表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜中の3時に紅茶をどうぞ  作者: 坂本 尊花
3/7

プロローグ「其の噂にて」

 昔々のお話です。

 ある山にとても恐ろしい吸血鬼が住んでおりました。

 吸血鬼は気まぐれに、麓の村々に降りては家畜を攫い、まれに人を襲うこともありました。

 そして、襲われるのは決まって美しい少女でした。

 村の人々は考えます。


 「美しく清らかな娘を襲うのだから、きっと冷酷無慈悲であれど気品に満ちた貴族のようなモノに違いない」


 「いんやあ、違う。山神様が御乱心なさっていたずらしておるのじゃ。ほれ、その証拠に娘たちは誰も死んでおらん」


 「もしかしたら吸血鬼じゃなぁかもしれませんぜ。動物だったり人の仕業だったり・・・・・・もしくは流行病なんてこともありゃせんか?」


 村人たちは考えました、しかし吸血鬼という存在はやはり噂でしかありません。

 何故なら彼らは一人も吸血鬼の正体を見ていないのですから。

 言うに、娘らが不安で騒ぐから席を設けただけなのです。

 村長の家に集まり、吸血鬼を探るのはただの口実でありました。彼らの実際は酒を呑むだけの烏合の衆でありました。

 そうして、噂ばかりで終わった哀れな吸血鬼はというと、しかし存在していないのではなく山奥の洋館に居りまして、今日も今日とて何もせずに、ただからの食器を並べて暮らしておりました。

 誰からも恐れられる吸血鬼は、しかし誰にも姿を見せない故孤独だったのです。

 噂ばかり。

 されど噂は人々の理想、憧憬。

 吸血鬼はそれを壊してはならんと、必死だったのです。

 枯葉と腐葉土で汚れたベランダから差し込む日に、反射を許さぬ銀の髪が()()()ーーーーーーーその少女は、溜息まじりに笑いました。

 『世間騒がせな吸血鬼が、こんなちんちくりんとは皮肉じゃのぉ』


 それは、冷酷無慈悲でも神仏でも流行病でもなく。


 少し優しい異形の少女でした。



プロローグ、は終わらない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ