だって、難しいんだもの!!
バルーウィ領の課題が一段落し、次のリーマス領とコーリン領についての課題に取り掛かる。
この2領は50年以上前から貿易をしているらしいこと。また、2領間には山があり山道を通って取引をしているためかなり時間がかかってしまうこと。コーリン領では17年前に流行ったカブリノファという流行病にかかるものが多かった一方で山を挟んだリーマス領では流行病の感染者が出なかったこと。その時期には取引がほとんどなかったこと。故に山への恩恵がリーマス領の領民には強くあり、10年前の山を切り開くという2領間の領主案に対して反対していたこと。反対によって今は山のふもとを通るルートも作られていることまでは分かった。
「ああ~これは難しいわ」
「お姉さま、ここ外ですよ」
シルビアが小言を言うがずっと本と睨めっこしていればこうもなるのは分かってほしい。
しかもこの問題は険しい山道と山のふもと(おそらく山道よりは優しいルート)の2ルートしかない。しかもどっちかの選択しかない。これが交通手段の限りなのかもしれない。
険しい山道は子供やお年寄りには過酷だろうし、商人も品物によっては配慮を強いられるだろう。
山は自然災害もありうるし、木が倒れたらその撤去に時間を取られ生物はダメになってしまう可能性もある。山のふもとでも土砂災害が起これば言わずもがなだろう。最悪こちらの方が復旧に時間がかかる可能性もある。それに山道ルートよりふもとの方が平坦ではあるが時間がかかる。これも一種の制限となる。
「いっそのこと一本道でも作れればいいのにね」
「平坦な道ということですか?」
「そうね。山を切り抜くてきな?」
「…」
「…」
「「トンネル―トンネル!!」ですね!!」
「それなら迂回せずに山を通れるわ」
山を切り開いてなくすわけではないからリーマス領の民の反対も減るだろう。
まぁ、山に手を入れるため反対がゼロとは言えないし、トンネルによる交通の利便による病魔の領内侵入を許すことにもなってしまうけどそこはトンネルによるメリットとデメリットの問題ね。どちらを選ぶかは領民と領主にかかっている訳だし。
問題はトンネルを作るとなると大規模な計画になる。
2領間だけではきっと不可能だ。
トンネルづくりには何が必要なのか調べなくちゃ。
「シルはトンネルに関する資料を調べてくれる?」
「わかりました。ついでにバルーウィ領の件で持ってきた資料は返してきます」
「うん。そうした方が効率がいいね」
私は持ってきていた本の中から国内の地図を広げる。
我が国内の中にもいくつかトンネルは存在する。主には辺境領とをつなぐものが多い。
それぞれのトンネルには作られた年代と関わった代表者の名前が記されている。
その中に貴族がいたらその領地に協力を仰ぐことも可能だ。
…もちろん可能性はゼロに近い。なんせ職人の名前の中から貴族を探せというようなものだ。貴族が職人の真似事をすることは基本少ない。
地図に書かれたトンネルの名称を書き出しつつ、後ろのページで名前の確認をする。
一人も出てこなかった場合はシルが持ってきた本を頼るしかない。
トンネルの作り方なんて知らないけれど…そう言えばトンネル技術って我が国より他国の方が優れているのでは?
確か海を挟んだ国では機械の発達が著しいのだとかアローが話していたっけ?
今後3年以内に来国予定の他国の一覧とかあれば―そこから交渉の手段が生まれるのに。こればっかりは本ではわからないわね。チッ、マルクスが協力的であれば閣下からの情報を教えてもらえたかもしれないのに。いや、ないな。無駄に口固そうだもの。それに宰相の息子と言えそんなおいそれと国に関わる情報を漏らしてはいけないわよね。
パラパラと読み進めるが欲していた答えは載っていなかった。
うん。仕方ないんだけどね。
分かっちゃいたんだけど
「はぁ~~~~~」
溜息が零れる。盛大に
これは、トンネル建設は希望的観測として回答しておくのが無難な気がする。
トンネル建設になったとしてもおそらく1か月とかでできるものではない。
それなら現実的なのは現在あるルートの整備だろう。
道を整備することによって馬車を通りやすくする。または休憩所を作るとか。
道路整備は現在されているようには記録されていない。おそらく砂利道のような感じなのではないだろうか。そこを王都の様に整備すれば幾分かは交通制限(疲労という)は軽減されるだろうと思う。
持ってきていた道路整備に関する本を手に取り2領間の地形特徴と鑑みながら検討して、妥当そうなものを書き出していく。
同時に各領地での領地間貿易表が記された本も広げる。
領地の売買が盛んなところは距離が近い、交通がしっかりしている、その領地の特産に魅力があるの3つから考えられる。
大まかな国の地形と領地の場所は頭に入っているからそれに基づいて表を見ていく。
「ハーテン領、マイラ領、テンシール領、バックロック領、ジーシャン領…この領地は特産が特に秀でていないけど貿易が盛ん。しかも距離も1~2領空いている。にもかかわらずということは交通面が強い」
どの領地も山には面していないし、平地ではあるけどおそらくはそうなのだと思う。
であれば、交通整備に携わる職人がいる可能性がある。
問題はその職人をどうやって呼ぶかだろう。
領地の特産での交渉は厳しいものがある。2領間では特に秀でたものはない。
領地間での取引よりは商人間での取引の方が現実的だろうけど…。
それには商人の協力が必要不可欠だ。かの領地の領主と領民の関係が把握できていない私では案としてあげても確たるものが足りなくて採用はされない。
「第三者の介入を許すしかないけど…。あああああ、わかんない~」
「お姉さま!はしたないです!!」
奥の本棚からシルが窘めてくる。
ぐでんとソファーにもたれかかる私はそりゃあ側から見たら淑女教育の欠片もないだろうけどさ。仕方がないじゃないか。閣下の出した問題は情報が少ないのにすごく難しいのだから。
普通のご令嬢は他家では取り繕います。
リズはマルコスが嫌いなのでどう思われようが関係ないのでソファーにだらけて座っているだけです(リズビアの名誉のために説明しておきました)




