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伝説の魔狼と火炎の子猫 連載版  作者: コインチョコ
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六話 光の王国、王都陥落


光の王国王都。

光の城塞にて王は家臣に問う。


「ダルカスはどうなっておるのだ?」


「彼ならば問題ないでしょう。 あの男はこの時代には勿体無いほどの傑物ですから」


単独で調査に赴いた彼は、どんな戦場からでも生還する男だ。

王とは幼なじみで、古くから親交も信頼も深い。

だからこそ危険地帯だと分かっていてなお、彼を一人で行かせたのだ。


息を切らせた部下が、顔を青くしていても大したことないだろうと髙を括っていた。


「たった今、ダルカス様に取りつけられていた生命探知魔法の発信が途絶えました!!」


「な、なんだと!?」


「ダルカスが死んだのか!? ならば白狼復活の噂は…………!」


王が白狼の復活を口にする瞬間、城の天井が崩れ去る。


千年間受け継がれてきた年代物のシャンデリアも、数千年も王族とそこで働く人々を護ってきた城の壁が儚くも霧散して消えたのだ。


そこに張られていた魔から世を守る結界も、何一つ機能していない。


「なんだ!? なにが起こった!」


『俺だ。俺たちだ。 服を着たムシケラどもめ』


破壊された天井から水蒸気の煙が侵入し、その水気が狼の形となり受肉する。


白狼が王国内に顕現したのだ。それも、敵陣である城内の王の間のど真ん中に。

王の背にする壁画には王国に張られていた女神の結界が人々を守り、近づく魔物を消し飛ばす古代の様子が描かれているがこの魔狼にはなにも通用していなかった。

当然だ。この狼はその女神を食った伝説の怪物なのだから。


「殺せ!! 今すぐに殺せ! どうした衛兵? なぜ動かんのだ!」


無言のまま立ち尽くす兵士たちに怒鳴る王だが、彼らの様子に違和感を持つ。

恐怖で震えているのならともかく、なぜ誰も身動ぎひとつもしないのか。

答えは簡単だ。


「当たり前じゃないですか。 みんなフレイムが殺したんですよ!」


彼らの背中、それはフレイムによって中身(内臓)を抉り取られた者、脊髄を頭蓋や骨盤ごと引きずり出されて即死しているまま超常の力で直立させられている者、身体の後ろ半分だけを焼かれて綺麗に灰になっている者。


殺され方は人それぞれ違うが、全員が無惨な最後を遂げていることだけは共通していた。

唯一難を逃れたのは、フレイムの不意討ちを防げた若い魔法使いの女だけだった。しかし魔力を使い果たしたその女は、自分の可愛い使い魔にすがるしかなかった。


「どうしたのですかケルンちゃん? 伏せなんてしないで戦ってください! 速く立って! でないと王が殺されます!」


今や彼女が従えている狼の魔物も、主人を無視して白狼に頭を垂れている。

彼ら狼種にとってフェンリルは絶対の神。

そして、そのフェンリルの王である白狼は唯一にして絶対の神王。


白狼を見た狼魔物たちは本能で白狼に魂の服従をしてしまうのだ。

今や彼女の使い魔は、白狼の命令であれば死ぬことすら厭わなくなる勇敢なる兵士狂信者なのだ。


「ウルサイ。 オレハ! ハクロサマにツカエル! にんげんはキライだ!!」


元から人間を憎んでいた彼にとってはもはや従う理由がないのもある。愛してくれた人間への情で惰性で従うのも最早これまで。


これからは神に遣える天使となるのだから。


ゴタゴタと命乞いのセリフを並べる国王と、その脇に控える老神官。

神どうとか、女神様がどうとかと騒いでいるのが鬱陶しいので神官を頭から食い千切って殺した。

生首は不味かったからその辺に置いてある翼と光輪のある女人像に吐き出して捨てた。


小便まで漏らして「この国の半分をやる」とか言い出している国王を絢爛豪奢なイスごとぷちっと踏み潰して肉球にこびりついた肉片や汚物は表面が経年劣化でざらざらとしていた壁画に擦って汚れを落とす。


「その女、殺しますか?」


フレイムの言葉に白狼の視線が魔法使いに向く。


「ひっ……」


壊れた王の間と死体の山と血の海にあってもなお、狼は一切汚れずに雪のように純白の銀毛を維持していた。


満月の光が照らす下、巨大な狼の青い瞳は幻想的に美しく輝いているが魔法使いには悪魔の瞳に見えた。


一歩、また一歩と山のような巨体が動くと無意識に身体が震えて後退りしていく。

白狼の牙が届くか届かないか。人一人丸飲みにできる口が開いた。むせ変えるほどの血の匂いに吐き気を催す。


その距離にまで死が近づくと、魔法使いは口を開いた。


なにか、なにか言わないと死ぬ。なんでもいいから言葉を話せ、と。


「お、お待ち下さい、白狼さま………」


「なんだ? 人の娘よ」


「わたくしは宮廷魔法使いでございます、白狼さまの、なにかのお役に立てると思われます。 どうかこの些細な命、お助けください」


深々と土下座してくる女に、白狼は「ふっ」と鼻を鳴らすとフレイムに命じる。


『フレイムよ、この女を白狼軍傘下に入れる』


「ハクローさま!?!?」


嘘でしょ!と言いたげなフレイムだが、白狼には逆らえない。


「了解です。部下のレンチューにもこいつを食べないように命令しておきます」


「うむ、上々なり」


白狼は満足な様子で城内を後にした。城は破壊した。王も兵も皆死んだ。


だが城下にはまだ無傷の街が残っている。無垢なる民草が住んでいる。


街を奪う。街を奪え。街を奪い、人を滅ぼせ。


人類を排せよ。人を殲滅しなければならない。だが全ては殺すな。

恐怖を伝播しろ。伝説を謳え。闇を恐れて、魔を憎め。


この白狼こそ魔王だと世界に知らしめろ。


新たなる人と魔の戦いはまだ始まったばかりなのだ。






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