ぶっこめ! おにぎりくん!
第113話 『強敵! ブレックファスト三人衆!の巻』
「ぐはぁ!」
「おにぎりくーん!」
おにぎりは敗れた。
無情な衝撃に回転させられた体の頂点が崩れ、光沢をまとっていた純白のボディも土色に染まる。
三辺を均等に描く三角形から伸びた手足は震え、力の入りようがないことを物語っていた。
「く……くそぉ……。俺が、こんな奴らなんかに……!」
「おーっほっほっほ! 残念ねぇおにぎり!」
男前な眉根を潜めながら、おにぎりが見つめる先。
風が運ぶ土煙の薄くなった瞬間、三つの影がその姿を現した。
「銀白の米男児もここで終わりよ! 新たな時代は、私達ブレックファスト三人衆が導くわ!」
中央。パスティーヌ・ぺペロンチーナ女史。
右。パンタゴニア・フルハウス三世。
左。フレイ=ク=コーン・ザ・エブリディ。
余裕しゃくしゃくの憎たらしい微笑み。SM女王の如く、アルデンテウィップを手の中でちらつかせるパスティーヌが中央から進み出ると、再び高笑いを始めた。
「ほーっほっほっほ! 東洋の島国ニッホも、いつまでも米なんかに頼るんじゃないわよ!」
「そだそだ! 米がないならパンを食えばいいじゃねぇ! えぇ? おい!」
「俺たちはすぐ食べられるぞー。甘いし、美味しいし。栄養価も高いぞよ~」
「くっ……! おにぎりくーん!」
広大な大海原にポツンと浮かぶ島国ニッホ。長年外敵から身を守り続けた鎖国も、おにぎりの敗北によって遂に破られようとしていた。
塩分丸の悲痛な叫びが響く。その木霊が、かえって周囲に勝負の先行きを思い知らせた。
「おにぎりくん! もうだめだ! おしまいだよぉ!」
「ばかいえ、塩分丸……。もっと塩を寄こせ! 体の塩分濃度を上げて、あいつらに一撃をお見舞いしてやる!」
「だめだよ! もういつもの二倍塩を振ってるんだよ!? これ以上振ったら、おにぎりくんの身体が持たないよ!」
塩分丸が必死でおにぎりの身体を支える。おにぎりはなんとか立ち上がったが、一歩踏み出すことさえもできない。
「やるんだ! 塩分濃度三割を突破すれば、この身に変えてもあいつらを叩きのめせる!」
「ダメだ! ダメダメ! そんなことをしたら、本当におにぎりくんは!」
「話し合いは終わったかしら」
かつ、と、断絶を謳うパスティーヌのヒール。
彼らが残した後には、おにぎりが使用したフル・サーモン・アーマー、ウメボシバズーカ、ライオットコンブサーベルの残骸。そして、仲間のうどんとそば。ピクリとも動かず、もはや助けは望めなかった。
「終わりよ。今まで精米ごくろうさま。トラクターを総動員して、ニッホは麦大国に生まれ変わるのよ」
「く……くそぉぉぉぉ!」
「塩分丸―!」
塩分丸が特攻した。しかし、フレイ=ク=コーン・ザ・エブリディの斬撃が一閃に伏せる。どしゃあ、と鳴った次の瞬間、塩分丸は力尽きた。
「塩分丸ぅぅぅ!!!」
「残念ですねぇ。しかし、こいつは金の代わりになりそうです」
「ぐあっはっはっは! そーりゃいい! 農作を気張った奴らにゃ、こいつの塩で対価さはらっちゃ!」
がっはっは! という、豪快な笑い声。
満足げに一瞥したパスティーヌは、倒れた塩分丸を踏みつけまたぐと、おにぎりに向かい鼻を鳴らした。
「終わりよ! 頭を垂れて、消えなさい俵族!」
ウィップがしなる。瀕死の重傷を負わせたIHヒート鞭の撃鉄。
しかし、それは空振りに終わった。
「なにごと!?」
消えた空間を見て、パスティーヌが驚愕する。そして視線をめぐらすと、離れた位置におにぎりはいた。
いや、おにぎりだけではない。角を丸く収めた、おおらかな立方体がそこには存在した。
「おい。大丈夫かおにぎり?」
「……遅いんだよ。飯盒!」
「なんだなんだぁ? 新手のやられ役かぁ?」
「往生際の悪い飯……。美ではありません!」
散々な言い草をかます洋食コンビ。しかし、呆れた彼らが一歩踏み出した瞬間、無言のうちに膝が崩れた。
「ぐはぁ……!」
「うぉぉ……」
「ま、またしてもなにごと!?」
パスティーヌがうろたえる。その視線が一個の背中を認めた時。
ニッホ戦士が、燃える闘気と共に焼けた拳を突き出した!
「その姿、まさか……!」
伝説の、焼きおにぎり。そう呟こうとしたところで、パスティーヌは意識を失った。
「うぉぉぉぉ! おにぎりくーん!」
塩分丸が走り寄る。おこげブーストにより敵を一掃したおにぎりは、服部飯盒に肩を貸されながらも塩分丸へ笑いかけた。
「へへっ。心配かけたな塩分丸」
「心配したよぉ―! よかったおにぎりくん! ありがとう飯盒!」
「ふん。礼には及ばぬ。某の烈火焦茶陣に耐えたおにぎりを褒めることだな」
「まったく、無茶苦茶な火力だぜ……あいてて」
「おにぎりくん!」
右の頂点を抑えたおにぎりは、それでも豪胆に、ニッと微笑む。
三人が迎えた赤い夕日は、いつにもまして、美しかった。
「腹持ちだったら、お米一本!」