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伝説の魔狼と火炎の子猫 連載版  作者: コインチョコ
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四話 砦陥落


フレイムがロック砦の中の兵士を皆殺しにしていた。


魔物の侵入を防ぐための、侵入されないことを前提に設計された石壁の壁も、鉄の防護扉も、魔法の結界も、魔物に侵入されればなんの役にも立たない。

ただ喰われ、殺される人間を閉じこめるためのただの牢獄と化す。


砦内は現在、地獄の釜が開いた食人地獄と成り果てていた。


「喰え! 喰い尽くせ! いままでの分も食べろ!」


「人間ども、皆殺しだ!」


「おまえらの狩りで殺された兄弟の仇だ!」


「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」


これまで、人間に好き放題食い物にされてきた憎悪と、人喰いの食欲を解放した魔物たちが混乱に乗じて雪崩れこみ、フレイムの指揮下に加わっていた。


命乞いする者、逃げる者、抗う者、降伏する者、狂う者、全ての人間を平等に喰い漁り、平らげた。


ここは魔物の朝食のテーブルだ。

人間は皿に並べられたご馳走だ。


ここは地上の地獄。

血の匂いと悲鳴と悦楽に包まれたパーティー会場なのだ。


「喰え!喰え!喰え!喰え!喰え!喰え!喰え!」


魔の物たちの狂気と狂喜の宴は続いた。






「フレイムめ、なかなかやりおるわ」


白狼は乱恥気(らんちき)騒ぎには加わらず、遠くから様子を見るだけに止めていた。


白狼とて人間は大好物だが、理性を捨ててあんなばか騒ぎをすることは好ましくないと思っている。

あくまでも、己は理性ある魔物の戦士なのだから。


フレイムも指揮下にある下級魔物たちにあれこれと細かい指示は出していなかった。


力も知能も低い連中なのだ。どうせ、細かな命令など聞けまい。

だが、力仕事は見事だ。


人間の兵士を優先的に狙い、人質に取った家族を盾にすることで常に優位に戦いを進めている。魔物同士の同志打ちもない。


あまり手際は良くないのが、白狼としてはマイナス評価だが。


人質の扱いを間違えて殺してしまうこともある。

錯乱した人質から魔法で反撃されて返り討ちにされる魔物もいるし、子供を相手に大人の人質を取る者もいる。

最後のやつは人質を取る意味を理解しているのだろうか?


フレイムも空回りした魔物たちの行動にはキチンと気がついているようだが、大軍を率いた経験も無ければ、この作戦自体が出たとこ勝負の側面が強かった。


魔物たちの増援は想定外の幸運というやつだったが、フレイムには軍隊を指揮するリーダーシップが限りなく欠けていたのがよく分かる。


今回はたまたまサイコロを振って、運良く有利な面が出ただけに過ぎない。

毎回こんな作戦でいくのは自殺行為だが、時には賭けに出る必要もあるだろう。


「うむ、及第点としよう」


この襲撃に加わった魔物全てを、新たな配下として魔王軍を再編する。

そうすれば力をつけた王国とも戦えるだろう。


白狼は大地を蹴り砕き、大きく跳躍する。


着地する地点はもちろん、砦内部だ。


フレイムが内部から防御システムを焼き払ったおかげで、他の魔物たちと同様にすんなりと侵入することができた。


内部では魔物たちが壁際から隙間無く人間たちを追い立て、町の中心に向けて多くの人間が追い立てられていた。

これは、狼に喰われるのを待つ羊そのものだ。

抵抗する兵士は真っ先に殺されて、魔物たちの餌となっていた。


魔力を含んだ鮮血に身体を染めた一部の魔物は、魔力の過剰吸収でさらなる進化を遂げようとしている。


「力が、湧いてくる! ようやく進化できるぜ!」


大きなトカゲの魔物は、翼と強固な鱗を手に入れ、ドラゴンとなる。


「うおぉぉぉぉ!!」


空に吠える山犬は、犬頭人身の肉体へ変異する。


「にゃあぁあ!」


猫の魔物が猫耳の少女の姿へ変貌する。


次々と魔物たちがさ強く、逞しく、強大となる。


もはや進化の波は誰にも止められない。


「生き残った人間は何人いる?」


白狼がフレイムに問う。

魔物たちが一斉に白狼へと(こうべ)を垂らした。

強い者に従う魔物の本能が、白狼を自らの王だと彼らに認識させたのだ。


「ざっと三百人です! こちらの魔物は四百匹前後です。 なかなか戦力が集まりましたね!」


「うむ、初陣としては上出来な頭数が揃ったものだ」


フレイム一匹にさえ手こずっていた連中だ。

数でも力でも劣るあやつらに勝ち目などない



「残りの人間ども、どうなされますか? わたしが焼きましょうか?」


生き残っている人間は女子供、老人ばかりだ。

白狼が一声かければ、たちまち骨までごちそうさまされてしまうだろうか弱い者たち。


子供たちを庇いながらも怯え、震えている彼らに白狼は同情などしない。

強き者が残り、弱き者はより大きな者の力の一部となる。


それが魔物の掟なのだから。


「まだ連中は役に立つ。 働いてもらおう」






ダルカスは相棒の馬を走らせ、仙狼郷(ウルフ・パックス)へと急いでいた。


昼夜を問わずに走り続け、ひたすら急いだ。


若くしてベテランとなっていた凄腕の冒険者パーティーが仙狼郷付近のダンジョンから帰ってこなくなったという知らせも聞き、ますます危機感を募らせていた。


彼ら〝シルバーエレメント冒険団〟は以前会ったことがある。

若い実力者らしく傲慢で粗暴な連中だったが、仙狼郷から最も近いロック砦付近では一番の手練れだった。


ロック砦付近の魔物で、彼らを倒せる者はいない。


定期的に行われている一斉魔物狩りでも、彼らより高い成果を挙げたものはここ数年はいなかった。

彼らが本当に死んだのであれば白狼が復活したか、あるいはそれと同等の力を持つ魔物が出現したことに他ならない。


「待っていろ、すぐに助けるからな!」


ダルカスの息子夫婦と孫も、砦で暮らしている。

砦の壁を守る守衛として働いている孫は特に危険な立場にいる。

それがダルカスをことさら不安にさせた。


「まだ大人しくしてるんじゃぞ………魔物ども!!」


荒野を抜ければ、砦を一瞥できる場所に着くのだ。

一心不乱に馬を走らせ、道行く魔物を通りすぎに切り伏せていき、出発から七日目の昼前にようやく砦にたどり着けた。


二十年ぶりに訪れた砦の光景は、地獄だった。


魔物から国境を守る戦いの最前線とは思えないほど栄えていた、かつての平和な砦の光景は記憶の底に遠退き、幻のように感じた。


「お母さん! お母さん! 死なないで!」


「俺の息子をよくも殺したな!」


「助けて! 食べないで!」


「きゃああああああ」


命乞い、怨嗟、絶叫、悲鳴。


人間が怪物に喰われ、口を血で汚した獣が理性を捨て去った赤い目を輝かせて、お預けを食らっていたご馳走を残さず食べる食人地獄。


何百年とかけて建てられた建築物はくまなく燃やされ、消火も復興もままならいだろう。

だがその心配はない。

今日この時から、ここは魔物に奪われた領域となるのだから。


「貴様ら……貴様らァァァアアア!!」


幼い子供を喰おうとしていたミノタウロスを腕力に任せて叩っ切る。

鉄のごとき硬度と密度を誇る牛の怪物の筋肉の鎧も、この老兵の前には紙切れ同然だ。


「ウボアアアアアア!」


丸太のように太い腕が宙を舞い、黒毛の牛は切られた腕を抑えて悲鳴を挙げる。


ミノタウロスを自分たちの下がらせて、魔物たちの赤い目は怒りに血走る。

殺気立った気持ちに任せて全身に肉体強化の魔法をかける。


魔物は理性こそ弱いが、仲間意識は強い。


同族を傷つけられた彼らの怒りは家族を殺された人間のように、強く、熱く、煮えたぎっていた。


「このくたばり損ないを殺せ!」


「シネ」


「喰ってやるぞ!」


立て続けに三匹の狼魔物の兄弟がダルカスに向けて飛びかかる。


スピードと小回りで敵を持て遊び、隙を見て牙で敵の頸動脈を肉ごと喰いちぎるつもりだ。


兄弟の絆から繰り出されるチームワークは、常に格上の魔物や冒険者を殺して血肉へと変えてきた。


「シネ!!」


「貴様がな」


後ろから足首の筋を切ろうとした三男が頭から尻まで半分に卸された。


「兄貴、サブローが殺られちまった」


「落ち着けジロ! 同時にやるぞ」


次男が冷静さを失いかけるが、長男が冷静に指示を出す。


「殺るぞ!」


「おうよ!」


ジロが背後から首を、長男のチョウシが正面から腹目掛けて魔法を放つ。


口から発射されたのは、炎と氷をビームのように発射する攻撃魔法だ。


ここにサブローの雷を加えれば、狼三兄弟は無敵だった。


「儂には効かぬ!!」


ダルカスが肉体強化の魔法を発動し、気合いで吹き飛ばす。

生涯をかけて磨きをかけた肉体と魔法は、天性の肉体と魔法を持つ魔物の力を凌駕していた。


「ばかな……」


「ありえない、人間ごときが!」


そしてあっけに取られた狼兄弟の頭をダルカスの水魔法が貫いた。

音速に近い速度の水鉄砲は、生物を容易く殺傷できる力がある。


脳天に穴を開けて、なにが起きたのかも分からぬまま狼の兄弟は倒れた。


強い仲間が歯が立たずに殺され、浮き足立つ魔物たちをダルカスは得意の武具ハルバードで斬殺していく。


動揺から覚める前の魔物たちは、逃げることも戦うこともままらなずに、先ほどまで好きなだけ食べ放題をしていた人間たちのように次々と殺されていった。

違いがあるとすれば、ダルカスは魔物たちを食べないということだけだ。


「そこまでだ、人間よ」


このままでは配下に加えるはずの魔物が殲滅されてしまうと危惧した白狼は傍観者の立場を捨て、ダルカスの前に登場する。


「白狼様だぁ」


「狼の王!」


「狼族の長殿か」


「我らが魔王さま!」


魔物たちの怖じ気は引っ込み、白狼への声援を飛ばす。


「貴様が、こいつらのボスか…………。その姿、白い毛並みの巨大なフェンリル。 貴様があの白狼か」


「如何にも」


「なぜ貴様はこの町を襲った? なぜ、儂の息子夫婦と孫を殺した? いましがた殺した魔物の腹に、息子が上さんに贈った結婚指輪が入っておったぞ。 なぜここまで人を食いたい? なぜ儂の息子とその妻を、子を殺した。 なにが貴様をそうさせる」


「知れたこと。 この俺が魔物だからだ。 人類の敵であれ、と。そう願われて産まれた魔の化身だからだ。 故に俺は人を憎む、俺は人を殺し、喰らう。 かつては親友だった魔王となりて、世界を血と闇に染めるためにな」


ダルカスはやはり魔物と人間は相容れぬ生き物だと悟る。


「そんな訳のわからぬ事のために………」


「貴様らの都合など知らぬし、知ったことではない。 貴様は俺の力の糧となって死ぬがいい」




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