ダンスの申し込み
少し長めです
「ごきげんよう、リズビア様、シルビア様」
「「ごきげんよう、ようこそおいでくださいました」」
「おめでとうございます」
「もう7歳ですか」
「まだまだ成長が楽しみですな」
「お可愛らしいこと。これからが楽しみですわね」
「「ありがとうございます。本日は楽しまれてください」」
パーティーが始まってから来る人来る人に挨拶を受け、返し、ニコニコと笑い続けてはいるのだがやはり段々と疲れは溜まるもので…
「ふぅ」
ひと休憩できる間に小さな溜息が零れ落ちる。
シルビアの方を見れば楽し気に歓談中である。同じ時間同じ人数を相手にしているはずなのに全然疲れた風が見えない。さすが社交界に慣れている分はあると思う。
正直私よりシルの方が社交界は慣れているし、社交界に強いとも思うのだ。社交界は相手にどうみられているか分からないから大人しければ大人しいほど目につかず済む。
私はこの年で商会の立ち上げやデザインの話で大人(ごくごく一部の)達と渡り合えるため貴族からしたらいいおもちゃになるのだろう。話している節々に探りが入っているから油断できないし…
あと、顔引き攣りそう。
「お嬢様、お疲れ様です」
「ヴィオ!ありがとう」
背後からやってきたヴィオの手にはぶどうジュースの入ったグラスと今日のために作られたらしいフルーツタルトがのった皿があった。
差し出されたそれらを受け取り、遠慮なく口に含む。
挨拶のし過ぎで喉が渇いていたからちょうどよかった。タルトにのっているフルーツの甘さと酸味がカスタードクリームとよく合ってとても美味しい。
「ん~おいしいぃ~!」
「それはよろしゅうございました」
「ヴィオもレットも給仕お疲れ様ね」
「領地祭の時に比べれば人数も少ないですから問題ありません」
確かに領地祭は国内中の貴族がやってくると言っても過言ではない。
それに比べれば誕生日パーティーに来場する客なんて程度が知れている。だって親しい者やお世話になっているものしか招待状が配られないのだから
「それもそうね」
「そろそろ王太子殿下がご到着になる頃かと…」
「わざわざお忙しいのだから無理をしてこなくてもよろしいのにね」
本当に公務が忙しいなら手紙だけでも出して済ませればいいものを…
なぜわざわざ来ることにこだわるのだろうか?
まぁ殿下の考えなんて私ごときに分かるはずはないんだけどさ。あの人腹黒だし
ヴィオに皿とグラスを渡してホールへと戻ろうと移動する。
パーティーはお父さまやお母さま、お姉さま、お兄さまがそれぞれお客様のお相手をしてくださっているおかげでこちらが来客対応をわざわざしなくて済むのはありがたい。
挨拶に来たものに返すだけなのだからやはり今日のパーティーは社交界として捉えるのならば双子にとってはかなり優しいものになっている。
これで疲れているのだから本格的に私は社交界に向いていないわね。
「ごきげんよう、リズビア様」
声をかけられ、足を止める。
「!ごきげんよう、本日はようこそおいでくださいました。ヒルデ様」
「とてもお綺麗でまるで妖精のようですね」
ヒルデ様が臙脂色のスーツを身に纏われ、小さな花束を差し出してくる。
花束の中にはコングラッツ伯爵領で見たことのある木苺の花やアルストロメリア、フロックスなど使用されていてとてもかわいらしい。
「わぁ!!とてもかわいいですね。小さい花で作られているのに見劣りしませんしむしろ目を引きますね」
「喜んでいただけたようでよかったです。これは領地で贔屓にしている花屋にリズビア様をイメージして作っていただいたんです」
花屋にわざわざイメージって…
「私その花屋の方にお会いしたことあります??」
「いいえ、お会いしたことはないかと思いますよ」
「??!」
どうやって私をイメージしたというのだろうか??
え、まさか噂話から??そうだとしたらなかなかその花屋の方はセンスがいいと思うんだけど
「私が花屋の店主にリズビア様のイメージを話して作っていただいたのです」
「そうだったんですね」
なるほどね。…え、つまりこの花束みたいにヒルデ様には私が映っているってこと??
こんな可愛らしく?
そんな馬鹿な…何かの間違えではないかと花束とヒルデ様を三度見したのは悪くないと思うのだ。
「ふふっ、そんなに驚かれますか?」
「えっとこんな可愛らしいのはどちらかというとシルビアのイメージが強かったので…。そんな風におっしゃっていただけたのは初めてでしたから。…とても光栄です」
「私はシルビア様とは領地祭の時に挨拶した程度でしたのでそこまで人となりを知りませんが、私にはリズビア様の方がその花束の様に可憐で愛らしく、綺麗で視線を引くような可愛らしく映りますよ?」
柔らかな表情で微笑むヒルデ様にたじたじになってします。
そんなに可愛らしいとか愛らしいとか褒められるとは思っていなかったから頬に熱がこもるのが分かる。
「——ッ!そんなに褒めていただけるのは本当に嬉しいですわ。改めてありがとうございます」
「どういたしまして。ああそうだ、今度我が領地にいらっしてはくださいませんか?下水設備も整いましたし、是非ノグマイン商会の新規企業についてもお伺いしたいので」
あれから1年が経とうとしているのか…。コングラッツ伯爵領にはミルクジャムでお世話になったし今後も縁を持っておくことは悪くない。
「ええ是非伺わせていただきたく思いますわ。また、日取りが決まりましたらお便りの方を送らせていただきます」
「楽しみにしておりますね。あ、それから―」
?
まだ何かあるのだろうか?
「本日のその可憐なお姿でぜひ私に一時の夢を見させてはいただけないでしょうか?」
スッと手を差し出される。
これはいわゆるダンスパートナーの申し込みだ。
順番とかは分からないけれどパートナーを承諾するということは“あなた様と必ず今宵のパーティーを共に致します”という意味を持つ。
もし破るようなことになればそれは承諾者の信用にも関わってくるもので…
「是非一時の夢を共にしましょう」
差し出された手にそっと右手を乗せると手の甲に触れるだけの口づけがされる。
「それではまた後程」
ヒルデ様が微笑まれるのにつられて私も自然な笑みがこぼれる。
「お待ちしておりますわ」
ヒルデ様と反対方向に向かって足を進め、壁際で給仕していたレットを捕まえて花束を預ける。部屋に持っていくように伝えてレットが少しでも休憩を挟めるようにしておく。
もちろんヴィオや他の使用人たちにも適度にプレゼントを部屋に持っていかせるように預け、言外に休憩してきなさいと伝えているのだ。
さてと…
ざわざわざわ
ホールの入り口がざわめき始めた。ということはおそらく―
そちらに身体を向ければ案の定、金髪につやのある白い肌、整った顔立ちに意志の強そうな金色の瞳。ライトブルーよりもほんのわずかに暗い色彩の生地がベースとなった正装は裾の部分は白色になっている。私達のドレスの色を上手く組み入れている正装を身に纏った王族が私を見つけるなりとても嬉しそうに、そして何より楽しそうに微笑まれる。
「やあ、リズビア。今日は君にとって特別な日だが楽しめているかい?」
「ごきげんよう、王太子殿下。本日はお忙しい中お越しくださりありがとうございます」
「礼には及ばないよ。なにせ私の婚約者殿の誕生日を祝うめでたき日なのだから。むしろ、来るのが遅くなって申し訳ないくらいだ」
「お越しいただけるだけで光栄の極みですのでお気になさらず(むしろ来なくてもよかったのにね)」
殿下に外用の笑みを貼り付けたまま応対すればおかしそうに笑われる。
なぜ?
「貴女はやはり予想を超えてくるな」
一歩前に近づいた殿下から距離をとろうと下がるよりも前にくいっと殿下の腕が私の腰に周り、距離をとることをできなくされる。
「―っ!!」
「そう言うところも愛らしいな」
近づいた距離のままで耳元に囁くように言われると同時に背中にゾワリとしたものが走る。
怖ッッ!!この人怖いよ。
なんでわざわざ近距離で、しかも耳元で囁くのよ!!!おかしいでしょ!
普通に言えばいいじゃないですか⁈どうしてそれが出来ないの??!!泣くよ?恐怖心で
腹黒殿下に捕まりました。
急募:殿下から助けてくれる方




