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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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姉妹と本

 あれから数日が過ぎ、私は毎日庭でエリオットのお手伝いをしている。

 お父さまやお母さまに植物について学んでいるという話をした時には結構驚かれたけれどガーナ公爵家は使用人だからと言って下に見たり蔑んだりすることはない。むしろ一人の人として彼らを尊重している。故に驚かれはすれどあっさりと了承を得れた。

 まぁ3日目にデイドレスを泥だらけにした時はお母さまとロゼ姉さま、ヴィオの3人にすっごく怒られたけれど…

公爵令嬢がドレスを汚すなんて!とか、人に見られたらどうするの?!もっと優雅さを―とさんざん言われました。

 でも、庭仕事なんだからドレス汚れるのは当たり前じゃない?って愚痴をエリオットに溢せば「動きやすい格好したらいいんじゃないの?」と助言をもらった。むしろなぜ今まで気が付かなかったのかしら?

そうして今日もズボンにシャツというラフな格好に着替えて庭へ向かう。


「♪~」

「楽しそうですねお嬢様」

「うん!土いじりって楽しいよ」


 振り返った私にヴィオとレットは困ったような呆れた様な表情をする。


「公爵令嬢が土いじりで喜ぶ‥‥か」

「本当にこれでいいのかしら?」


 それぞれが何か言ったようだがそれはリズビアの耳には届かない。

 それよりもリズビアは渡り廊下で淡い黄色のデイドレスを纏った少女を見つけ、その子―妹・シルビア―に手を振る。


「シル!こんにちは。今日はお部屋から出ていたのね」

「!お、お姉さまごきげんよう。はい。今日は天気がいいので部屋から出てみようと…」


 チラッとシルビアはリズビアを見た後すぐに視線を逸らす。

リズビアとしては唯一家族内でシルビアだけが視線をまともに交わせる相手なのだが。


「そうよね、天気いいから部屋にいるのはもったいないわ」

「は、はい」


 シルビアは後ろ手にそっと何かを隠したのをリズビアはすかさず尋ねる。


「何を持っているの?」

「あ、あの、こ、これは—」

「テイレームの冒険章の本でございます。リズビア様」


 シルビアの代わりに答えたのはシルビアの側付きゴッテルだった。


「テイレームの冒険章…面白いの?」

「はい。私はとても面白いと思っております」


 シルビアが嬉しそうに微笑む。さすが私の妹。すごくかわいい。伏せた瞼から覗く空色の瞳がとても可憐でザ・公爵令嬢って感じがする。どっかの誰かとは大違いね


「その本を持っているってことは庭で読書を?」

「いいえ、シルビア様は図書室に行ってその本の続きをお借りになるのです。リズビア様はご本などお読みにならないでしょう?」


 ゴッテルがなかなか棘のある言い方をするが仕方ない。事実教科書以外の本って読んだ記憶ないもの。本を読むぐらいなら前はドレスや宝石を強請ってたもの。そう考えたらほんと私役立たず過ぎない?

生まれて贅沢ばっかりして学園に入って婚約破棄されて、婚約者に刃物むけて、公爵家の名をさんざん汚して‥‥どうしようもなさ過ぎて救いようがないわ。


「お、お姉さま?」


 シルビアの呼びかけでハッとする。いけない、いけない思考の沼に嵌まっていたわ。


「なんでもないわ。ただ…私も本には興味があるからシルビアのおすすめを教えてくれないかしら?」

「「「「えっ??」」」」


 何故驚きの声が4人分聞こえたのかはこの際聞かないけれども。後ろの2人は失礼じゃなくて?


「それに図書室はあんまり行ったことがないからシルビアの方がきっと詳しいと思うの。だから案内してくれない?」

「わ、分かりました」


 私が図書室に行ったのはあんまりどころか1、2回でしかないけどね。正しくは全然行ってないだけどここは気にしないわ!


「そうゆうことだからレットはエリオットに少し遅れて行くって伝えておいて」

「かしこまりました」

 

 レットと別れてシル達と一緒に図書室へ向かう。

 

 正直に言おう。シルビアと一緒に来ててよかったぁ~

 絶対一人じゃこの膨大な本の中から読みたい本を探せる自信ないもん。さすが公爵家。本の数もシルビア曰く4万冊以上あるらしい。

絵本から哲学書、歴史書、論文、小説などなど何でもあるそうだ。


「こんなにあったのねぇ~」

「私が読んでいたテイレームの冒険シリーズはこの書棚にございます」

「この書棚は小説が多いの?」

「そうですね。私達が読みやすい小説はこの書棚にあるかと」


 シルビアに教えられた書棚から何冊か手に取ってペラペラ捲ってみる。

挿絵が挿入されていてとても読みやすい感じだ。


「ではこのシリーズの一巻を借りようかしら」

「お姉さまも冒険ものはお好きなんですか?」

「う~ん。どうなんだろう?今まで読んだことないから好きかは分からない」

「そ、そうなんですね」


 シルビアは気まずそうに目線を逸らす。あまりにも逸らされる回数が多くてそろそろお姉さまは心がくじけそうですよ、シルちゃん。


「でも、これなら読める気がするし面白そうだもの」

「どうしてですか?」


 シルビアは頭を傾げる。どうしてってそれは―


「シルビアがこの小説の話をするときはとても楽しそうにしているからとっても面白いんだなって伝わるもの」


 笑いかければシルビアは空色の瞳が零れ落ちるんじゃないかというぐらいに瞳を見開いて驚く。そんなに驚くことなのか…

 あとはこの本以外に短編物も借りたい。暇つぶしにいい気がするし。

あ、植物図鑑とかもいいかも。エリオットに褒めてもらえるかもだし…

考えれば考えるほど読みたい本が頭の中に浮かぶ。

 なぜ今まで私は図書室を利用しなかったのか。答えは馬鹿だからです。

うわぁん。読みたい本が多すぎるよ~


「お姉さまは変わられましたね…」

「ふぇ?」

「昔、お姉さまは私のことがお嫌いなんだと思っていました」

「‥‥」


 熱が出る前の私とシルビアの関係…。私が一方的にシルを嫌っていて話しかけられても無視、シルが持っているものを汚したり奪ったり。そりゃシルビアに怖がられますよ。

なにやってんだ私。


「でも今は嫌っているのではないと分かります」


 困ったように笑うシルビアに胸がギュッと締め付けられる。どうしてこの子をいじめていたのか。前の私を殴れるなら殴ってやりたい。


「シル、今までごめんなさい。私のやってきたことは家族としても、姉妹としても、人として許されることではなかったと思う。でも、もし可能なら許してほしいわ」


 シルビアに向かって真っすぐに頭を下げる。

 貴族令嬢が簡単に頭を下げてはいけないとマナーの授業で学んだが、心から詫びるときに身分や立場なんて関係ないはずよ。だって許しを請いたいのなら誠意を見せなくてはいけないのだから。


「お姉さま!お顔をお上げください!!」

「やだ」

「え?!」

「シルが許してくれるまで何度だって頭を下げるわ」

「貴族令嬢が頭を下げるなんて―」

「これが私の誠意の表し方だから」


 一度頭を上げ、シルビアを見つめる。


「今までのことから私の謝罪が口先だけの謝罪だとか思われるかもしれない。でもそう思ってほしくない。だから頭を下げて誠意を見せるの」

「だからと言ってここまで」


 シルビアの眼には信じられないものが映っているのだろう。まぁ反省はしています。

生まれて5年間無駄に我が儘を貫いていたわけではないので。もう二度としないけど


「だって私シルビアと仲直り?違うか。うーんなんていうのかわかんないけど今までのことをなかったことにはできないけど、これからはシルビアのこともっとよく知りたいもの。好きなことや嫌いなことそういうものを知って共有して仲良くなりたいの」


 だって私達は同じ日に生まれた特別な姉妹なんだから―


「…私はお姉さまに怒ってはいません。確かに怖いと思ったことはありますが一度も怒ったことはありません。ですから謝罪は不要ですが、謝罪を受け取らなければ気が済まないのでしたら受け入れます」

「シル‥」

「私ももっとリズビア・ガーナ(あなた)について知りたいです。だから教えてください」

「もちろん!ありがとう、シル。大好きよ」

「私は―」


 嬉しさのあまりいきなり抱き着いた私はシルビアがなんと言ったのかは聞き取れなかったけれど、仲直りが出来て(?)よかった。

 そのあと一緒に手を繋いで図書室を出たらヴィオとゴッテルにすごく驚かれた。それを2人で笑えるくらいには仲良くなれたんだと思う。


 今日はシルと仲良くなれたし、図書室の場所も知れたし、本もゲットできたしいい日だったわ。


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