衝撃が強すぎて
マルコス視点です
バンッ!!
勢いよく開け放たれた扉。その向こうには今一番会いたくない甘栗色の長い髪に薄黄色のワンピースを纏い、大きなピンクの瞳をまっすぐ向けるご令嬢が立っている。
「失礼仕りますわ!!マルコス様。至急どうしても死ぬほど嫌ですが仕方がないのでお力添えいただきたくお迎えに上がりました!!」
言い終わるや否や腰に手をあてさあ早く!という雰囲気を前面に押し出す彼女にデモーラも僕も呆気にとられる。
「は?」
「え?今ので聞こえてらっしゃらないの?嘘でしょ。結構勢いつけて言ったはずなのに」
「いいえ、聞こえてはいます。ただ…僕は力を貸さないと言ったはずですが?」
余りの急展開に頭の中は混乱しているがとりあえず状況説明を彼女にさせる。
その間に落ち着こう。
「貸さない?いいえ。力を貸す必要はないとは仰っていましたが貸さないとは明言されていらっしゃいませんでいたでしょう?これでも私記憶力にはある程度自信があるのです。それに先ほども申しましたが私もマルコス様のお力をお借りせざるおえなくて頼っているのです。可能であれば死ぬほど嫌なのでお力添えいただきたくなかったのですが、本当にどうしようもなくて仕方がなくシルビアとのじゃんけんに負けたのでここに来たまでです」
「…」
この令嬢は正気なのだろうか。
普通嫌いな相手に向かって面と向かってここまで言うか?いくら自分が爵位が高くてもここまではっきりとするだろうか。子供だから許されるとかの問題以前だろう。
しかも、じゃんけんに負けたから呼びに来たって…
確かに彼女の言った通り力を貸さないと明言はしていない。だが…
「そ、うですか。しかし申し訳ないのですが今忙しくて」
「シルビアに用事がないと聞かれたときには問題ないと仰られていましたよね?」
確かに案内の際にそう言った。
「男が一度おっしゃったことを違えるというのはいかがなものなのかしら?それに、いくら嫌いな相手だからって年下の私でもちゃんと嫌々でも会話をしているというのになんなんですか?マルコス様の態度は」
「は?」
口元がピクリと引き攣る。
男だからなんだというのか。女だから自分は正しいとでもいうのか。
そう言うところが嫌いなんだ。傲慢で浅ましいところが
「貴女に、貴女になにが分かるというんだ!!男だから一度言ったことを違えないだって?君は馬鹿なのか?人間そんなこと一々守っていられるわけないだろう!!」
怒鳴り声が扉が開かれたことによって廊下まで響く。
声に驚いたのであろう何人かの使用人がこちらにかけてくるのをリズビア・ガーナ越しに見つめる。
「知るわけないでしょう」
「!?」
「貴方が私を毛嫌いしていること以外貴方がどんなことを考えているのかなんて私が知るはずないでしょう。馬鹿なんですか?だいたい一度言ったことを違えないというのは誠実さの表れでしょう。そんなこと誰だって知っていますよ」
彼女は自身の後ろをチラリと振り返り、また前を向く。
その瞳はどこまでもまっすぐで輝いているようだった。
「というかそんなことも判断できないほど何を焦られているのかは興味もありませんしどうでもいいんですよ。一々キレないでください。めんどくさいので。それよりもさっさと一緒に蔵書室に来てください。これ以上シル一人に本を読ませるのは気が引けるので」
彼女は自身の髪を手で後ろに靡かせる。
「坊ちゃま!?」「デモーラ何をしている!!」
後ろから駆けてきた使用人が慌てるように口々に何かを叫ぶ。だが、それらの音は遠ざかり彼女から目を離せない。
僕なんてどうでもいいという。なのにたった数回の会話で僕の心境を言いあてる。どこまでも優先事項は妹であるシルビア様だけである。遠慮も何もない言葉。それは貴族子女として決して褒められるものではない。それでも―
執事たちが室内に入ろうとするのを彼女は手で制す。
「ご、ご令嬢。申し訳ありませんがお下がりください」
執事長が申し訳なさげに言うが、彼女は一切そちらに視線をやらない。
痺れを切らした使用人の一人が部屋に踏み込もうとすると彼女は冷めた眼で彼を見つめる。
「止まりなさい。今私が候子と話しています」
「し、しかしこのような状況ですから―」
「黙りなさい」
ピシャリと彼女は今までに聞いたことのない声音で使用人の動きを言葉一つで止める。
「もう一度だけ言います。今は私が候子と話している最中です。一介の使用人がそれを妨げるとは何たる無礼ですか。下がりなさい」
「しかし―」
「私は一度だけ申すと言いました。お前達には耳がないのかしら?不快だから今すぐ下がりなさい。出来ないのであれば…どうなるかは分かるでしょう」
室内が静まり返る。
足を踏み入れていた使用人はリズビア様の眼差しに冷や汗を流しながら後退する。
誰かの生唾を飲み込む音が響く。
「さて、マルクス様。さっさと私とともに蔵書室に行きますよ。無駄な手間をかけさせないでくださいな」
先程までの普通の令嬢としての声音で溜息交じりにこてりと首を傾げながら宣う。
「僕は…」
「はぁ」
次に続くはずだった言葉は彼女のため息でかき消される。
その態度は父上が僕の課題の解答を見たときと同じで…
「仕方ありませんわ」
どうやら諦めてくれたらしいとホッと胸を撫でおろす。
「少々失礼いたします」
が、彼女は少し屈んだ後ずかずかと先程使用人が入室するのを止めた僕の部屋に入ってくる。
「は?」
足元にある本や書類をためらいなく踏みつけながら僕の目の前までやってくる彼女に混乱が激しくなる。本や資料を踏むなんて…。あの中に重要なものがあったらどうするつもりなんだ。いや、重要だったらこんな風に散乱はさせたままにはしないけれど。それでもそれらを踏みつけるだなんて人としてあり得ないだろう。
一体何を考えているんだ。
気が付けば彼女と僕の距離は抱きしめられるほど近づいていて、慌てて後ずさろうとして後ろが窓であることに気づく。
後ろから前を向いた瞬間、パンッと甲高い音が響く。
「え?」
まっすぐ前を向いていたはずの顔はなぜか右側に向いていて、だんだんと左頬に痛みがやってくる。
痛みの増す左頬にゆっくりと手をやればそこは先ほどまでなかった熱を帯びていて―
「いい加減にしてくださいます?シルビアが待っているので。貴方が私に協力したくなかろうが何だろうが閣下から出された課題を解くには致し方なく貴方を頼らざるおえないのです。私は課題を中途半端に終わらしたくないので使えるものは何でも使うので」
リズビアは不機嫌そうに眉をしかめつつ腰に手をあてる。
無言で反応のない私にしびれを切らした彼女は腕を掴むとくるりと身をひるがえして扉の方へ来た時同様にズンズンと進む。
そうして、出入り口まで来ると私の手を離しまた屈んで何かをした後素早く私の腕を掴む。
数歩廊下を歩いてから思いだしたように彼女は後ろを振り向き先ほどまでは打って変わって満面の笑みを使用人たちに向ける。
「それでは皆様御前失礼いたしました」
それだけ言ってまた前を向き歩く。
僕はただただ呆気にとられていた。
リズの平手打ちです!!
やったね!作者はテンション上がってます。
劣等感を一刀両断した後の平手打ちは中々愉快です♪




