表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

鳥の巣頭の男

オレの母親は、結婚と離婚を何度も繰り返した。異常なほどだ。


だが、その本当の理由を、あの時のオレは知らなかった。




その日、オレは港の防波堤にいた。


地平線へと長く伸びる防波堤。その外海側には消波ブロックが無数に並んでいる。


オレはそのブロックの上に寝ころび、曇り空を眺めていた。

ここなら周りから見られる心配はない。


曇天だが風は生暖かく、波は多少のうねりをもって防波堤に打ち付けた。

オレは打ち付ける波の音を聴きながら、時間の経つのを待っている。

今日も学校には行かず、静かに大人になる時を待っていた。


ふいに潮の香りに乗って、大きな声が聞こえてきた。

「えっ?男の子?そんな都合よくいくわけないでしょう」


オレは起き上がって防波堤を見た。そこには一人の男の後ろ姿が見えた。

男の前には三脚があり、釣竿が2本立っている。釣り人のようだ。携帯電話で話している。


「急に言われても、・・・はい。・・・はい。」

頭はぐちゃぐちゃの鳥の巣のようで、黒い襟付きシャツとジーパンを履いていた。

休日に仕事の電話でも入ったのだろう。哀れな奴だ。見てらんない。オレはまた寝ころび、空を眺めた。


「100万?100万円ですか?」

男のすっとんきょうな声に、オレは思わず身を起こした。

100万円なんて見たこともない大金だ。100万円の仕事なのか。


「はあ~、中学生くらいの男の子ねえ~」

鳥の巣男は携帯電話で話しながら、何かを探すように、ゆっくりとこちらに向いた。

男の細いタレ目が、防波堤を覗き込むオレの目と合った。

「あっ」

細いタレ目が大きく開いた。

「あっ、いました。また後でかけます」

鳥の巣タレ目男は携帯電話を胸ポケットにねじ込むと、ニヤニヤしながらオレに近づいてきた。


「君、バイトしない?」

これがオレと奴との出会いだった。


ジャカジャ~ン♪ ジャカジャ~ン♪ ジャカジャ~ン♪


挿絵(By みてみん)



ジャジャ~ン♫ ジャララララ~ン♫ ジャカジャ♫


「君、バイトしない?」


どうせマトモなバイトじゃない事くらい、さっきの会話から見当がついている。


「5万、いや、10万出すよ」

男はニヤニヤしながら、オレに近づいてきた。


オレはブロックの上に立ち、鳥の巣男を見下ろした。

「50万だ!50万出すなら考える」

男は顔を引きつらせ、携帯電話の入った胸ポケットを手で押さえた。

「聞いていたのか」

オレは男の目の前に飛び降り、「他を当たりな」と手を振りながら通り過ぎた。

これ以上この男と関わっていても良い事はなさそうだ。


「いいから話を聞いてくれ!」

男が後ろからオレを羽交い絞めにした。

「誰か!助けて下さい!さらわれます!」

オレはでかい声で叫んだ。


防波堤には他に数人の釣り人がいて、一斉にこちらを見た。

「あわわわわ~」

鳥の巣男はあわててオレを突き放した。

「嘘ですよ~。違いますよ~。ホントに違いますからね~」

オレはその隙に全力で逃げた。背後からオレを呼ぶ、哀れな声が聞こえた。



どこで時間を潰そうか。オレは当てもなく街を歩いた。

あまり人目につかない裏通りばかりを、なるべくゆっくりと歩く。


先ほどの男を思い出した。

防波堤の男はどんな仕事をしているのだろう。どんな目的でオレを狙ったのだろう。

きっとヤバイ仕事だ。オレは売り飛ばされるに違いない。一生奴隷か?殺されて内臓を売られるのか?

こんな退屈な毎日とどちらがいいだろう。


街の中をジグザグ進む。しかし、時間はなかなかつぶれない。

オレはどこか休む場所がないか探していた。


目の前の床屋は入口の横で回転ポールがカラカラと回り、窓の中では店主がテレビを見ながらタバコを吸っていた。

その隣の建物は、ガラス戸が開いていて、建物の中の観葉植物は表にまで並べられていた。ガラス戸には「港文房具」と書かれていたが、とうに商売は止めたようだ。


この裏通りは人通りがなく、まるで時が止まっているようだった。

オレはひたすら時間を潰し、大人になるのを夢見ているのに、この裏通りのようにずっと同じ毎日を過ごしている。


角を曲がると坂道だった。

この街は急な坂道が多く、どの坂道を降りても港に着いた。

オレは坂道から眼下の海を眺めた。

いつの間にかこんなところまで登っていたのか。


その時、オレの背後から声が聞こえた。

振り返ると見覚えのある男たちがいた。

少年課の警察官が二人だ。

背広を着ていて、一見普通のサラリーマンだが、体つきと目つきが違う。

オレは反射的に坂道を全力で下った。捕まると面倒なのは経験済みだ。


道路を叩く靴の音が、後ろからどんどん近づいてくる。

もうダメかと思った時、先の十字路にジープ型の軽自動車が、右手から現れた。

助手席のドアが開き、

「早く乗れ!」


あの鳥の巣男だ。


一瞬迷う。


「いいから早く乗れって!」


オレは車に飛び乗った。

ドアを閉めるが早いか、車はタイヤをきしませ坂を下った。

まさにギリギリのタイミングで、警察官を振り切った。


オレは運転席の男を見た。

これって助かったのか?それとも・・・


<第1話 完>



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ