お茶会という名のフラグ
いつも読んでくださりありがとうございます。
5日弱の間隔で更新できるように頑張っています。もう少し書き溜めたら感覚を短くしたい‥です。
『あんたがちゃんと大人しく悔い改めてたら誰も殺しまではしなかっただろうにね~』
声が出ない。
霞む視界に映るのは楽しそうな青年の嘲笑う様な表情と赤黒い何か。
そして思いだすのはどうしようもないほど恋焦がれた金の人。
あぁ、いったい私のなにがいけなかったというの‥‥
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「———っ!!!!!」
跳び起きればまだ部屋は暗闇に包まれ、朝日が昇っていないことを理解する。
と、同時に自分の手を顔にあててから喉を震える手で触る。
そこは斬り付けられてもいなければ、ぬめッとした嫌な感覚もなければ耳障りな音は息をするごとに聞こえることもない。
生きている。
そのことにほっと息をつき、震える身体を自身の手で抱きしめる。
あの日…高熱にうなされている間に見た生々しい夢は今も時折出てくる。必ず最後は私があのぼろい部屋で斬り付けられて終わるのだ。
恋に狂った女の末路は紅と黒の世界で終わる。だが、そんなの私は嫌だ。
第一、今の私は王子の婚約者になりたくない。なってもしあの夢の通りになったら?
最期があんな風になるなんて嫌よ。私はささやかに暮らして安らかな最期を望みたいの。
その為ならなんだってする。
エリオットに植物について教えてもらい、シルビアに勧めてもらった本から市民の生活(もしもの時の)についても少しずつ知識を得ている。
回避するためにいろいろやっているわ。だからどうか…私を殺さないで…
リズビアは小さな身体をより一層小さくしながら抱きしめる。その頬には溢れる涙が伝い落ちる。
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「お嬢様、本日は午後からお客様が参られます」
「そうなの」
レットの言葉を右から左に流しながら昨日シルに勧められた本を読み進める。
今回は世界の刺繍辞典だ。貴族子女なら刺繍は必須。
刺繍する模様を考えて刺すことも嗜みの一環とされるためこうしていろいろ見てアイデアを得ようということだ。
「ですので午後はお茶をとらないでください」
「え?!お茶の時間なしなの?」
午後のお茶は甘いお菓子が出てくるから楽しみなのにお預けって‥
しかもなんで私もなの?
お母さまかお姉さまのお客様でしょうに何故私もなのか
「お嬢様、いくらお茶のお時間がお好きであっても殿下がいらっしゃるのですから今日ぐらいは我慢してください」
「うぐ…」
…?え、あれ今レットなんて言った?で・ん・かって
「殿下ぁ??!!!」
「お嬢様、大声を上げてははしたのうございます」
いやいやなんでヴィオはいつも通りなの?え、私がおかしいの?
だって殿下だよ?この国の王子様じゃん。天下人じゃん
なんで公爵家に来るのさ。普通は公爵が城に行かないですか。
臣下なら当然そうだよね!歴史を教えてくれたバーロン先生もマナーを教えてくれるジュウナ先生もきっと私の意見に賛成をしてくれるはずだよね。
「殿下の婚約者候補はお嬢様とシルビア様が筆頭候補でございますから定期的なお茶会は月に一度ありましたでしょう。何をそんなに驚かれるのですか」
ヴィオの言葉で忘れ去られていた熱出す前の記憶が蘇る。
ああ、確かにあったわ。
思いだしたくもないお茶会の記憶が…
初回はシルビアと一緒に出て3人でお茶会を行った。
しかし、殿下がシルビアに話を振るのが気にくわない私は次回から時間をずらすようにシルビアに命令した。もうほんとクズな姉だわ。
『シルビアがいると空気が悪くて嫌だから次回から貴女は出てこないで頂戴』
なんて言いました。殴れるなら殴ってやる。
その次の茶会から私とシルビアは別々に殿下と会うことになった。
殿下からどうして一緒ではないのかと聞かれた際には
『あの子が居ては空気が悪くなりますし、殿下のお目汚しにしかなりませんわ』
どや顔で答えましたね。えぇ。クズだ
一方的に話して一方的に満足して最低の極みだったお茶会の記憶しかない。
熱出てからみんなに変わったって言われるけど、もっと早く熱出しておけばこんな恥をさらさずに済んだのに…
「—ですから御準備もしなくてはなりません」
「う、うん」
レットの話全然聞いていなかったけどとりあえず頷いておこう。
って、準備って何するの?
頭の中に疑問符をいっぱい浮かべていたら例のドレス(ドレスルームに収納しきらない煌びやかな大量のモノ)をヴィオが引っ張り出して目の前に並べる。
相変わらず古い奴は協会に寄付しているにもかかわらず一向に減らないドレスたち。
一体何着あるのだろうか。
数えたくも知りたくもないけれども。
とりあえず目立ちたくないから無難な色として黄色のデイドレスを選択し、宝石とかは一切つけず髪を緩く編み込んでもらう。
リボンの色はシルビアの瞳の色を選択する。
あの子の色はとても落ち着くから。
一通り支度が終われば私は2人を伴ってとある部屋へ向かう。
絶賛胃が痛いが気にしていられない。この後のことを考えれば胃痛なんかに負けていられはしないのだ。
コンコン
扉をノックすれば顔を出したのはゴッテルだった。
ゴッテルは私を見るとわずかに驚いた顔をした後にしかめっ面で用件を聞いてくる。
一応私公爵令嬢だけどいいのかそんな態度で‥と思いながらも黙っておく。
彼はシルの側付き。さんざんシルをいじめた私をよく思っていないのも仕方のないことだ。
「シルビアに少しお願いがあるの」
「お嬢様にまた殿下への謁見時間を遅らせろとでも?」
「いいえ。違うわ」
むしろその逆。できることなら今日はシルだけが会えばいいと心の底から思ってる。
だけど公爵令嬢として最低限のことはしなくてはならない。
たとえそれがどんなにやりたくないことであってもだ。
「お姉さま?いかがしましたか」
オレンジ色のデイドレスを身に纏い、髪を珍しく結わえているシルビアがゴッテルの後ろから顔をひょっこりと出す。
とてもかわいらしい姿に若干胃痛が緩和された気がした。
「実は今日のお茶会からまた3人でお茶をしてはどうかなって」
「よろしいのですか?」
「えぇ。殿下も何故別々にするのかとても不思議がっておいででしたし、私の我が儘で始めてしまったことだからごめんなさいね」
「私はかまいませんが…」
「本当に!?」
「はい。姉さまとご一緒の方が落ち着きますもの」
よかったぁぁああぁ。
これで嫌とか言われたらどうしようかと思った。いやもちろんうんっていうまでここでずっとお願いするつもりだったけどね。
「では、一緒にお茶会に行きましょう」
「はい」
シルビアが心優しい子で本当に良かった!!
本当にこの子は女神の生まれかわりなんじゃないかな?
こうして何とか3人でお茶会できるようにこぎつけた。第一関門は何とかなったはず。
殿下が来たことを執事長に教えられ4人―私、シル、ヴィオ、ゴッテル―で応接室へ向かう。
ノックとともに開けられた部屋に入り、優雅に淑女の礼をとる。
「ようこそおいでくださいました。殿下」
「お待たせいたして申し訳ございません」
「どうかお気になさらず、今日はおふたりでなんですね」
「はい。本日からはまた3人でお茶会が出来ればと」
「その方がいいですね」
その声に安堵のため息を心の中で漏らす。
もしいまさら何言ってんだお前的なこと言われたらどうしようかと思った。
「では、お茶会を始めましょう」
殿下に促され顔を上げた。
そして私は息が止まるかと思った。
輝かしい金髪に整った顔立ちに印象的な黄金眼。
『リズビア・ガーナ、私は今ここで君との婚約を破棄する』
『君は国母に相応しくない』
『私は一度も君を好いたことはない』
ヒュッ
喉が締まる感覚に襲われ咄嗟に片手で喉を押さえる。
「お嬢様?」
ヴィオにいつまでも動かない私を不審に思ってか声をかけられるが今はそれどころじゃない。
嘘でしょ?
あの夢はただの夢じゃない。未来だ。
成長した殿下は絶対に夢で見た私を断罪した王子になる。そう確信めいた何かを得て、背中に冷たい汗が伝う感覚を不快に感じながらもシルビアの座るソファーの隣へ腰を下ろす。
殿下とシルビアは和気あいあいと話し始める。
たまにシルビアに話を振られ「そうね」と相づちしておく。
どうしようこのままじゃ死んでしまう。
家族から勘当されて首を斬られて死ぬなんて絶対嫌!!
「‥リズビア嬢はお茶会が楽しくはありませんか?」
「へ?」
殿下から急に声掛けられ、心臓が口から飛び出るかと思った。
「先ほどからずっと俯いていられるし、やはり別々の方が―」
「そんなことありませんわ!」
ニッコリと猫を被って笑っておく。顔色はよろしくないだろうがかまっていられない。
それに今ここでシルビアが出て行ってしまったら私が死んでしまうわ。心臓止まるから。
心優しいシルビアなら自分が出て行こうとするはず。
止めてもらいたい。妹のやさしさで姉の寿命が削られるなんて御免あそばせだ。
「ただ、シルビアと殿下はとても会話が弾んでおられたのでお似合いだなと思っておりましたの」
もうこうなったら婚約者候補から外れよう。じゃないと私の心臓が耐えれない。
リズビアの言葉に本人以外が凍り付いているのに気づかないままリズビアは口を開く。
「こんなにお似合いなら私はいないほうがいいのではないでしょうか?その方が殿下にとってもシルビアにとっても有意義なお時間となるはずですし、それに殿下の婚約者はひとりが選ばれるものです。シルビアは令嬢としての教養もありますし、かわいいし、とても優しく頭のいい子で自慢の妹なんです。ですから私としても殿下とシルビアは婚約者候補としてもとてもお似合いだと思うのです。ですから次回からは私は不参加もごふが」
途中でヴィオが口を塞ぐ。
「失礼いたします。殿下、シルビア様。お嬢様は体調が悪いようなので本日は退席させていただきます」
ヴィオが有無を言わさぬスピードで私を応接室から連れ出し、無言でずんずん歩いていく。
「ヴィ、ヴィオ?」
声をかけれど返事はなく、私の自室について私を椅子に座らせる。
そこで初めて退出してからのヴィオの顔を見た。そこには悲しそうな怒ったような表情が伺えた。
「何故あのようなことをおっしゃったのですか!」
少し大きな声はやはり怒っているような気がした。
「どうしてって言われても…」
「殿下の婚約者になりたいとおっしゃっていたではありませんか」
確かにかつての私はそんなこと言っていた。
ああ頭の痛い。
「あの時は確かに思っていたわ」
そう。あの時は。
「でも今私は殿下の婚約者にはなりたくない。シルビアがなった方が殿下もシルも幸せになれる」
「何故そのようなことをおっしゃ―」
「ヴィオには分かんないよ!!私が殿下と婚約してもいつか婚約破棄されて私は殺されるのよ!私は幸せになりたいの!そんな些細な事を、生きたいと望むことすら私には許されないの?!」
「お嬢様…」
ヴィオに怒鳴り散らしたって何にもならない。それでも私がさっき言ったことを否定されるということは私が生きることを否定されているように思った。
視界が歪みドレスにシミを作る。
ヴィオはそれ以上何も言わずそっと私を抱きしめてくれた。その温もりに安堵してか私の涙は当分止むことはなかった。