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夜中の3時に紅茶をどうぞ  作者: 坂本 尊花
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プロローグ「あの場所にて」

 少女を見つけたのは、朱月村から幾分か離れた場所だった。

 今こそ想い出せはするが、あの場所というのは、正直まったく記憶に残らなかった。ならばなぜ想い出せるのかというと、それは我が家のメイドと・・・・・・っと、その前にあの場所についての説明をする。


 あの場所とは、幾何学模様の岩々が連なる川辺で、木々が無く、森から乖離した空間であった。それ故に風通しも良く、空も地も互いに見えやすい。そして、もとより岩が黒いためかそこだけは人間がいうところの『夜』であると認識できた。岩場の説明はこれだけで終わりだ、しかし本筋はこの先。或る少女の御話へ。


 少女は一番高い岩の上にて、威風堂々たる姿で座っていた。

 ただ星を見つめ、溶けゆくように黒に沈む。それでいてすべてを包み抱くような優しい冷気を放っていて、だけど、だからこそ其の少女は孤独であるように見えた。


 ――——―我は常々、人間がいうところの『夜』というものを知りたいと思っている。


 それは銀食器の底、淡水魚の胃袋、幾何学模様の黒岩。

 ひたすら収集した夜の代用品たち。それは皆、我を楽しませ高揚させたが、真に夜と称すにはあまりにも欠けすぎていて、結局、我はいつまでたっても望みの夜を眺められずにいた。だが、見つけた。我は今、真の『夜』を眺めている。この少女の、瞳の中を。



 その瞳は、しかし黒くない。

 ただ天上の星々のみを映す、酷く虚ろで儚い硝子玉に過ぎぬ。

 だが、なぜだろうか?それが夜である気がしたのだ。



 頭の中が、冷えて、高揚感が吞み込まれ、収縮して、熱を失って、冷めて、心が冷える。そして、全身が動かなくなるのを感じる。眼球の奥が蠢くのを感じる。我という存在すべてが呑まれる。全身に無が触れている。そして、これは、我が生涯で最も美しい感覚である。

 次の瞬間、我は少女のもとに堕ちた。この気持ちと決定事項は、どうしたって消すことができない。


 堕ちた風圧で、我の銀髪が星々を隠すかのように大きく広がった。それと同時に、少女の拘束が解かれる。


 「good night、お嬢さん。今からあなたは私のメイドです」


 逃亡防止の黒い霧を晴らした後、見えた少女の瞳にはどうしてか、


 見えないはずの星々が、最上の輝きで煌めいておった。

 そして―――——


 「もちろん、です。私のあるじ」


 即答に、我が呆けたのだけは鮮明に覚えている。



プロローグ、ここで終わる定めではないと。

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