩かれた鼻から、物凄い勢いで鼻血が流れ始めた。


えっ、何?

もしかして、アリスに殴られた?


ぐらぐらと揺れ続ける世界を目だけ動かして見ていると。

逆さまになった視界に、号泣しながら仁王立ちするアリスが写った。




「テメェ全部見てたんなら……止めろよボケェ――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」




周囲の人間がうわっと息を呑むほどの声量と表情で。

その大音声はその場に居た全員の耳をつんざいた。


アリスは子犬のような身体を怒らせ、のしのしと階段を降りてきた。

そしてその細腕からは想像できないような剛力で、僕の胸ぐらを掴んで引きずり起こした。


「何よ全部見てたって!? 私がエヴリン様にネチネチネチネチイジメられてるところを全部見てた!? ハァ!? なんなのよアンタ! 見てたならなんで止めてくれなかったのよ! 何を断罪とかドヤ顔してんのよ!!」


アリスが悲鳴のような声で言った。

僕はキョトンとした表情でアリスを見た。


「え……あ、いや、止める、って……?」


そのしどろもどろの一言が、ますますアリスの逆鱗に触れたようだった。

アリスは般若のように歪んだ顔を紅潮させ、今度はエヴリンをキッと睨みつけた。


「エヴリン様! アンタ、こんな腐れボンクラと何年婚約者やってるんですか!? 何が! 楽しくて! こんな! 甲斐性なしと!?」

「ひ、ひぃ……!」


凄まじい声で詰問され、エヴリンが涙目でたじろいだ。

アリスは僕をビシビシと指差しながらエヴリンを断罪した。


「こんないざという時にクソの役にも立たないヘッポコ丸、盗られても全ッ然惜しくないじゃないですか! アンタ絶望的にオトコ見る目ないわね! こんな男とちょっと仲良かったからって私は三年間もアンタからチクチク嫌がらせされてたの!? 私の三年間返しなさいよッ!」


気迫の一喝に、その場にいた誰も口が開けなかった。


胸ぐらを掴まれたまま、僕はもう一度アリスに睨みつけられた。


「とにかく! アンタみたいな甲斐性なしとの婚約なんて絶対に! 願い下げです! 誰がアンタみたいなドドドチンカス野郎と夫婦なんか! 甲斐性なしオトコと小姑イジメババア、お似合いの二人で仲良く夫婦やってろッ! このノータリンどもが!」


信じられないような罵声とともに胸をど突かれ、僕は床に背中を押し付けた。


アリスは腕で化粧ごと涙をごしごしと拭い、言いたいことを言ったというように深呼吸した。




「――さて皆様、こんなボケ二人は放っておいて、卒業パーティの続きをしましょう! 私は今やっと自由になれました! さぁ、こんなめでたい席をぶち壊しにした王子と公爵令嬢を、どなたか外にうっちゃってくださいな!」




アリスは、あっけらかんとした声でそう言った。


その言葉にしばらく目配せしていた令息令嬢たちが頷き合い、ちらほらと人が出てきた。

まだ動けないでいる僕の肩と足は令息たちによって持ち上げられ、そのままホールの外に運搬された僕は、ポイッと庭に捨てられた。


え? 捨てられたの?

僕、王子だよ?


あまりの扱いにキョトンとしている横に、令嬢たちによって、エヴリンも捨てられた。

捨てられた僕らが顔を見合わせているうちに、ホールのドアが閉められ、ガチャン、と鍵が掛けられる音が聞こえた。


しばらく、僕とエヴリンは正面から見つめ合った。


嗚呼、こうして見つめ合うのは何年ぶりだろう。

婚約して以来のことだから、多分十年ぶりぐらいだろう。


僕はそっと、地面に置かれたエヴリンの手に手を重ねた。

エヴリンも抵抗しなかった。


「お似合い、って言われちゃったね、僕ら――」

「えっ、ええ。確かに――お似合いかもしれませんわね」


なんだか魔法が解けたように、妙にドキドキした。

まるで初めて出会ったときのような、甘いときめきが僕たちの間にゆるゆると漂い、握り合った両手を介して伝わりあった。


僕はエヴリンの目を真っ直ぐに見た。




「エヴリン、君との婚約破棄は破棄させてくれ。なんだかやはり、僕のようなボンクラ甲斐性なしには――小姑のように陰湿な悪女しかいないらしい。似たもの同士、僕と生きていってくれるかい?」




その一言に、エヴリンが涙ぐみながら頷いた。




「はい、もちろん」




こうして、僕らはまた婚約者同士に戻った。

まだ肌寒い4月の夜、僕たちは互いを温め合うかのようにひしと抱き合った。








あ、ちなみに、このあと両親たちにめちゃくちゃ謹慎させられました。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

思ったより短い作品になってしまいました。


面白かった!

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どうかお願いです。こちらも読んでやってください。



『魔力がないなら風呂に入ればいいじゃない! ~魔力ゼロで追放された癒やしの聖女は、チートスキル【絶対温泉感覚:略して絶対温感】と天然かけ流し温泉で人々を癒やし倒します~ 』

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― 新着の感想 ―
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[良い点] ヒロイン自らダメ男に制裁を下す!それも鉄拳で! ここ最高 [気になる点] ダメ王子が陰湿だのなんだの悪役令嬢に説教してるけど、悪役令嬢断罪のための証拠をネチネチ集めて溜めていたやつは、単な…
[良い点] アリスちゃんがキレるのも仕方ない。 3年間ずっと虐められていて、それを見ているにも関わらず止めることを一切しなかったのに、最後の最後でドヤ顔で断罪なんて始めてられたら、止めろよってなります…
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