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伝説の魔狼と火炎の子猫 連載版  作者: コインチョコ
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五話 戦士の殉職


白狼がダルカスとの戦闘に突入した。

フレイムは白狼の邪魔にならぬよう、魔物たちを撤退させた。

彼女は背の高い魔物の頭の上に乗り、遠くから狼と老兵の戦いを見守っている。


「どうですか、姉さん。 魔王様は勝てますか?」


「うむ! ハクロー様が負けるはずないだろ! どっしりと構えてなさい!」


重臣の断言に不安そうにしていた魔物軍は興奮の絶頂に達していた。


「「「「白狼万歳! フレイム様万歳!」」」」


「うむ! もっと讃えろ。 ハクロー様をもっと讃えろ!」


なんというか、バカ騒ぎだった。







「なるほど、先の狼などとは比にならんな」


白狼はずば抜けたスピードとパワーで町のレンガの家や倉庫、店舗など体当たりでぶち抜きながら風より速く走り回り、ダルカスに居場所を掴ませないよう立ち回っている。


魔力を探知しても、移動が速すぎて魔力反応は一本の線になっているようにしか感じないだろう。


ダルカスは歳で身体は思うように動かない。スタミナだってそんじょそこらの若いもんには負けんが、全盛期の半分もない。


無駄に動いて疲れるよりも視界の良い広場まで移動して、白狼の攻撃を待った。


「おかしい、なぜ雑多どもが仕掛けてこんのだ?」


白狼は狼らしい速さで敵を翻弄する戦術が得意なのは、伝説にも記されていることだ。


だから他の魔物を囮や盾に使い、有利な状況作りをするかと思いきや、魔物たちは仕掛けてこない。町の外れに陣取り、そこから置物のように動かない。

奴らはただ暴れているのではない。

カリスマに統率された指揮の元、動いているようだ。


そしてそのカリスマはこの白い狼に違いないのだ。


「ハクロー様の戦いを汚すものはこのフレイムが許さないと思え!」


白狼の臣下と思わしき、小さな子猫が白狼の邪魔をするなと叫び、余計な手を出そうとする魔物たちを焼いていた。


「肉だ! 焼き肉だ!」


「ウメエ!」


その魔物を他の魔物が喰っていた。

仲間意識はあれど、魔物はより強い魔物の手にかかって死ねば本望だし、死ねば肉親でもただの餌だ。

死んだ奴は他の魔物の力の糧でしかない。


魔物は言葉を解する知性があるだけの、修羅の世界に生きる野生の猛獣だ。


「鬼畜どもが…………!」


人間だけではなく、同じ魔物まで貪る彼らに嫌悪感を催さずにはいられない。


「隙だらけだぞ」


ダルカスの背後から、白狼が襲いかかる。


「読んでおるわ!」


白狼の牙とダルカスの刃が激突し、スパークする。

キィィィンと周波数の高い不快な金属音が耳をつんざく。


「死ね!」


「貴様がな!」


ダルカスの水魔法が白狼の眉間を貫こうとするが、身を捩って回避する。

像よりも巨大な身体からは信じがたいほどの反射神経だった。


「これが白狼………。 伝説の魔狼か」


このほんの些細な打ち合いで、ダルカスは白狼の力の強大さを思いしった。


白狼も、老いてなおこれほどまで強い兵士は見たことがない。


彼があと二十年若ければ、人狼(ウェアウルフ)にして側近にすることさえ考えたほどだ。


(たらればの事を考えても仕方ないな)


思考を切り替えて、もう一度ダルカスの隙を窺う。


今度は四方八方から火属性魔法の熱光線を乱射しながら壁をぶち破り、天井を突き抜け、屋根を踏み壊して町を飛び回る。

並みの魔物では速すぎて残像すら見えない速さだ。


彼らに劣る身体能力しか持たないダルカスは、白狼が動きが見えていた………正確には、感じることができた。


長年の戦いと訓練で培ったダルカスの勘は、もはや予知能力と言っていいほどに研ぎ澄まされている。


未来予知が、白狼の接近を捉える。視線をやらずにハルバードを振るう。

敵に視線を向けないことで眼の動きから攻撃を読ませず、不意を突いたつもりになっている相手に、逆に不意打ちを食らわせる技だ。

優れた狙撃手はノールックで目標を撃ち抜くこともできる。それと同じ技術だ。


「ほう、なかなかの豪の者だ」


だが白狼には通じなかった。


分厚く頑丈な毛皮に阻まれて血液一滴流していない。

それどころか、虫に刺されたほどの痛みすら感じていない。

白狼は心底蔑むような、哀れむような表情をしてる。


人間という種そのものを見下していた。


「これなら餌に毒を混ぜる方がまだ有効だな」


「なめるな!」


衰えぬ闘志を抱いて、ダルカスは吠える。

人間の意地をみせるべく魔力を練り上げると、青白いオーラがダルカスを包み込む。

身体強化の魔法だ。


「儂の力を甘く見るなよ、犬畜生めが」


「ならば〝貴公〟の本気を見せてみろ」


白狼のダルカスへの呼び名が貴様から貴公へと変わった。


それは、白狼の敬意の証明であり、必ず殺すぞというサイン。


身体強化の魔法は、強化率が高ければ高いほどに使用者に負担がかかる。

ダルカスは歳で衰えていることを差し引いてもなお、まごうことなき強者の戦いぶりだった。


「貴様だけはここで殺す。 貴様は存在してはならぬ生物じゃ」


「気があうな。 俺も貴公にそう感じている」


互いに生かして置けば、今後脅威となるだろう相手を生きて帰すつもりはない。


白狼は己が魔物族のため。ダルカスは人類のため。


白狼の肉体から蒼白い炎が上がり、ダルカスの全身の血流が高まり血に魔力が滾る。


魔力を湯水のごとく使い、己の肉体を限界まで強化しているのだ。


これが終わったら動けなくなるだろう。

ダルカスは勝ったとしても、自力では立つことさえできなくなる。

白狼以外の他の魔物に食われるだけだ。


だが、それでいいのだ。 この老いぼれは棺に片足突っ込んでいる。

子供や孫が味わった苦痛を共有し、共に天へ逝けるなら満足だ。


それぞれ種族の種族のために、全生命を投げ出した特攻だった。


そして、その肉弾戦を制したのは……………。


「戦士よ、貴公はよく戦った」


白狼だった。


ダルカスは地に伏せ、吐きだした血で白い髭まで赤く染まっていた。


肺を片方やられたらしく、もはや回復魔法でも助からない致命傷、完全に虫の息だ。


「はく……ろう。 とどめを………さすが、いい」


ダルカスが喋るとヒューヒューと空気が喉から漏れる音がする。

口を利くのも辛いはずだ。


「うむ、貴公の名と顔は死するときまで覚えておこう、ダルカスよ」


「礼を………………いう」


白狼の前足がダルカスの頭を潰した。


遺体にかじりつき、ダルカスの魔力を奪う。


「グルオオオアオオオオオオオ!!!」


高揚感と勝利の喜びに勝どきを挙げる。


五千年間、魔物たちは負け犬として家族間で助け合い、ほそぼそと生き延び、獲物として狩られ続ける屈辱の日々を送ってきたのだ。


五千年間ぶりの勝利に、魔物は百鬼夜行も逃げ出すほどのおどろおどろしい歓喜に一晩中叫び続けていた。





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