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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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試されるなら利用しましょう

「ようこそおいでくださいました。ガーナ公爵ご令嬢方」


 黒塗りの鉄製の門をくぐれば左右は生い茂った若葉が印象的な植木で囲われ、佇む邸は白に近い灰色の塗料で塗られその家紋の威圧さをまじまじと感じる。


「本日は私共をお招きくださりベスタ侯爵には感謝しかありませんわ。本日はよろしくお願いいたしますね」


ニッコリと微笑んで執事の後ろについて行く。


「どのような本があるか楽しみですね、お姉さま」


隣を歩くシルビアが嬉しそうに花綻ばす笑みを讃えている。ああ、これが救いだわ。

可愛い妹が一緒に来てくれてよかった。

本当に良かった。

誰がここに…マルコス・ベスタのいる邸なんぞに好きで来るものか。




~遡ること8日前~


リズビア・シルビア誕生日パーティーでのこと…

 殿下に無理矢理ファーストダンスを踊って(踊らされて)、ヒルデ様と踊り、お兄様と踊り終われば立ち続けに踊ったというのもあってやはり疲労を感じずにはいられずホールから離れる。

レイお兄さまにダンスの最中に殿下と踊るなんて大丈夫か?と聞かれたがだいじょうぶなわけないだろうと思わず呆れ笑いを返せば、とても憐れんだ表情をされた。とても解せない。

私だって踊りたくて踊ったのではないのだ。

踊らざるおえない状況にあの悪魔が持っていったのだ。なんて悪魔だろうか。

そのうち悪魔を通り越して魔王にでもなるんじゃないかしら。

 給仕係に声をかけてリンゴジュースの入ったグラスを受け取り、ついでに宝石のようなキラキラとしたタルトを受け取りフォークで一口大に切って口へ運ぶ。

果物の酸味と甘さが口いっぱいに広がる。

さすが我が公爵家の両人が作ったケーキね!!


「ああ、リズビアそこにいたのか」


 喜びで頬を緩めたまま振り向けばお父様がどなたかを連れてこちらにやって来た。


「お父さま…」

「ベスタ侯爵、こちらが貴方がお会いしたいと仰っていたリズビアです。リズビア、この方は我が国の宰相であらせられるニーヴァ・ベスタ侯爵閣下だよ」


父が紹介したのは夢で見た緑の髪より少し暗い色合いに全く同じ灰色の瞳を持った男性で、彼と違ってメガネをかけていない。それ以外はあの夢と同じ人で…


「―ッ!!」


頬がヒクリと引き攣るのを感じる。

どうして⁈あの男は父親似なの??嘘でしょ。そっくりどころじゃないわよ!!

私の心臓でも止める気なの?!!


「こんにちは。初めまして。本日はご令嬢の7歳のお誕生日ということで公爵にお誘いいただいたので参席させていただきました」

「初めまして、ガーナ公爵家次女のリズビア・ガーナと申します。お忙しいところ侯爵閣下にお祝いいただけるとは大変うれしく思いますわ」


 落ち着け、落ち着け、大丈夫。ゆっくりでいい。ゆっくりで

 焦る心境とは逆に淑女の礼や挨拶は一つ一つを違和感が生じない程度の速度でゆっくりと運んでいく。

だてに淑女教育は受けていないので動揺しても対処は出来るのだ。


「存じ上げているよ、リズビア嬢。私は一度君と話がしてみたいと思っていてね」


 ゆっくりとお父様にも閣下にもばれないように呼吸を吐き出しながら閣下を見上げる。

どこまでもあの夢と同じとは…

やはりあの夢は夢ではないのではないか。そう思わずにはいられない。


「ノグマイン商会」

「!」

「あれはリズビア嬢の発案、監修のもと設立され尚且つ今も惜しみない投資をしているそうだね」

「私が私の意志で立ち上げましたもの。簡単に手放してはいけません。それに…」


 あの場所は、白亜館はお父様の期待がこもっている。おじいさまのお力添えもある。いろいろな方との出会いの場でもある。多くを見聞きできる見聞の場でもある。そして―


「大切な者たちがいる場所ですから」


 私と初めて友達になったエリオット。最初は人を見定めて今やこきを使うアロー。いろんな情報をいち早く知らせてくるビンズ。交渉上手なファイシャ。医療の観点からアドバイスしてくれるベイク。初めての同姓の友だちで薬学に秀でているハンナ。ノグマイン商会の為だけに領地に戻ってきてくれたナツさん。受付の子、搬入の子、他の商会の人、協会の子供たち

たくさんの人があの商会に関わっていてなくてはならない人になった。


「やりがいのあることを放り出すなんてことを私はしたくありません」


それは夢では見ることも得ることも出来なかった人達。


「なるほど。やはり貴女は聡い子だ。ぜひ一度うちに来てはいただけないだろうか?」

「…侯爵家にですか?」

「えぇ。うちには公爵家にない蔵書や資料がありますからよろしければそれらをお読みになられてより発展をさせていただきたいと思うのです」

「発展…ですかぁ」


 侯爵はいい顔で頷く。


「ノグマイン商会は今までの商会設立と大きく異なっています。家全体の投資先でも、国民の意志による設立でもなく、一貴族のしかも幼きご令嬢が投資し設立した商会です。商会の人間は領民を中心としていますがその3分の2が孤児や再就職者の雇用ですよね」


 確かにノグマイン商会は人件費削減(今はまだ設立したばかりで大きな軌道に乗る3年~5年までは)として最低賃金に少し色を付けた状態で働いてくれる人を取り入れつつ、人材育成を主時期に置いた結果、孤児院の就職斡旋先となった。

それにガーナ公爵家でかつて働いていた今なお働く意志ある者、他のところで働いていたが年齢により解雇された者の再雇用先としての受け入れもある。これもアローとベイク曰く下の人材育成が整うまでの繋ぎとして導入している。


「はい。間違いありません」

「このような雇用形態は我が国でも少数かつ、孤児の採用と再雇用者の両方を一度に実施しているものは商会だけでなくどの店や商人でも取り扱っていませんから。ノグマイン商会の行く末によっては導入措置が取られる可能性もありますから」


 なるほど。さすが国の宰相だ。

こんな小娘にもそんな利用価値を見出し、それをより発展させろと。しかも遠回しに私の経営者としての資質も試そうと…。


「わかりました。是非、後日シルビアもともにお伺いさせていただきたく思いますわ」


試されるのならばこちらも存分に利用するしかない!!

勝手に品定めするマルコス・ベスタよりも正々堂々と品定めをすると仰る侯爵閣下の方が性格がいいわ。

閣下が笑って右手を差し出す。

その手に右手を差し出し同じく微笑んで見せる。


「交渉成立ですね」


その数日後、閣下ご自身から招待の手紙をいただき現在に至るのだが…



悪魔が魔王に進化するそうですよ。これをフラグと言わずになんというって話ですよね~

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