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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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正解は一つじゃない

少し長めです。

「こちらが我が家の蔵書室になります」


 マルコスに案内されてやって来た蔵書室は我が家の蔵書室以上に圧巻だった。

部屋にぎっしりと備えられた本棚に隙間なく入れられている本の数々。


「凄い」

「どれくらいの冊数があるのですか?」

「建国当時からの本がありますから何万冊とありますね。もう数えるのは諦めましたよ」


 マルコスは困ったように笑い、メガネのブリッジをくいっと指で持ち上げる。

 建国当時からの本。それはきっとベスタ侯爵家の忠誠の表れでもあるのだろう。本棚に近づきザっと一段飛ばしで本をの背表紙を見ていく。

歴史、経済、農業、売買、他国、童話…いろいろなジャンルの本が備えられているのが分かった。


「本当に素晴らしいですね。侯子はこちらの本は全て読まれたのですか?」

「すべてはまだ読み切れていませんが3分の2は読みましたね」

「3分の2も読まれたのですか⁈」


 彼は確か私の1つ上で殿下と同い年だから8歳のはず。8歳でこの蔵書室の3分の2の書物を読んだなんてすごいどころじゃないと思う。天才だわ。

さすが宰相閣下の息子。

生唾を飲み込みながら閣下に与えられた課題に取り掛かるべく彼の知識を少し貸してもらおう。


「候子、お願いがございます。閣下から与えられた課題のためにどうか候子のお力をお貸しいただけませんか?」


 マルコスはスッと笑みを消し、まっすぐと私を見つめる。


「貴女は父から与えられた課題に挑まれるんですね」


 ?挑むって閣下の前で答えましたけど?私

聞いてなかったのか?


「ええ、まあ閣下にもそう宣言してしまいましたし」

「あの課題は貴女が考えているよりも難しいですよ」

「え?」

「あの課題は自分も一週間前に出されました。しかし僕の回答では父は不合格だと言いましたよ。それを貴女にも出すとは思わなかったが、あの課題は放棄していただいて構いませんよ。そんなことよりお好きは本を―」

「つまり自分が出来なかったから私にも解けないだろうと…」


よくもまあ舐めたこと言ってくれるわね。

閣下は理由もなく不合格だなんて仰ったりしないはずだ。そうでなければ一国の宰相など勤まるはずがない。


「では、候子はどのような解答を出されたのかお教え願いますか?」

「教えた解答を盗むおつもりですか?」

「は?」


思わず低い声が出てしまった。

だがそれを取り繕うことはしない。解答を盗む?馬鹿なの?あんたさっき自分で不合格って言われたって言ったじゃない。そんなもの誰が盗むのよ。

だいたい何がダメだったのかを知りたいと思っただけだから教えてもらわなくても問題ないんですけど?


「私の答えと似たようなものにされては困りますからね。やるのならご自分のお力でやってください。僕が力を貸す必要はないでしょう?」


 馬鹿にした、蔑んだ表情で私を見つめる彼に沸々と怒りが生まれる。

 ああそうですか。そっちが非協力的ならこっちは自力でやりますけど何か???

溜息を盛大に吐き出す。

ああこれだから見下す頭しかないやつは使えないのだ。


「わかりました。もう結構ですので、邪魔だけはしないでくださいね。ああ、そうだ解答を記録できる紙とペンを用意するように使用人に伝えていただけますか?私達これから忙しいので」


 私の視線に一瞬怯んだ彼はもの言いたげに眉を寄せるが踵を返し、シルビアに向き合う。

もう彼の相手をして時間を取られるわけにはいかない。


「シル、作物に関する図鑑のようなものと土に関するものが記録されている物を探してもらえるかしら?」

「わかりました。探したものはどちらに置きますか?」

「ここの机の上に一度置きましょうか。一つの者に関して3~5冊を目安に探しましょう。探し終わった後はここで読んで行って該当箇所を抜き出して足りないようならもう3~5冊探しましょう」


シルビアが頷いたのを合図に私達はそれぞれ別の本棚に向かう。

 シルビアが調べるのはバルーウィ領に関するもの。私はリーマス領とコーリン領の関係性と主な産業、取引などがのっているであろう貴族一覧表と国の記録表を探しましょうか。

とはいえ何万冊ともある名から数冊探すのも骨が折れそうだけど、やるしかないか。

 パチンと両頬を叩く。気合を入れて幾万の本の背表紙を睨み、探し、それらしきものを片っ端から手にとっては開いて速読し―これを繰り返していく。

各領地特産物の記録過去4年分と国内の地形についてのものが2冊、道路整備のものが3冊、他国の地形が記録されたものが1冊。計10冊を落さないように気を付けつつテーブルへと運ぶ。

テーブルには既に戻ってきていたシルが何か所か抜き出し、紙に書き写していた。


「シル、そっちはなにか分かった?」

「お姉さま、おかえりなさい。そうですね、こちらは“連作障害”というものが該当するような気がするというところまでは分かりましたわ」


“連作障害”…確か同じ場所に同じ作物を植えることによって生じるものだったか。エリオットが作物だけでなく中には花も該当するから肥料調整が必要だとか言っていた。


「農民なら“連作障害”を知っているからある程度対策をしていそうなものだけど…。もしかしたら“連作障害”の対応の方に問題があるのかもしれないわね」

「その場合はどうしたらよいのか分からなくはありませんか?」


 確かに。現状を視察して問題を実際に目にした方が話は早いがそんな時間も手間もかけられない。なにせ私達ガーナ公爵家管轄地域ではない。他家が他家の管轄地域の問題に首を突っ込むのは褒められたものではない。よって視察は難しい。

ならば―


「答えは一つでなくてもいいのよ。すべてを知ることが出来ないのだから想像を含らませて想定した解答を用意しましょう。この場合は“連作障害”が最も疑わしいこととその対策に何らかの問題があることを1つの解答としてあげましょう」


“連作障害”に対する対策の問題性として考えられるのは土壌に栄養が回ってないというものが考えられるかしら。その場合なら牛糞や馬糞などを土壌に再度混ぜる必要もあるかもしれない。だけどそれでは完全な対策にはならないわ。一時しのぎではまた繰り返しかねない。

パラパラとシルビアがもってきていた本を手に取り捲る。

“連作障害”の対応策として多いのが“輪作”というもの。同じ場所に季節に分けて違うものを育てたり、ブロックごとに区切って各季節に育てる場所を変化させたりすることによるサイクルを作るもの。

このサイクルには大きく決まりはないようだけど…。

 主要作物がトウモロコシ、第二作物はトマト、第三作物はピーマン。これらが全体的に生産量、出荷量ともに下がっているのは明らかだ。

 この問題は一度持ち帰ってエリオットとハンナに相談した方がいいかもしれないわね。


「お姉さま!こちらにこのようなものが記載されておりますわ」


 シルが広げた書物は隣国の農作物の栽培方法が記載されたもののようだった。


『相性のいい作物を一緒に育てることにより病気や害虫の対策になりえる』


「これは」

「相性がよければ互いに共生し合ってより強固かつ新たな生産ルートを生むことが出来るかもしれません!!」

「確かに!!これの一覧はあるかしら?」

「三ページ後ろに一覧があったはずです」

「そこからトウモロコシとトマト、ピーマンと相性のいいものを書いておいてちょうだい。それから害虫対策か病気に効果があるのかも分かるようだったら書いておいて」

「わかりました」


 ならば私は土壌の栄養の面で何が必要か調べてメモしておこう。

どちらもあればきっと一つだけの解答よりも正答率は上がるだろうしね。




家名を思い付きで作ってしまうタイプなので把握が出来てないものがある気がしてなりません。

ちゃんとメモしてるつもりなんですけどね(笑)

間違えてたりしたら教えて下さったらありがたいです!


※いつも誤字報告や感想をくださってありがとうございます。

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