白亜館に響く声
少し短めです
これは公爵領で起きたものだ。詳細を知るにはリズビアの力がいるのだ。
そのため私にわざわざ話を振ったのだから
まっすぐにビンズを見つめる。
ビンズは逡巡した後にアローへ助けを求めるが、アローは首を振る。
「…わかった、話すよ。その人は5日前に『甘木屋』に泊まっていた。グランビア公爵領から来たらしくて一人だったけどすぐに常連さん達と話して盛り上がっていたよ。ただ、うちの領地の話って言っても自慢をしていたらその人がグランビア公爵家には大きな秘密があるらしくてそれがばれたらやばいんだって話をしていた。もちろんなんでそんなの知ってるのかとか聞いたけど酒に酔ってて話の内容は支離滅裂」
ああそういうお客さんの話は信憑性が薄いから基本みんな聞き流すのよね。
だって一々真に受けていたら体がもたないもの。
「案の定、次の日は二日酔いでハンナのところで酔い止めの薬を買ってたんだよね」
「ええ。それは事実よ。うちのおじいちゃんが対応したの」
ハンナはその時を思い出したのかとても渋い顔をする。
「凄くお酒臭くて私は嫌だったからあまり近づいてないわ」
「その話を―酒を飲んでいた日から2日後に変死体で見つかった」
「見つかった場所は?」
レットがすかさず聞く。
場所を知ることでその本人の足取りが掴みやすくなったりするものだとおじいさまに教えてもらった。
「ショカン通りの裏路地だってさ」
ショカン通り…表通りから離れている。裏路地に部類される。治安は他領に比べて良いほうだと言われる我が領でも酔っ払いとかのいざこざが0ではない。そういうのがよくある場所が裏路地だ。
もっと言うなら裏路地の細道だ。
裏路地でも穏やかな場所は穏やかだ。それでも裏路地の一本奥。細道に入れば何が起こるかは分かったものではない。
「現状の判断は?」
「変死体なんてめったに出るもんじゃないから事件性ありって判断で動いてるが、情報がないからおそらくは」
深層は闇の中に消えることだろう。
ただ、ビンズは気にしている。
「…ビンズまだ話してないことがあるよね?」
「……」
「それがビンズがここまでこの話を気にかけている答えでしょう?」
ビンズは何も答えない。
それでも聞かなくてはリズビアの力を使うことはできない。
私が首を突っ込むということはそれなりのリスクも考えなくては動けないのだから
「それは―」
「それはグランビア公爵家の情報が一切出回ってなかったからだよ」
優しい声音がビンズの声を遮る。
紺色の髪を少し短く切りそろえ、優し気に笑いかける人が入り口に立っていた。
「エリオット…」
「おかえり、リビア」
「うん。ただいま」
少し背が伸びたエリオットが距離をつめて優しい手で頭を撫でてくれる。
「ビンズはね、今まで一度も現公爵になってから情報が何一つ出回ってないグランビア公爵家の噂が流れた途端に流した相手が変死を遂げた。それが情報を見聞きする立場だと引っかかりがすごいんだって。それにね、その人がこうも言っていたんだって―――『もうすぐすべてが整う』――って」
『もうすぐすべてが整う』?
何が整うというのか。いや、それよりもどうして
「それをいつ聞いたの?」
ビンズの話ではその人は酒に酔っていたのだ。大金などの話にしろ誰も本気にしてはいなかっただろう。その話はいつ聞いたのか
「酒場でお開きになった時にその人は確かに酔っていたよ。寝落ちしそうなところを僕が声かけたんだ。そしたらそうやって言われた」
「聞き返さなかったのですか?」
ヴィオが静かに尋ねる。
「聞き返したよ。そしたら『白が色づきすべてを染める。そうすればすべてが整う。すべてが終わる』って」
…まるで
「意味わからない呪文みたいでしょ?」
ハンナが私の心の中を読み取るように口に出す。
「それをビンズは気にしてるんだって。リビア達からそれとなくお嬢様に伝えて少しだけ調べるように言ってもらえない?そこまで気にしてほしいわけじゃないけどビンズが気にしっぱなしだからさ」
「わかった。お嬢さまにはそれとなく伝えてみるけど、どこまで情報をもらえるかはわかんないよ」
「それは承知の上だ」
アローが書類と睨めっこをしながら口を開く。
つまるところそれほど期待はしていないと。何もせずに終わるのにはモヤモヤするから手を尽くそうってことなのか
「ところでさ、リビアは仕事しなくて大丈夫?」
「え?」
レットの声に振り向けば、なんと2人は話しながら自分たちの仕事を着々とこなしていた。
さすが私の従者と侍女。仕事が早いね!
って、そうじゃなくて!!
「なんで2人とも黙ってやってるの!?」
「話しながらやってましたよ?」
「そうだけどそうじゃない!!」
絶対分かってるでしょ、ヴィオ
「さてさて、おチビちゃんは1ヵ月半の仕事をちゃっちゃと終わらせなよ?」
ファイシャに促されて、執務室に備え付けられた自分の席を見る。
そこは白い白い壁が…
「馬鹿じゃないの」
もう、机全体囲われるレベルの書類書類書類
え?君らどうやって書類整理してるのさ
「ファイト~」
「頑張れ」
「早く終わらせた方がいいわよ」
「まだ増えるからな」
「ああ確か右手側が会頭宛て書類、左手側が整理用の書類と契約書の修正案だったはず」
ビンズ、ベイク、ハンナ、ファイシャ、エリオットの順で好き勝手なんか言っている。
どうして、ここまで書類を溜めるのだ!!
アローを恨めし気に見やればハッと鼻で笑われた。
「ッばっかじゃないの!!!!!!!!!!」
白亜館からとある少女の声が響く。
これが1ヵ月に一度の恒例行事と認識されているのを知らぬは本人だけである。
本人が知らないうちに周りに周知されてることってありますよね。
分かります。私も学校でそれだったから




